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とどまるところを知らない上野洋子の音楽的ヴァイタリティー


CD 『YK20』  上野洋子

昨年デビュー20周年を迎えた上野洋子(http://www.uenoyoko.com/)。

一般的な知名度はそれほど高くないのかもしれませんが、名前を知らなくとも彼女が手がけたCMや映画の音楽を耳にしたことがある人は、かなりの数にのぼるはずです。

「自分がフロントに立つよりも裏方にまわるほうが好き」と発言している彼女ですが、「20周年につき初ソロ」というコピーを携えて、昨年12月に大阪(8日)と東京(10日)でソロ・コンサートを行ないました。

僕は東京公演に足を運びましたが、キャリアの出発点であるザバダック(ZABADAK)から最新のソロ・プロジェクトである*(アスタリスク)はもちろん、上野洋子が作・編曲からプロデュースまでを手がけている折笠富美子への提供曲や映画『小さき勇者たち ─ガメラ』の音楽までも含むセット・リストは、まさに彼女の集大成と言えるもの。

その模様は4月に発売されたCD『YK20』と同タイトルのDVDで追体験できますので、興味をもたれた方や当日見逃してしまった方はぜひ!

さて、ザバダックを93年に離れてソロになってからも数多くのプロジェクトに参加されている上野洋子さんですが、今年に入ってからも多岐にわたる音楽活動を続けています。

1月には自身もメンバーである女性5人のユニット、マーシュ・マロウ(Marsh-Mallow:http://candy.45.kg/marsh/index.html)のライヴ、2月には音楽と詩の朗読による「詩の廃墟/音楽の散乱」で高橋悠治、AYUO親子(同じステージに立つのはほぼ20年ぶりだとか…)と共演、4月には銀座の山野楽器で先のライヴCD発売記念イベント、5月にはメトロトロン・レコーズ20周年記念イベントの一つである「鈴木博文と女たち」に参加、そして6月にはスウェーデン出身の笛吹き名人、ヨーラン・モンソンとの共演。

僕が足を運んだものだけでもこれだけヴァラエティに富みますが、ほかにもアイリッシュ・ハープ奏者、生山早弥香のコンサートや、キーボーディスト、難波弘之のメモリアル・ライヴに参加したりと、普通のミュージシャンでは対応できないほどの多様な音楽性を発揮しています。

この全方位ともいえる音楽性が上野洋子の特長だと思いますが、それでいて音楽が頭デッカチなものにはならず、彼女が作る曲には常に魅力的なメロディ(ときに叙情的であり、ときに牧歌的であり)が溢れているということは特筆すべきことでしょう。

ただ、マーシュ・マロウや「詩の廃墟/音楽の散乱」のように、どちらかといえば現代音楽のテイストが強いものに関しては、人によってはとっつきにくいかもしれません。ですが、彼女の音楽を聴いて「なんて難解な…」と感じる人は少ないように思います。

その要因としては、これはファンの多くが感じていることでしょうが、上野洋子の歌声そのものに人を惹きつける魅力があることが挙げられます。もともと透明感のある歌声には定評のあった彼女ですが、ザバダック時代はそれゆえに、ときに無菌的にも感じられるきらいがありました。ですが、最近では透明感はそのままに歌に凄みが加わってきたように思います。

一言で表現するなら「クールな情念」とでも言いましょうか。ところが、上野洋子自身にとっては、「裏方にまわるほうが好き」と言うだけあって「歌手」としてのプライオリティはあまり高くないようで、これは非常にもったいないことだと僕は思います。

数多くの楽器(いったい彼女の自宅にはいくつの楽器があるのでしょう?)を担当しながら歌うわけですから、多少の割引は必要ですが、昨年末のライヴを改めてCDで聴くと、演奏面の充実度に比べてヴォーカルでは気にならないところがないではありません。

CDを聴きながら、ひょっとしたら、歌手としての魅力にもっとも気づいていないのは上野洋子本人なのではないか?という思いがよぎり、少し残念に思いました。

松山ケンイチ主演で話題の映画『ドルフィンブルー』(http://www.dolphin-blue.com/)も映画音楽を担当されているのは上野洋子さんで、サントラのCDも今月発売になったばかりです。

○Dolphin Blue Fuji Trailer(YouTube映像) 01:33  
http://www.youtube.com/watch?v=m0_Whrz2rK8


今後の活動としては、9月21日にギタリストの今堀恒雄とのインプロヴィゼーション・セッション(@大泉学園のin F)が控えています。僕は、今堀さんがかつて率いていたティポグラフィカのライヴが新宿ピットインで行なわれるときは、皆勤賞目指して会場に足を運んでいたので、この組合せは絶対に見逃せません! もう今から、どんな即興が繰り広げられるのかが楽しみでワクワクします!


■関連情報

○Diaries of Ghosts 「YK20 ─visual─」 2007/05/03
http://sea.ap.teacup.com/sleeper/211.html


○屋上愛好会:indigo blueな空を眺めて 2007/04/30
上野洋子 asterisk「YK20」─20周年につき初ソロ 発売記念 ミニ・ライブ&トーク・
サイン会/07.04.29 at 山野楽器JamSpot  
http://blog.so-net.ne.jp/indigo-blue/2007-04-30-1


○pvo不定期日記ver1.002(謎) 2007/04/03
 「YK20」20周年につき初ソロ[audio]/上野洋子(asterisk)
http://dancadas.blog44.fc2.com/blog-entry-85.html


○美徳の不幸 「ちょっとくせがあるけど」 2006/12/12
http://d.hatena.ne.jp/t-kawase/20061212/p1


○川瀬のみやこ物語 episode2 
 「上野洋子ソロライブ@Rain Dogs」 2006/12/08
http://takayak.moe-nifty.com/episode2/2006/12/rain_dogs_bc38.html


○うさこっこ日和 「上野洋子20周年ライブ」 2006/12/08
http://usakokko.blog56.fc2.com/blog-entry-150.html


○関心空間 「上野洋子」 2003/02/07
http://www.kanshin.com/keyword/74421


○遠い音楽 マーシュ・マロウ「心機一転」 2006/09/21
http://worzel.blog22.fc2.com/blog-entry-448.html


○現代パフォーミングアーツ入門 2005/12/10
 「今堀恒雄Unbeltipo Trioによる音楽の実験場としての新宿ピットイン、そこに参加する快楽」
http://cparts.txt-nifty.com/cparts/2005/12/unbeltipo_trio_bd56.html

 


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