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ミネソタ州ミネアポリスの橋崩落と米国の地盤沈下

(記事要約)

8月1日午後6時5分頃、米国ミネソタ州ミネアポリスのダウンタウンでミシシッピー川にかかる高速道路35W号線の橋が崩落し、走行していた少なくとも60台の車が川に転落した。

米運輸安全委員会は各分野の調査官を現地派遣し事故原因究明をはかるとともに、連邦政府は各州に類似の橋の安全性について総点検を要請している。

その一方で、今回崩落事故を起こした35W号線と同じように「構造的欠陥あり」に分類される橋が、全米には7万3000箇所以上あることが判明し、基本的なインフラに十分投資してこなかったことが浮き彫りなった。

35W号線の橋崩落現場を視察したブッシュ大統領は500万ドルの緊急支援金を約束し、連邦議会も同橋の再建に向けて2.5億ドルの予算を承認した。しかし増大する赤字とイラク戦争への拠出が続くなか、それ以外のインフラ補修をどう進めていくのかは明らかになっていない。


(解説)

連邦運輸局の発表によれば、ミネアポリスで崩落した高速道路35W号線の橋の着工は1965年で、完成から40年しか経過していない比較的新しい橋だった。しかしこの橋は1990年にすでに「構造的な欠陥」を指摘されていた。

米連邦道路管理局によれば、「構造的欠陥」という分類は橋が必ずしも危険であることを意味するわけではなく、補修や定期的な点検が必要な場合に幅広く使われる分類だという。35W号線の橋も1993年からは毎年検査が実施され、合格し続けていた。これでは何を信じて良いのか、わからない。

さらにぞっとさせられるニュースが続いた。連邦道路管理局の2005年のデータでは、なんと全米の橋の26.2%が「構造的な欠陥」か「機能的老朽化」という問題があるという。機能的老朽化とは、車線幅や路肩が狭く、現在の交通量を想定した設計にはなっていないことを意味している。確かに何十年も前には、全幅2m以上、重量2900kgのハマー2が一般乗用車として普通に使われるなどと考えるエンジニアはいなかったはずだ。

また50年代から60年代に作られた橋は、第二次大戦後の鉄価格高騰を受け、エンジニアが橋の強度を犠牲にせずに材料費を節減できるかに取り組んだ時代だという。当時はエンジニアも金属疲労についての理解が十分ではなく、冗長設計でないものも多い。

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「冗長化」 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

冗長化(じょうちょうか)は、システムの信頼性を高めるために予備のシステムを数多くバックアップとして配置すること。常に実用稼動が可能な状態を保ち、使用しているシステムに障害が生じたときに瞬時に切り替えることが可能な仕組みを持つ。
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特に故障により人命や財産が失われたり、企業における営業活動が大きな打撃を受けるような機器・システムの場合、冗長性設計が必須である。

現在の交通事情に合わない道路や橋の安全性を確保しなければ、いつ同じような惨事が起こるかわからない。ニュースの解説で専門家が口々に言うのは、設備の拡大や新設に比べ、補修は地味なために財源を確保しにくいということだ。

橋や高速道路整備の主要財源である連邦の高速道路信託基金には、ガソリン1ガロンにつき18.3セントの連邦税が充当されている。しかしこの税額は1993年から変わっておらず、支出は増える一方だ。2005年に連邦道路管理局は補修改善等に3750億ドル必要と試算したが、最終的な法案では2860億ドルしか認められなかった。資金が足りない分は、何かが先送りされるか、放置されるかだ。

米国という豊かで技術の最先端を行くはずの国のインフラは、本当のところ、一体どうなっているのだろうか? 今回の橋の問題だけではなく、2005年のハリケーン・カトリーナであっさりと堤防が決壊し、昨年7月にはニューヨークのクイーンズ区で10日近く続いた大停電があり、猛暑の最中に17万人以上が被害を受けた。

また今年7月には、マンハッタン中心部で、1924年に敷設された地中の蒸気管破裂に伴う変圧器の爆発で死者を出した。この蒸気管システムは1882年からスタートしたもので、シカゴやボストン、フィラデルフィアといった都市でも運用されている。全米では安全性が確保できないダムの数も、修復可能件数を凌ぐ勢いで増えている。目の前の豊かさを追求してきた米国の足元が崩れつつあるようだ。


米ミネアポリスで崩落した橋の様子(YouTube映像 01:32)

 

■関連情報

○州別の「構造欠陥」と「機能的老朽化」に分類される橋の数と割合
(州をクリックすると右下の囲みに数字が表示されます)
http://www.msnbc.msn.com/id/20093413

○AFP通信(Agence France-Presse)の日本語版が伝えるミネアポリスの橋崩落関連記事
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2263253/2000558

○日本の橋は安全という冬柴国交相の発言
http://www.sponichi.co.jp/society/flash/KFullFlash20070803023.html

○日本の橋梁の安全性を問いかける中日新聞社説
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2007080402038409.html

○『構造工学の薦め』─「密やかに 蝶の留まりて 華涼し」
 「日本でも喫緊の課題/高齢化進む道路ストック/米国・橋梁崩落事故」2007/08/04
http://blogs.yahoo.co.jp/srfch485/48797465.html

○きっそうのことば─やほお!─そして、ちきゅう。
 「アメリカの橋が落ちた件について」 2007/08/05
http://blogs.yahoo.co.jp/nel_uni/folder/1482944.html

○イザ! 2007/08/02
 ミネアポリスの橋崩落 「飛行機が突っ込んだ」ような衝撃
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/72813/

○H's 備忘録 「ミネアポリス市の道路橋崩落」2007/08/04
http://m-hamai.cocolog-nifty.com/memo/2007/08/post_ade4.html

○Science&Technology Trends May 2007 feature article 02
 池田 一壽 「道路構造物のストックマネジメントのための技術動向」
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt074j/0705_03_featurearticles/0705fa02/200705_fa02.html

○松岡正剛の千夜千冊・遊蕩篇
 ※「橋はなぜ落ちたか」の著者について書かれています。
  『本棚の歴史』ヘンリー・ペトロスキー
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1186.html

 


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