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企業を法令違反から守る4つの経営指針 ─コンプライアンス浸透のために

  • ジャーナリスト、雑誌オルタナ編集長
  • 森 摂

今年6月に世間の耳目を集めたミートホープ社(北海道 苫小牧市)のニセ牛肉事件だけでなく、企業の法令違反が日々、マスコミをにぎわせている。08年度決算から日本版SOX法が全上場会社などに適用されることになり、企業は法令順守が一層求められることになった。

方策として内部統制の強化、会計監査の見直し、社外取締役の充実などを挙げる学識経験者が多いが、筆者はむしろ、「不祥事を起こさないための企業風土づくり」が重要と考える。

日本版SOX法の元になった米サーベンス・オクスリー法(企業改革法)は、エンロン事件やワールドコム事件などを受け、02年に米国で成立した。日本でも企業不祥事の多発を背景に、日本版SOX法が2006年6月に成立した。

同法では業務の流れをフローチャートなどで誰でも分かるように文書化し、正確な財務諸表を作成できているかを経営者が判断。外部の監査法人のチェックを経て内部統制報告書として公表する。期末日までに改善できない不備の事例などは、その内容と是正できない理由を記載するという。

06年4月には公益通報者保護法が施行され、企業の法令違反などについて内部告発者が保護されることになった。

インターネットの普及で、メールや掲示板、ブログで個人が情報を発信しやすくなったことに加え、企業の終身雇用制度が崩壊しつつあり、以前と比べて内部告発は起きやすくなっているようだ。

英国では「公益開示法」(1998年)、米国では「内部告発者保護法」などの法整備がされているが、これに加えて、米国ではウェブサイトを使って会員企業の内部告発を受け付け、検証し、経営者に伝えるサービスも普及している。

日本でも三菱自動車工業のリコール隠し、ミートホープの不正牛肉、雪印食品による偽装牛肉、不二家の賞味期限切れ菓子の販売など、不祥事のほとんどが内部告発によるものだ。

公益通報者保護法に対しては、「内部告発者を本当に保護できていない」「マスコミへの不正通報者への規定を必要以上に厳しくしている」などの批判がある。公益通報者保護法施行直後の06年6月に発覚した「大阪トヨペット」(大阪市福島区)の不正販売事件では、不正を通報した社員を同社が自宅待機にするなど、告発者の不利益は完全に解消されていない。

日本版SOX法や公益通報者保護法が適切に運用されるのはもちろんだが、企業にとっては、まず「不祥事を起こさないための企業風土づくり」が何よりも重要だろう。そこには少なくとも4つのポイントがある。


1)プライドの醸成 
 
社員が誇りを持って仕事に携わることができれば、不正に対して敏感でいられる。プライドは、企業の「ブランド」を支える大きな要素でもある。誇りをもって商品をつくり、自信を顧客に説明し、顧客と感動を共有する。ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)やメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)などの例を出すまでもなく、強いブランドを築いた企業に不祥事は少ない。


2)ミッションの共有

現場のスタッフが納得して仕事をするためには、その会社の存在理由は何か、経営者が何を目指しているのか――を明文化するべきである。米国では企業だけではなく、ハーバード大学などの教育機関、NASAなどの政府機関までもがミッション(使命)ステートメントを掲げている。


3)顧客より社員を大事にする

ES(従業員満足度)はCS(顧客満足度)に勝る――との指摘がある。顧客を満足させるためには、まず従業員を満足させることが必要との考え方だ。風通しの良い職場、良い意味での実力主義、楽しく働けるための仕組みづくりが求められる。


4)社員との距離感の克服

米フォーシーズンズホテルでは「ダイレクトライン」と呼ばれる、支配人と従業員のミーティングが定期的に開かれている。

支配人が現場スタッフを集め、職場での問題点、改善すべき点などを徹底的にヒアリングする。ただ聞くだけではなく、一つ一つの問題提起に必ず回答し、実現できるように努める。これは、経営者と社員の距離感を縮め、一体感を持たせるために有効な仕組みである。


企業間ではグローバル競争が激化し、苛烈なコストカットが要求されるため、顧客の安全・健康などを軽視する企業行動が起きやすくなっている。従業員の忠誠が以前ほど期待できない時代に入った今、経営者は、現場の問題点を抽出し、是正することに一層敏感になる必要がある。それが実現できて初めて、ブランドが醸成され、永続的な企業運営が実現できる。

 


■関連情報


<コンプライアンス(法令遵守)>

○MediaSabor  2007/07/30
 「経営者のコンプライアンス(法令遵守)軽視が招く経営破綻」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_170.html


○夕刊フジBLOG 「上司のせいで犯罪者になるケース多発」 2006/09/07
http://www.yukan-fuji.com/archives/2006/09/post_6814.html


○内田樹の研究室 「不二家」化する日本 2007/01/16
http://blog.tatsuru.com/2007/01/16_0948.php


○日経BP社/SAFETY JAPAN [特集]  2006/09/15
  郷原 信郎「法令遵守がコンプライアンスではない ─パロマ事件の教訓」
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/special/176/


○ITpro 2007/04/17 
 「法令遵守は情報システムも滅ぼす?,郷原桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長に聞く」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20070411/267995/


○山口浩 H-Yamaguchi.net「『法令遵守』が日本を滅ぼす」2007/03/19
http://www.h-yamaguchi.net/2007/03/post_680b.html


○isologue - by 磯崎哲也事務所 
 不二家と内部統制と「クジャク化」する社会 2007/01/17
http://www.tez.com/blog/archives/000829.html


○アンカテ 「公開できる5W1Hの量が会社の価値を決める」 2007/04/10
http://d.hatena.ne.jp/essa/20070410/p1


○アンカテ 「本音ベーション(本音+イノベーション)」 2007/04/12
http://d.hatena.ne.jp/essa/20070412/p1


○ビジネス法務の部屋 「最良の企業統治を考える」 2007/07/18
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2007/07/post_a6a8.html

 

<内部告発>

○ITmedia Biz.ID 「内部告発は保護されるのか」 2007/01/12
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0701/12/news005.html


○BigBang 2007/01/08
 「オーマイニュース ─内部通報にあたって実名を推奨するのは時代の趨勢に反する」
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2007/01/post_799b.html


○la_causette 「匿名ならばネットで内部告発をしても安全なのか」 2007/01/10
http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2007/01/post_e10e.html


○ハコフグマン 「内部告発の難しさ」 2007/07/29
http://elmundo.cocolog-nifty.com/elmundo/2007/07/post_dd39.html


○情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士 2007/06/25
  「公益通報者保護法が内部告発防止法あるいは内部告発炙り出し法であることが発覚
  ─ミートホープ事件」
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/8164e4b5d0d36cf3f462681c98fcf055


○イザ! 「ミート社偽装、告発4回見逃す 農水省と道」 2007/07/02
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/60110/


○イザ! 2007/07/17
  不正告発の国連職員解雇 米議員が「報復」と抗議
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/66556

 

<日本版SOX法>

○ZDNet Japan 2006/07/13
「間違いだらけのJ-SOX法議論」に八田氏が喝─ITコンプライアンス・フォーラム2006
http://japan.zdnet.com/news/itm/story/0,2000056188,20170227,00.htm


○日本版SOX法と内部統制 「日本版SOX法まとめ」 2007/04/08
http://sox.269g.net/article/4073699.html


○日本版SOX法の公式発表まとめブログ 2007/02/14
 「そもそも内部統制とは何か?」
http://japanese-sox.269g.net/article/3775770.html

 


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