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ヤフー(Yahoo)のトップ交代劇─セメル氏の功罪とヤン氏への期待度

  • 米国在住ジャーナリスト

インターネット業界の巨人ヤフー(Yahoo)は、6年前に招聘した大物CEOテリー・セメル氏が辞任し、創業者のジェリー・ヤン氏がCEOに就任するトップ人事を発表した。最大のライバルでもある後発のグーグル(Google)に業績で水をあけられていた同社は、新体制で挽回を目指す。

セメルCEO辞任のニュースが報じられたのは米国時間の6月18日。業績低迷の責任を取った辞任との見方が流れた。ヤフー(Yahoo)の株価は2006年初頭と比べて3割下落しており、苦戦が続いていたのは事実。セメル氏が辞任した直後の同社の株価は5%上昇し、市場がトップ交代を歓迎しているようにも受け取れた。ヤフー(Yahoo)の共同創業者ヤンCEOの登場で、業績回復に結びつくのでは、との期待値があったものと見られる。

セメル氏は、それまで6年間ヤフー(Yahoo)のCEOを勤めたティム・コーグル氏に代わり、2001年CEOに就任した。エンタテイメント企業のワーナー・ブラザースを世界最大規模のスタジオへと育て上げた手腕を評価されて、当時伸び盛りのヤフー(Yahoo)がCEOに招いたのだ。

セメル氏は1967年にニューヨーク・シティーカレッジでMBAを取得後、当時まだ規模も小さかったワーナーのセールスマンとして働き始めた。自社で配給する映画リストを携えながら全米の映画館を一軒ずつ回り、映画を売り込む仕事だった。

その後、ディズニー傘下の会社で副社長を経た後、ワーナーに出戻り、パートナーと一緒に売り上げを10倍以上に伸ばした手腕を持つ。手法は一言で言えば多角経営化で、映画だけだった同社に、テレビ、ビデオ、映画館経営、キャラクター販売といった商品を持ち込み、同時に海外進出も積極的に行った。強力なリーダーシップを持つ人物とも呼ばれた。

セメル氏がヤフーのCEOに就任した2001年は、AOLとタイムワーナーが合併した年。巨大メディアとインターネット企業の結びつきで、新時代が訪れるといわれた。ライバル企業のヤフー(Yahoo)も次の一手を大胆に打つ必要に迫られており、セメル氏に白羽の矢が立った。

就任直後に出した手は見事に当たった。オンライン広告の収益拡大、 コンテンツの有料化、ハリウッドとの接近。これらの手法を通じてヤフー(Yahoo)の業績は急改善した。新CEOへの評価は上昇し同社への期待値も同時に上がったが、戦略のつまずきが徐々に始まる。

インターネット分野で急成長を遂げているビデオ共有サービス分野で出遅れ、業界のメインプレーヤー、YouTubeはライバルのグーグル(Google)に買収された。SNSでシェアトップのMySpaceへの検索システムや広告サービスの提供でも、同様にグーグル(Google)に独占契約を結ばれた。

ちなみにセメル氏は、就任翌年の2002年に検索エンジン大手のInktomiを2億3500万ドル(約289億円)で買収しているが、グーグル(Google)の買収話の方は蹴ってしまっている。数十億ドルといわれたグーグル(Google)側からの提示額を高いとしたものだが、いまではグーグル(Google)の時価総額は1450億ドル(17兆8350億円)にまで跳ね上がっている。これはヤフー(Yahoo)の時価総額の3.5倍に相当する額だ。

セメル氏の市場における評価を落とす決定的な出来事となったのが、2006年に7170万ドル(約88億1000万円)の報酬を受け取ったとされること。CEOとはいえ、ヤフー(Yahoo)の業績が低迷する中で、多すぎる額として株主から非難の声が上がった。

今回の辞任はこうした経緯を経て、いまなお経営の建て直しが遅れていることに対して責任を取っての辞任とみられている。前任のティム・コーグル氏も業績低迷を理由に6年間勤めた同社CEOの座を辞任しているから、同じような推移をたどった形になる。

新CEOとなったジェリー・ヤン氏は、10歳のときに台湾からカリフォルニアに渡り、スタンフォード大学で電気工学を専攻。大学の友人デビット・ファイロ氏と一緒にウェブ・ディレクトリサービスを始めたのがヤフーの始まりとなった。

現在38歳のヤン氏はいままでもヤフー(Yahoo)経営陣の一人ではあるが、企業のトップとして手腕を振るった経験はない。そのため、CEOがひとつの職業になるほど経営が極度に専門化されたシリコンバレー式企業で、同氏の手腕を評価することは尚早だ。

だが側近によると、いままでの経験を通じてCEOとしての準備はできているように見えるという。チーフ・ヤフーの肩書きを持っていた前職時代には経営会議に毎日出席することはなかったものの、重要案件には逐一深くかかわり常に細かく意見を述べるなど、ヤフー(Yahoo)の将来を見据えた動きをしていた。

今後は専用オンラインコンテンツに代わり、外部からのコンテンツの集約化に力を注ぐことに関心を抱いているともいわれるが、ヤフー(Yahoo)が行うべき個別の戦略に関してヤン氏が策を立てるのはこれから。

しかし、CEO就任直後から早くも動きがある。6月24日にはチーフ・セールス・オフィサーが辞任し、サーチ部門とディスプレイ・アドバタイジング部門を統合する組織改変を実行。その直前には大学スポーツ情報を扱うRivals.comを買収してヤフー・スポーツの強化に乗り出している。グーグル(Google)追撃に向けた取り組みが早速表面化しているといえそうだ。

 

■関連情報

●CNET 「新たにヤフーのCEOに就任したヤン氏─その手腕は?」2007/06/28
http://japan.cnet.com/special/biz/story/0,2000056932,20351211,00.htm

●日経パソコンオンライン シリコンバレー通信 瀧口範子
「米ヤフーの大企業病」 2007/06/28
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070627/276065/

●IT-Plus 「セメル氏の6年、米ヤフーの戦略を振り返る」2007/06/25
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT0j000026062007

●blog.5jp.net 「ヤフーが Yahoo を飲み込む日」 2007/06/25
http://blog.5jp.net/2007/06/yahoo-japan

●WIRED VISION 2007/06/20
「なぜYahooはGoogleに『負けた』のか」
http://wiredvision.jp/news/200706/2007062020.html

●小飼弾 404 Blog Not Found
「Yahoo!は死にかけているのか?」 2007/04/11
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50806904.html

●ITmedia News 「Yahoo! Go for Mobile 2.0が正式リリース」 2007/06/21
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/21/news018.html

●IBTimes 2007/06/28
「セブンイレブンとヤフーが提携、『Yahoo!オークション』落札品の発送・受取り可能に」
http://jp.ibtimes.com/article/living/070628/9145.html

●メディア・パブ 
「トップ交代の米Yahoo,業界再編成の火種になるのか」 2007/06/20
http://zen.seesaa.net/article/45348706.html

●メディア・パブ 「ヤフーはなぜ行動ターゲティング広告に熱心か」2007/06/28
http://zen.seesaa.net/article/45977662.html

●ITmedia News 2007/06/26
 「ヤフー、『行動×地域or属性』でピンポイントに広告配信」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/26/news072.html

●naoyaのはてなダイヤリー
「大規模サービスを展開する企業が陥るジレンマ」 2005/11/19
http://d.hatena.ne.jp/naoya/20051119/1132378872

●Web担当者Forum 「グーグル? ヤフーで問題ないしという国民気質」2007/02/07
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2007/02/07/815

●memokami 2007/06/28
 「Yahoo! JAPANの日本語処理技術と検索の将来」に参加してきました
http://ideaup.seesaa.net/article/46101028.html

●minako’s blog (株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長 神原弥奈子)
「SEO対策の第一歩は、美しい日本語」 2007/06/28
http://blog.news2u.co.jp/archives/2007/06/28_001655.html

●CNET 2007/06/26
 「ヤフー、モバイル版でコンテンツを指定時刻にケータイに配信する新サービス」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20351615,00.htm

●GIGAZINE「Yahoo! Japanのページビュー数がついに世界第1位に」2007/06/25
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070625_yahoo_japan/

●CNET 2007/06/22
 「Yahoo!検索のブックマーク数表示で何が変わるか ─SEMへの影響は?」
http://blog.japan.cnet.com/takawata/a/2007/06/yahoo_sem.html

●MarkeZine: 2007/04/19
  東国原知事の宮崎県が一番乗り ヤフーの新サービス「Yahoo! 公金支払い」
http://markezine.jp/a/article/aid/1091.aspx

 


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