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医者よりも医療情報サイトで得た知識を信じる患者たち

<記事要約>

「病気を自己誤診した患者を安心させるために、約40%の医者は週1日を費やしている」というオーストラリアン・ドクター・マガジンの調査結果が先月発表された。インターネットやテレビの情報がその原因に挙げられている。

ノース・シドニーの一般開業医ドクター・フィッツジェラルドによると、5人に1人の患者が自身の健康状態を誤認しており、「何らかの症状により、生命にかかわる病気だと覚悟している患者を説得するのは大変困難」で、平均診察時間は、20年前の6から10分が、現在は13から15分に延びているという。

一方、ニューキャッスル大学のディミティー・ポンド教授は、「間違った自己診断を下した患者を安心させるために費やす時間は、よりよい情報に通じた患者を持つための小さな代償にすぎない」と述べた。

2007/7/14 Sydney Morning Heraldより


<解説>

ネット社会以前にも、病気の症状や治療方法、治療薬の効能・副作用などについて書籍で調べることができたとはいえ、医療・健康に関する専門的な情報へのアクセスは、昔と比べてはるかに簡便になった。

気になる症状や病名をオンライン検索すれば、軽微なものから深刻なものまで、関連する疾病情報がずらりと出てくるし、医学論文や医療・看護文献だって閲覧することができる。患者側の視点に立った体験談や闘病記、支援グループの活動といった生の声に触れたり、直接顔を合わせることなしに医療専門家や患者団体に具体的な相談や質問ができるのは、双方向の情報化社会ならではの利点といえる。

ありがたいことに病気にはほとんど縁のないわたしが、先日ひょんなことからある検査を受けることになったときも、いったいどんな検査で、どのように行われ、何が分かるのかを事前に調べておくことでちょっぴり安心したように、納得のいく医療サービスを受けたいと思っている人にとって、インターネットで得られる情報や知識は不可欠になりつつある。

昨年10月に、アメリカのPew Internet & American Life Projectが発表した調査レポート「オンライン・ヘルス・サーチ 2006」によると、インターネットユーザーの64%がオンライン上で特定の疾病や健康問題を検索し、51%が治療法や処置を検索したと回答している。

ネット上で得た情報が、治療法を決めるのに影響を与えたと考える人は58%に上る反面、その内容について医師やそのほかの医療専門家と話したのは33%にすぎなかった。情報源や日付を常に確認しているのはたった15%で、75%は裏付けに無関心という傾向も明らかになった。

ネット上に氾濫する玉石混交の情報を自己責任で判断する目を養うことの重要性は、今さら語るまでもない。不特定多数を対象にした日付や出所の分からない情報に基づく素人診断が危険だという意見はもっともだ。

けれど、こと医療情報は生命に関わることでもあるだけに、医師をはじめとする医療従事者はインターネットの弊害を嘆くばかりでなく、その信頼性・客観性を高めるために積極的に関わっていくことも必要ではないだろうか。

健康に不安を感じたり、どの病院に行けばいいのか分からなかったり、診察や検査をためらったり、病気についてもっと知りたいと思っている一般の人々のために必要なのは、規制ではなく、「調べる」というアクションが受診や早期治療、予防医療につながっていくための分かりやすい仕組みづくりだと思う。

情報化社会において、主体的な行動を取り始めた患者と、病気に立ち向かうパートナーである医師がどのように対話を重ね、信頼関係を築いていくかは、大きな課題だ。

 

■関連情報

○Online Health Search 2006(PDFファイル)
http://www.pewinternet.org/pdfs/PIP_Online_Health_2006.pdf


○インターネット上の医療情報の利用の手引き
http://www.jima.or.jp/userguide1.html


○MELIT(メリット):患者のための医療情報リテラシー
http://melit.jp/


○MediaSabor  2007/07/16
 「誰のための医療情報か… 改正医療法を巡る医・官・民の意識の隔たり」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_159.html


○MediaSabor  2007/06/17
 医療現場を叩くだけでは好転しない「医療崩壊」
http://mediasabor.jp/2007/06/post_130.html


○日本病院患者図書館協会
http://www.jhpla.jp/


○医学情報専門検索 医学リファレンスサーチ
http://www.na.rim.or.jp/~nosuke/index.html


○Do-Links  医療・健康情報  
http://www.library.pref.hokkaido.jp/contents/ref.main/jikou_iryou.html


○保健・医療関連インターネットサイトリンク・データベース
http://www.kananet.com/health/3jdata.htm


○リテリス:図書館員によるウェブ医学医療情報リソース選集
http://literis.umin.jp/


○AskDoctors 医師に相談できるQ&Aサイト アスクドクターズ
http://www.askdoctors.jp/public/showTopPage.do?cc=1186562706596522


○医療情報のニュースや資料が入手できるサイト Medical IT Link
http://www.medical-it-link.jp/


○海外勤務健康センター 研究情報部
http://www.johac.rofuku.go.jp/kenkyu/


○プレスリリースブログ 2005/07/20
 「ブログを活用した医療情報リテラシーサイトオープン」
http://www.prblog.biz/archives/2005/07/post_73.html


○ブログ加藤眞三「医療の維新をより良い方向に」 2005/05/01 
http://katos.at.webry.info/200505/article_1.html


○社会問題としての健康と医療を考える 「患者の達人」2006/02/22
http://blog.livedoor.jp/rmat/archives/50338748.html


○東京の図書館をもっとよくする会
 [資料紹介]『朝日新聞』連載「賢い患者術」 2005/01/01
http://motto-library.cocolog-nifty.com/main/2005/01/post_1.html


○東京の図書館をもっとよくする会  2007/06/03
 「医療情報・法情報およびビジネス情報に関わる参考業務のための指針」
http://motto-library.cocolog-nifty.com/main/2007/06/post_8f06.html


○レジデント初期研修用資料 
 「メッセージの担い手としての代替医療」 2007/07/10
http://medt00lz.s59.xrea.com/blog/archives/2007/07/post_513.html


○NATROMの日記 「代替医療は自己責任で」2007/03/15
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20070315#p1


○道標 「医療崩壊 / 見えてきた炎」 2007/06/17
http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2007/06/post_7db0.html


○ITmedia News 2006/06/08
 「ITで健康管理を家庭にシフト─IT・医療企業の団体結成」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0606/08/news005.html


○関心空間 「死の医学」への日記 柳田邦男(著) 2007/06/12
http://www.kanshin.com/keyword/1156794


○オーパス・ワン 「死の医学への日記」柳田邦男 2007/01/15
http://opusone.cocolog-nifty.com/sachi/2007/01/post_7ee0.html

 


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