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ザ・ローリング・ストーンズとコミュニケーション戦略

先日、『政党が操る選挙報道』(鈴木哲夫著/集英社新書)という本を読んでいて、「これと似たような話どこかにあったぞ!」と、デジャ・ヴ感覚を覚えた。

何かと話題のNTT広報部出身の世耕弘成議員を中心とした自民党のコミュニケーション戦略本部(以下、コミ戦)の活動を、テレビ関係者としての批判的な立場から検証した本で、「コミュニケーション」という言葉が使われているが、要はPR戦略。そのコミ戦のメンバーの一人が対テレビ戦略に関して、

「(前略)戦略的に効果的なPRを考えれば、中身より外見だし、必要とあらば、問題の本質にはあえて触れないこともあるだろう。たとえばある候補が、世論の反発を買いそうな持論があるとすれば、今はそれは言わない方がいいとか……。そういう意味では、どうよく映るかということは、好感度ということになるんだろう。厳密にその人を吟味して政策も判断して支持するというのとは違うかもしれない」(同書243ページ)とまで語っているのを読むと、そこまで言うのか!? と唖然としてしまうところがある。

しかしそこで、ちょっと待て! これって、自分がローリング・ストーンズ(THE ROLLING STONES)の最新『ア・ビガー・バン』ツアーの模様を収めたDVD4枚組セット『ザ・ビッゲスト・バン』(http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/rolling_stones/)のライナー・ノーツで書いたことにちょっと似てないか?ということに思い当たった時、ドキッとしてしまった。



そのライナー・ノーツで僕は、ストーンズが今回の世界ツアーを成功させるために、公演地ごとに、その土地の言葉で話しかけたり(これは基本的に彼らが60年代からやっていることだが、今回のDVDでは北海道弁まで登場してビックリ!)、ご当地ソングを演奏したり、またサッカーや野球、アメリカン・フットボールといったスポーツの話題やその応援スタイルまでステージ・パフォーマンスに取り入れたりして、世界各地のオーディエンスとより巧く「コミュニケーション」を図ろうとしていることをポイントとして書いていたからだ。

しかもスポーツの話題の取り入れ方に関しては、翌日の現地のテレビや新聞で、自分たちの公演がより大きく取り上げられ、それが「観客動員」によりつながるようなタイミングを慎重に選んで、記者会見の席や「初日」公演で取り上げられているのだ。

残念ながらDVDには収められなかったが、このツアーでの東京公演初日となった2006年3月22日、東京ドームのステージでミック・ジャガーが、前日のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での日本代表チームの優勝を「日本優勝オメデトウ! 10対6。すごい!」と日本語で祝福してみせたことも、そのひとつの例だった。

当然、翌日のスポーツ紙には「ミックも祝福!」という見出しが大きく踊り、それがテレビのワイドショーなどでも取り上げられていたことをご記憶の方も多いだろう。

実は僕自身、来日公演前にMSNの特設スペシャル・サイトの「トリビュート・ブログ」というコーナーに書かせてもらった短い文章の中で、「野球のWBC決勝の直後に始まる」彼らの日本公演では、何かが起こるかもしれない、と予想したことがあったのだが(http://rsspecial.spaces.live.com/blog/cns!7C1319B8D7A9A66A!153.entry)、それが日本チーム優勝と共に思わぬ形で「実現」して驚いた覚えがある。

ストーンズのそういった戦略に関してライナー・ノーツの中で同じ「コミュニケーション」というキーワードを使ったことに、その時は特別な意味を込めたつもりはなかった。しかし、自民党の世耕議員が「日本の政治にコミュニケーションの重要性を認識させたい」(前掲書192ページ)と言う時のその言葉は、彼の経歴の中に「米国ボストン大学コミュニケーション学部大学院留学」とあることからもわかるように(世耕氏の公式HP=http://www.newseko.gr.jp/より)、そうした広報戦略に関して普通に使われている言葉でもある。

そうした文脈で自分のライナー・ノーツを改めて読み直してみても、あながち間違った使い方ではなかったようだ。自民党のコミ戦のように、ストーンズが広告代理店まで使ってリサーチした上で戦略を組んでいるとまでは思わないが、今回のツアーやDVDセットで見えてきたようなストーンズ的なコミュニケーション戦略には、ミック・ジャガーという人のものの考え方の一端が非常によく現われているのではないかと思う。

7月に行なわれた参議院選挙は、世耕議員らによるコミ戦が本格稼働するはずだったにも関わらず、自民党は惨敗。肝心の本業で失点を重ねては広報も何もあったもんじゃないという、ある意味、至極真っ当な事実を見せつけられた(前回の衆議院選挙で“ヤラレた”という感触を強く持ったメディア関係者に“逆バネ”が働いたことも少しは影響しているのかもしれない)。

ストーンズの場合は、自分たちのパフォーマンスに絶対の自信を持った上での戦略展開なので、そういう心配はあまりしていないが、今後も策に溺れることなく、しっかりした演奏活動を続けていって欲しいとは思わざるを得ない。今の時代、この程度の戦略を持つことは、巨大ツアーを行なう「大物」ロック・バンドにとって当然なのかもしれないし。

さて、問題のDVDのライナーだが、実はその後、製品への封入が許可されないという事態が起こった。前回のDVDセットの際も日本語ライナー不可だったからもしや…とは思っていたのだが、内容の問題ではなく、今回も飽くまで日本側で特別な解説を付けるのがNGらしい。結局、日本側の担当者の配慮で、僕の原稿は製品に封入されたDVDの見方などの説明シート上に記載のURLを開けば読めるようになっている。残念ながら、ここでそのURLをお教えすることはできないが、ご興味ある方は是非ご一読いただければと思う。


■関連情報

○ロックは演奏で決まる 「ローリング・ストーンズ」
http://rock-cd.info/band/rollingstones.html

○名盤  2007/08/05 ローリング・ストーンズ『ザ・ビッゲスト・バン』 ─加藤美樹が好き
http://open-g.at.webry.info/200708/article_1.html

○ITビジネス:Web2.0 → Web3.0! 2007/07/29
「ローリング・ストーンズ/ザ・ビッゲスト・バン」(DVD)
http://netbiz.blog16.jp/index.php/2007/07/29/186_ecpei_a_ra_ua_sa_ia_iif_a_a_sa_fa_oa

○livedoorニュース 2007/07/25
「ザ・ローリング・ストーンズ 歴史的DVDボックス発売決定!!」
http://news.livedoor.com/article/detail/3244592/

○歌田明弘の『地球村の事件簿』 2007/08/03
「 政府・与党の広報戦略の成果はあったのか?」
http://blog.a-utada.com/chikyu/2007/08/post_13b4.html

○見えない道場本舗-Josh応援団(再)「平成日本のゲッベルス?世耕弘成」 2005/10/06
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051006/p3


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