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アメリカ企業の成果主義は変わるのか? ―企業のメンタルヘルス対策 その2─

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ
  • 菊入 みゆき

<記事要約>

従業員のストレスは、高くつく。医療費などのコストもさることながら、生産性を低下させるリスクはあなどれない。これに気づいた企業が、職場のストレスを根本から絶とうと対策を講じ始めた。

ボストンコンサルティンググループ、IBM、ゴールドマンサックスなど名だたる企業が、業績主義一辺倒の企業風土や仕事の進め方を変える動きをみせている。従業員の働きすぎを阻止する、目標設定を見直す、さらには、従業員の私的な雑用を社内で処理して、週末をゆっくり過ごしてもらおうという試みさえある。

徹底した業績評価で知られるGEでも、社内の風向きに変化の兆しがあるようだ。

(2007年8月6日BUSINESSWEEKより)


<解説>

本サイトの2007/7/31の記事で、アメリカ企業がうつ病(鬱病)に関連して支払う総コストは年間440億ドル(約5兆4千億円)という試算があると伝えた。医療費に加え、欠勤や出勤しても通常の成果を出せないPresenteeismなどの影響を含めた数字だ。別な調査では、企業が従業員のメンタルヘルス問題に支払っている総コストは、医療費などの目に見える金額のおよそ4倍であるとしている。

いかに業績主義のアメリカ企業でも、いや、だからこそというべきか、従業員のストレスが生産性や収益を低下させる危険性に目を向け始めた。いくつかの企業が、根本的な解決に乗り出している。

例えば、ボストンコンサルティンググループ。入社して1年足らずのある従業員が、社内のチェックにひっかかった。「働きすぎ」というルール違反を犯したのだ。彼は、週60時間勤務を1ヵ月半続けていた。即刻、彼のオーバーワーク解消プランが開始される。チームに二人の新メンバーが投入され、上司がメンバーの仕事量を調整、仕事の優先順位を決め、一人一人が明確な目標を持つようにした。「働きすぎ」た従業員は、こう語っている。「楽になりました。それに、長時間労働をすればいいわけじゃなく、大事なのは顧客の役に立つかどうかだということが再確認できました」

これは、確かにストレスの根を絶つ方法だ。スタンフォード大学ビジネススクールで組織行動を教えるフェファー氏も、「一時しのぎの解決法ではなく、問題の源を取り除くほうが、ずっと効果的です」と語る。

GE社でさえ、これに似た動きが出ている。同社はジャック・ウェルチ氏がCEOだった時代(1981─2001年)に、RANK&YANKという評価法を導入した。20/70/10の法則と呼ばれるこのシステムでは、従業員を業績別にランキングし、上位20%を賞賛・厚遇し、低位10%に退職を勧告するというものだ。ウェルチ氏は他にも、前年比200%などの達成不可能とも思える高い目標をストレッチゴールとして設定し、発想の転換を促すなど、業績を伸ばすための様々な改革を実行した。在職20年間でGE社を世界に名だたる企業に押し上げ、自らも最強のリーダーという位置づけを獲得した。

しかし、同社は今、高業績者だけがおおいばりという風土を変えようと模索中だ。職場を明るくするためにはコメディアンを招き入れるのも厭わず、業績が低い従業員のことももはや「びり10%」などと呼んだりせず、「効率が劣る」とソフトに表現するなど、気を遣っているのだ。

大手食品メーカーのジェネラルミルズでは、従業員が週末を有効に過ごせるように、プライベートな用事を肩代わりするサービスを始めた。社内の美容師がヘアカラーをしてくれたり、技術者が昼休み中に車のオイル交換をしてくれたりする。

IBMでは、世界中の従業員にオンラインでストレス測定テストを実施し、メンタルヘルス問題の予防に努めている。エール大学設計のテストに15分ほどで回答すると、結果とアクションプランが提供される。曰く、「小さな、達成可能な目標を持ちましょう」「大きな仕事は、小さく分解して実行しましょう」「ストレスの多い状況の中にもユーモアを見つけましょう」など。

上司が部下をどう扱うかも、ストレスにつながる大きな要素だ。

RANK&YANK時代にGE社の社員だったカー氏は、今、ゴールドマンサックス社の管理職教育に携わる。カー氏は言う。「数字やアルファベットでのランキングは、同僚同士の争いの元です」 ゴールドマンサックス社では、マネージャーたちは必要に応じ、部下にふたつのゴールを与える。従業員が達成可能と思えるゴールと、ストレッチゴールだ。

いずれの企業も、従業員にはできるだけ仕事をしてもらいたい、しかしストレスも軽減しなければならない、という二兎を必死で追っている。ようやく経済が持ち直してきたのだから、ほんとうは一気に業績を伸ばしたい。しかし、従業員のメンタルヘルスが・・・、というところだ。この微妙な舵取りこそが、企業の健全な発展のキーになりそうだ。

記事サイト http://www.businessweek.com/magazine/content/07_32/b4045061.htm

 

■関連情報

○MediaSabor(メディアサボール)   2007/07/31
 「アメリカの成人9.5%がうつ病(鬱病)などの感情障害 ─企業のメンタルヘルス対策─」
http://mediasabor.jp/2007/07/95.html


○MediaSabor(メディアサボール) 
「ヨガが鬱病や不安障害にも効能ありとする研究発表」2007/06/21
 http://mediasabor.jp/2007/06/post_136.html


○働く者のメンタルヘルス相談室公式サイト
http://www.mhl.or.jp/index.html


○EnterpriseZine 2007/08/10
 「うつ」を防げ!エンジニアという仕事のストレス構造を理解する
─台頭するメンタルヘルス問題の背景
http://enterprisezine.jp/article/detail/68


○わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
 全上司必読「もし部下がうつになったら」 2007/08/11
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2007/08/post_e220.html


○Sharpのアンシャープ日記
 『仕事中だけ「うつ病」になる人たち』だって?! 2007/04/13
http://d.hatena.ne.jp/SHARP/20070413/p1#c


○ITmedia Biz.ID 「ストレス耐性を知ってメンタフ度を鍛える」 2007/08/14
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0708/14/news002.html


○ITmedia Biz.ID 「実践、気軽にできるオフィスヨガ」 2007/08/22
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0708/18/news001.html


○ITmedia Biz.ID 「私は、私のためにできることをする」 2007/04/04
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0704/04/news032.html


○PALOX ─世界の科学ニュースをイチ早く 2007/07/12
 「怒りや不安を吐き出すとスッキリする理由─脳機能イメージングで解明」
http://palox.jp/?eid=24


○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/06/18
 「企業に広がる心の病 鬱病など7年で1.75倍 ARM調査」
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200706180035a.nwc


○イザ! 2007/05/07
 「虐待親、福祉司にも加害 燃え尽き児相職員続出、職場の約4割で配転・休職」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/50726/


○livedoorニュース 【独女通信】前世を見たがる女たち(前編) 2007/03/15
http://news.livedoor.com/article/detail/3074385/


○FPN  2007/02/01
 「心理ハック─心の凹んだとき、ポンッと元に戻すための3つのやり方─」
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2014


○FPN  2007/06/21
 「成功した人だけが楽しくなれるのか?普通の人は幸福になれないのか?」
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2422


○内田樹の研究室 「心療内科学会にて」 2006/12/03
http://blog.tatsuru.com/2006/12/03_1913.php


○sjs7のブログ 2007/05/16
 「人は人の心を弄ぶ、それが権威によって行われることが問題」
http://d.hatena.ne.jp/sjs7/20070516/1179257919


○かへる日記 2007/05/06
  大変さや弱さを引き受けて生きる、そういう「ただある」が故の生っていうもの
http://d.hatena.ne.jp/ngmkz/20070506/1178457976


○極東ブログ 「鬱とやさしい植物油」 2007/04/18
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/04/post_745a.html


○シロクマ日報 [ITmedia オルタナティブ・ブログ] 
 「メール・シェルター」 2007/08/20
http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2007/08/post_79b0.html


○ただ一つの物語 「うつは充電期間」 2007/04/11
http://life777love.blog98.fc2.com/blog-entry-30.html


○蒼と碧の幻想 「メンヘラと親 」 2007/02/01
http://dorablue.blog51.fc2.com/blog-entry-1122.html

 

 


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