「格差社会」「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」という社会現象を生んだ人材派遣業法改正
- ジャーナリスト
「格差社会」が問題視され始めてから、二年が経つ。『下流社会』(光文社新書・三浦展)がヒットし始めた頃から、マスコミでも騒がれるようになった。この本が発刊される九日前に、衆院選が行われ、小泉純一郎率いる自民党が圧勝した。
この流れが、日本をアメリカと同じネオリベラリズム(構造改革、規制緩和、市場開放といった新自由主義)へ導くことなど一部の学者くらいしか認識していなかった。
2007年になって、「ネットカフェ難民」、「ワーキングプア」、「格差社会」という言葉が頻繁に使われるようになった。テレビでも、春頃から頻繁に取材され、一般人にも社会問題として知られるようになったのである。
この問題の根幹にあるものとして、人材派遣業の規制緩和があるのではないだろうか。
1986年7月 労働者派遣法が施行された。適用対象業務は13業務のみ。派遣期間はソフトウエア開発業務1年、それ以外の業務は9ヶ月。同年の10月に政令の改正が行われ、適用対象業務に3業務(機械設計・放送機器等操作・放送番組等の制作)が追加され16業務となった。
1994年、改正高齢者雇用安定法が施行され、60歳以上の「高齢者派遣」の適用対象業務が、港湾運送、建設、警備及び、ものの製造業務を除き、原則自由化された。
その二年後の1996年には、改正され適用対象業務が26業務に拡大した。
さらに1999年に対象業務が一部を除き原則自由化。新しい対象業務は派遣期間1年として既存26業務と区別された。
2000年、紹介予定派遣解禁。ただし派遣法の適用を受けるため、事前面接や履歴書送付等は禁止。派遣会社の紹介業免許取得が急増した。2003年の改正で、6業務にIT・金融関連の営業派遣期間制限が緩和され、派遣スタッフの受け入れ可能な期間が延長される。
2004年、2006年にも改正が行われ、人材派遣会社の派遣市場は拡大し、それにつれて人材派遣業界の売上げも増加。
ただし、この法改正の裏側で、利益を上げているのは派遣会社であり、派遣社員は働けど、働けど、年収は正社員と開くばかりという現象が起きた。このような、派遣社員冷遇の中で、大手派遣会社のグッドウィルとフルキャストで、賃金の不当なピンハネと派遣業法で禁止されている警備業務に派遣社員を派遣していたことが明るみに出た。
「グッドウィルの日雇い派遣天引き問題、労組が集団訴訟へ」2007/07/07
http://www.asahi.com/job/news/TKY200707070409.html
「フルキャストを捜索 警備業務に違法派遣容疑 宮城県警(朝日新聞)」2007/01/12
http://www6.big.or.jp/~beyond/akutoku/news/2007/0112-25.html
2005年辺りから、2007年度の団塊世代大量定年退職を見越して、高卒、大卒の新卒採用は増加した。しかし、その一方で中途採用は、狭き門のままで、正社員以外の派遣社員が増えていったのである。
40代以上の人々は、派遣社員の現状を、「自分で選んだ結果」と見る傾向が強い。確かに、スキルのある人間は、派遣社員でも、紹介派遣という形で、半年間派遣社員として働いた後に正社員として採用される場合もある。
ただ、この制度は、まだまだ浸透しておらず、さらに何のビジネススキルのない人間は切り捨てとなってしまう。
一方で、派遣社員に登録する側の問題も見逃せない。私が取材した大手人材派遣会社では、登録してきた人が希望職種に必要な資格などを持っていないにも関わらず、応募してきているケースが増えてきているという。
例えば、ワードやエクセルが全く使えないのに、事務職だけを希望してきたり、時給1600円以上、通勤時間30分以内とういう条件を少しでもクリアできていないと、採用になっても、辞退する者がいたりするそうだ。
スキルの問題は、派遣会社の研修などでカバーできる面もある。労働条件の多少の修正については、派遣会社と派遣先の会社との話し合いで解決する場合もあるが、そこまで面倒を見るケースは希だという。
しかし、このような雇用者と雇用主の関係の対比ばかりしてもこの問題の解決は見えてこない。
セーフティネット、再チャレンジ制度と言いながら、弱者切り捨てシステムの改善に着手しない政府の対応が一番問題なのである。政府は、この格差問題をなし崩し的に個人の問題に置き換えようとしてはいけないのだ。派遣業法を改正し、正社員と派遣社員との待遇の是正をしなければならない。同じ職場で同じような仕事をしながら、生涯賃金が何千万も違うような雇用制度を望んでいるものなど誰もいないだろう。
「ニート」(「Not in Education, Employment or Training」の略語:英国政府が労働政策上の人口の分類として定義した言葉)という言葉を最初に用いたイギリスでは、社会的企業が低所得層の救世主となっている。レストランなどで、社会に出てから役立つ訓練を実施して、さらに資格も取得でき、賃金もきちんともらえる。
国に期待できないなら、社会で弱者を救う制度を作るしかない。公的機関でもボランティア団体でもない。社会的企業は、利益を上げなければならないが、社会的貢献を重視する。このような企業は、日本でも株式会社、事業型のNPO法人などの形態で広がりつつある。
格差社会の応急処置は、民間に頼らなくてはならないというのが日本の悲しい現状なのだ。
【関連情報】
○GIGAZINE 2007/08/24
人材派遣協会いわく「派遣は格差社会の元凶ではない」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070824_jassa_haken/
○livedoorニュース 2007/05/03
30歳前後で月給10万 どうやって食べていくんですか
――棗一郎弁護士インタビュー(上)
http://news.livedoor.com/article/detail/3145380/
○イザ! 「膨らむ格差、しぼむ活力…なぜ給料上がらない?」 2007/08/07
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/74179/
○日本総研 調査部 主任研究員 山田久 2000年
賃金格差拡大は経済活性化をもたらすか─「インセンティブとしての格差」の条件
http://www.jri.co.jp/JRR/2000/12/rp-wage.html
○今週の論点;一刀両断 「アメリカ格差社会は真似できない」 2007/06/28
http://blogs.yahoo.co.jp/nemurihanngan6521/34125245.html
○格差社会を考える STOP!THE 格差社会・市民との対話集会 2007/08/03
http://anond.hatelabo.jp/20070803150150
○曹達泉 「格差社会考2」 2007/08/17
http://sodafountain.blog52.fc2.com/blog-entry-36.html
○アンカテ 「赤木智弘にひっぱたかれたくない!」 2007/08/17
http://d.hatena.ne.jp/essa/20070817/p1
○女子リベ 安原宏美--編集者のブログ 2007/07/11
赤木智弘さん、「強者女性」に「かわいい!」といわれる。
http://ameblo.jp/hiromiyasuhara/entry-10039530612.html
○女子リベ 安原宏美--編集者のブログ
「彼らは本当に苦労しているのだ」 2007/06/26
http://ameblo.jp/hiromiyasuhara/entry-10037930471.html
○WIRED VISION / 小田中直樹の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
「第1回 気分はもう戦争・そのI」 2007/07/30
http://wiredvision.jp/blog/odanaka/200707/200707300150.php
○煩悩是道場 2007/08/25
「頑張ることと、生きていく権利と、お金を稼ぐことは全部異なる」
http://d.hatena.ne.jp/ululun/20070825/1188035354
○ダメ人間漂流記 2007/06/29
日テレ「ネットカフェ難民2 破壊される雇用」とフジ「ネットカフェ漂流」を見た(2)
http://damekiroku.blog.ocn.ne.jp/hyouryu/2007/06/2_bf51.html
○仙石浩明の日記 2006/12/26
「ロングテール戦略が格差社会を生む: 機会均等」
http://blog.gcd.org/archives/50838779.html
○広告β 「ネットワークと格差社会」 2007/07/01
http://kokokubeta.livedoor.biz/archives/51054458.html
○POLAR BEAR BLOG 「格差とSNS」 2007/06/27
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/06/sns_0d14.html
○FPN 「格差社会で生き残る為の5つの能力」 2007/06/28
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2447
○Garbagenews.com 2007/07/03
「ネットを使えないと所得低下」情報通信白書最新版は語る
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/07/post_2434.html
○あるSEとゲーマーの四方山話 2007/06/08
「ワーキングプアは近いうちピークになって、収束しはじめる。」
http://finalf12.blog82.fc2.com/blog-entry-596.html
○分裂勘違い君劇場 2006/12/31
「大多数が余裕を持って暮らせる豊かな社会の作り方」
http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20061231/1167563326
○CNET ブログ IT's Big Bang! 2007/06/13
「日払派遣の労働力を利用する側について考える」
http://rblog-biz.japan.cnet.com/it_bigbang/2007/06/post_d31d.html
○池田信夫blog 「ワーキングプアを救済する方法」 2007/04/15
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/855d2fe7c6f54dda2eeb83eab2e0178e
○Arisanのノート 2007/07/27
生田武志「フリーター≒ニート≒ホームレス」を読む・その1
http://d.hatena.ne.jp/Arisan/20070727/p1
○双風亭日乗はてな出張所 「ぬるい議論はやめよう」2007/07/27
http://d.hatena.ne.jp/lelele/20070727/1185507262
○国内亡命者日乗 「内田樹の前に“他者”はいない?」2007/07/27
http://99det.blog83.fc2.com/blog-entry-289.html
○深夜のシマネコBlog 「鶏口となるも牛後となるなかれ」2007/06/26
http://www.journalism.jp/t-akagi/2007/06/post_222.html
○模型とキャラ弁の日記 「サヨクからのお別れの言葉」 2007/08/13
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20070813/p1
○木走日記 2007/08/17
「一人当たり所得」統計的日米比較検証─おそらく相対としてアメリカよりも
「地域(所得)格差」は「拡大」している可能性が高い
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070817/1187350115
○非国民通信 「金持ちの、金持ちによる、金持ちのための・・・」2007/07/08
http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/539b9589ef60e9276632aa8dfda8668e
○壊れる前に… 「格差を受け継ぐ子どもたち」 2007/06/12
( 英ガーディアン紙の記事。親の経済格差が幼い子どもの能力に反映されている
ことがイギリスで行なわれた大規模調査で明らかになったことを伝えている。)
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_fbc5.html
○シロクマの屑籠(汎適所属) 2007/06/25
「子どもが経済力向上の直接手段になるなら、貧乏でも子沢山になるだろうが。」
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20070625/p1
○小飼弾 404 Blog Not Found 「書評─若者を食い物にし続ける社会」2007/07/31
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50882855.html
○北海道大学・公共政策大学院・中島岳志の書評ブログ 2007/06/30
『現代の貧困─ワーキングプア/ホームレス/生活保護』岩田正美(筑摩書房)
http://booklog.kinokuniya.co.jp/nakajima/archives/2007/06/post_2.html
○キングフラダンスの恍惚と快楽。 「中流」という幻想。 2007/05/18
http://d.hatena.ne.jp/kinghuradance/20070518/1179754943
○G★RDIAS [新刊]『もうガマンできない!広がる貧困』 2007/07/16
http://d.hatena.ne.jp/gordias/20070716/1184565619
○Economics Lovers Live 「ハケンのリフレ」 2007/08/12
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20070812#p1
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