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マンガ(漫画)雑誌の衰退と電子出版、海外展開の躍進

マンガ(漫画)市場で大きな変化が起こっている。90年代後半から、マンガ雑誌の発行部数が減り続けているのだ。消費者の嗜好がケータイなどに分散していることや、マンガ市場において雑誌よりも単行本が好まれるようになったことが背景にある。

だがマンガ雑誌が衰退すると、マンガ文化が多様性を失うだけでなく新人漫画家が育たなくなる可能性もある。そこでマンガ雑誌の中には、電子出版に活路を見いだしたり、海外などの新市場に挑戦する媒体も現れた。

実は最近、マンガ雑誌の部数減少を印象づける休刊劇が相次いだ。例えば今年6月には「月刊少年ジャンプ」(集英社)が休刊した。同誌の発行部数は全盛期の89年で約140万部だったが、今年は約38万部にまで減少していた。また講談社は児童向け月刊誌「コミックボンボン」を、11月発売の12月号を最後に休刊することを発表している。

この現象はマンガ雑誌全体に共通するものだ。もちろん三大週刊誌の「週刊少年ジャンプ」(集英社)、「週刊少年マガジン」(講談社)、「週刊少年サンデー」(小学館)も例外ではない。例えばジャンプの場合、最盛期の1994年には発行部数約650万部を記録したが、今年は約284万部になってしまった。

もちろん部数の減少が、連載作品のレベル低下を意味するのではない。確かにジャンプの発行部数が激減した96─97年には、人気連載の『ドラゴンボール』や『スラムダンク』などが相次いで終了したため、「部数の減少は人気連載がなくなったため」とする認識も広まっていた。ところが近年は、同誌から「単行本だけで」ヒットを飛ばす連載作品が登場している。例えば『ワンピース(ONE PIECE)』の最新刊は約240万部も売れているのに、ジャンプの部数は増えていない。

実際、マンガ読者の興味は雑誌から単行本へシフトしている。2005年にはマンガ雑誌の販売額(2,421億円)をマンガ単行本の販売額(2,602億円)が上回る逆転現象も起こった。最近のマンガは物語がより複雑化している。これを十分に楽しむには、雑誌の連載で読むよりも、単行本でじっくりと読むほうが良い。

マンガ雑誌が苦戦する要因はこれだけではない。関係者の多くは「消費者の嗜好が多様化した」ことも指摘する。例えばマンガ文化の周辺では、ゲームやライトノベルなどの新興市場の存在感が増した。またマンガ文化の外側に目を向けると、ネットやケータイの普及が挙げられる。実際マンガ雑誌の衰退が始まった90年代後半は、ネットとケータイの普及期にあたる。

だがこのような「単行本頼りのビジネスモデル」が、マンガ産業の存続を危うくする可能性もある。第一に、読者の人気が売れている単行本に集中してしまう。マンガ雑誌が衰退すると、その分だけ多様な作品を紹介する場もなくなってしまうのだ。また第二に、新人の育成にも悪影響を与える。ふつう新人漫画家は、雑誌での連載を通じて実力や人気を獲得するのだが、雑誌が衰退すればその場もなくなる。

そこで、マンガ雑誌の中には新機軸を打ち出すところも出てきた。中でも最も期待されているのは電子出版の分野だ。電子出版の市場規模は2005年から2006年にかけて約100億円から約280億円に急増しており、このうちコミック配信市場が約190億円を占めている(シード・プランニング調べ)。

マンガ作品の配信方法にはパソコン向けとケータイ向けの二種類がある。パソコン向け(ウェブコミック)では「ミチャオ!」(講談社)、「コミックシード」(双葉社)などの無料サービスが始まった。いずれも「実際の雑誌をめくるような操作感覚」で、最新のオリジナル作品を楽しめる。

一方、ケータイ向けの分野では「コミックi」(NTTソルマーレ)などの定額制サービスが始まった。こちらは旧作の再利用が多い。これらの作品を、ケータイの小さな画面で読みやすいよう「コマ毎に分けて」表示する。コマを移動する際に、効果的なアニメーションや音を加える場合もある。

これとは逆に「印刷媒体としてのマンガ雑誌」を新市場に送り出す動きもある。例えば海外展開だ。米国では少年誌「SHONEN JUMP」や少女誌「SHOJO BEAT」が、ドイツでは少年誌「BANZAI!」などが発行されている。販売部数が伸び悩むなどの問題は抱えているが、その将来性が期待されている。

さらには国内でも新市場の開拓が盛んだ。例えば首都圏では、今年1月から日本初の無料マンガ雑誌「コミック・ガンボ」(デジマ)の配布が始まった。人気のフリーペーパー市場にマンガを持ち込んだ形だ。また吉本興業は今年6月に「コミックヨシモト」を創刊。異業種の参入として話題になった。また昨年創刊したキレイ系オタク女性誌「Beth」(講談社)や、今年5月に創刊した男性向け少女誌「コミックエール!」(芳文社)などのように、新しい読者層を開拓する雑誌もある。

マンガ業界は、現在、ビジネスモデルの大変革期にさしかかっている。単行本ビジネスに軸足を移しつつ、産業の屋台骨となる「作品の多様性」をどのように確保していくのか。そしてそれを実現する上で、マンガ雑誌がどのような役割を果たしていくのかに注目したい。

 

■関連情報

○「最後通牒」─漫画雑誌・発行部数の比較 2005年
http://www10.ocn.ne.jp/~comic/hikaku.htm

○マーケットリサーチ・市場調査とコンサルティングのシード・プランニング
─ 日本のコミック配信ビジネスと対応機器の市場動向を調査
http://www.seedplanning.co.jp/press/2007/0615.html

○ジェトロ ─産業レポート 日本の出版産業の動向 (2006年10月)
http://www.jetro.go.jp/jpn/reports/05001297

○社団法人 日本雑誌協会「JMPAマガジンデータ」
http://www.j-magazine.or.jp/data_001/index.html


○まんたんウェブ 2007/07/17
 「講談社:『コミックボンボン』休刊へ 来春に新雑誌創刊」
http://mantanweb.mainichi.co.jp/web/2007/07/post_1194.html

○GIGAZINE  2007/05/15
 男の子向け少女マンガ誌「コミックエール!」が創刊
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070515_comic_yell/

○漫棚通信ブログ版 「マンガ雑誌の将来」 2007/04/09
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_4d70.html

○MarkeZine  2007/03/21
  新潮社がデジタルコミック誌「コム・コム」を創刊、海外展開も視野に
http://markezine.jp/a/article/aid/929.aspx

○ITmedia News 2007/04/02
 「1冊100円で24時間 電子漫画本レンタルサービス」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/02/news080.html

○ITmedia News 2007/03/13
 世界を席巻する「MANGA」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/13/news049.html

○ITmedia News  2007/02/23
 「月刊少年ジャンプ休刊…出版不況に勝てず」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0702/23/news086.html

○Garbagenews.com 2007/05/30
  「電子書籍・コミックをダウンロードしたことがある」は4割強
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/05/4_36.html

○Garbagenews.com 2006/12/30
 「ケータイ+漫画=新しいニーズ!? 急増する電子書籍をひも解く」
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2006/12/post_1782.html

○BCNランキング 2006/12/27
 「ケータイで読むマンガや小説、写真集、急増する電子書籍とは?」
http://bcnranking.jp/news/0612/061227_6446.html

○アニメ!アニメ! 2006/10/27
 「05年 マンガ単行本販売過去最高 雑誌は縮小」
http://animeanime.jp/news/archives/2006/10/2005_1027.html

○アニメ!アニメ! 2005/08/03
 「マンガ市場9年連続減少 出版市場は反転」
http://anime.blogzine.jp/animeanime/2005/08/post_2a14.html

○CNET  2006/09/12
  漫画を通じて日本人の「感性」を発信--イーブックら、電子書籍の海外配信を開始
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20231588,00.htm

○一般人無双R 「漫画誌衰退を考える」 2005/05/09
http://bsg.to/mt/archives/200505/2005-05-09T02:11.shtml


○MediaSabor 2007/07/16
  「コスプレイヤーを取り巻くビジネスシーン:Vol.1 
   ─アニメエキスポ(Anime-Expo)2007 現地取材」
http://mediasabor.jp/2007/07/vol1animeexpo2007.html

○MediaSabor  2007/07/12
 「日本を夢見るフランスのコスプレイヤーたち 
   ─ジャパン・エキスポ(Japan Expo)2007 現地取材」
http://mediasabor.jp/2007/07/2007japan_expo_2007.html

○MediaSabor 2007/06/14
 「マンガ(漫画)消費大国フランスでコスプレ人気ブレイクの予感」 
http://mediasabor.jp/2007/06/post_128.html

○MediaSabor 2007/05/29
  「僕らのマエストロ、ゴー・ナガイ(永井豪)がやってきた」
http://mediasabor.jp/2007/05/post_112.html

 

 


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