Entry

NO STYLE広告論 秋のファッション“サイト”チェック Part1

やっと秋らしい風も吹き始めた――ということで、なんとなく気分はファッションだ。そこで今回と次回は、ファッションブランドの気になるサイト(面白いことをやっているところ)をピックアップし、各ブランドが、どんなインタラクティブコミュニケーションを築こうとしているかを見ていきたい――という、ファッションセンスに乏しい私には、なんとも無謀な広告論の試み。頑張ります!

ファッションブランドのウェブを語るとき、まず外せないのはイタリアのDiesel(ディーゼル)だ。カンヌレポートの際に、「HEIDIES 15MB OF FAME」(サイバー部門グランプリ受賞)については一度軽く触れた。私はリアルタイムでは見られなかったが、キャンペーンの内容をまとめた紹介ムービー(http://www.farfar.se/awards/cannes2007/heidies)を見るからに、これはいかにもスゴそうなサイトである。HEIDIESというアンダーウェアラインのお披露目なのだが、「HEIDIES」を名乗る女性二人組が、Dieselのサイトをジャックしてしまうところから、キャンペーンはスタートする。

彼女らは、Dieselの男性店員を誘拐し、ホテルの一室に立てこもる。そして、その中で起こる出来事すべてを、Dieselのウェブサイトを通じて、5日間24時間ぶっ通しでライブ中継したのだ(カメラは6台使用)。と言っても、彼らが部屋でやってることと言えば、枕で叩き合って遊んだり、セクシーショットを撮り合ったりのいわゆる乱痴気騒ぎである。

紹介ムービーを見てもわかるように、三人は、ほぼアンダーウェア姿(たまに着ぐるみ)で登場し、その“衣装”がDieselの新ブランドであるのは言うまでもない。三人の若者が部屋で繰り広げる密室劇。その異常なシチュエーションのためか、やや過激に走りすぎる一幕もあったようで、YouTubeに投稿されているいくつかのコンテンツ(5日間の日常が切り取られてアップされている)の中には、「不適切な動画」として目をつけられているものまである。(http://jp.youtube.com/results?search_query=HEIDIES+diesel+&search=検索)

もちろん、このハイジャック騒ぎはDieselによる“やらせ”だ。「有名になりたくて」彼女らはこのような大胆な振る舞いに及んだという説明が書かれているが、そんな設定を信じる者はたぶんいない(Dieselのアプローチを知らない人はビックリするかもしれない)。サイトを訪れた大半の人たちは、「FOR SUCCESSFUL LIVING」のスローガンのもと、毎シーズン遊び心とアイロニー・スピリット溢れるキャンペーンを展開している、Dieselらしいイタズラを楽しみながら、アンダーウェアのほうも何気にチェックしていたことと思われる。

そもそもDieselは、ウェブを活用したコミュニケーションをかなり早くからスタートさせたブランドだ(1995年にサイト開設)。

世界中の才能ある若手映像作家30人に、「夢」をテーマにしたショートムービーを制作してもらい、モデルが街中で眠っているファッションフォトと連動させる形で映像を配信した2004年の「Diesel Dreams」(映像は眠っているモデルたちが見ている夢という企画)やバズを広げるためにblogを活用した昨年の「fallenwings.org」など、そのときどきのウェブ界のトレンドを素早くキャッチしたキャンペーンを展開してきたのである。

blogをキャンペーンに取り入れるのも早かったし、「Diesel Dreams」の頃は、広告界でもやたら「これからのウェブは動画だ」みたいなことが言われていたのを思い出す。(http://www.diesel.co.jp/library

ちょうどいまは、「FUEL FOR LIFE」というフレグランスのキャンペーンをやっているようだ(http://www.diesel.com/index_mac.php)。「HEIDIES 15MB OF FAME」ほどのインパクトはないが、人をくったようなトーン、凝ったデザイン等、やはり一筋縄ではいかない「らしさ」が濃厚に漂っている。

キャンペーンサイトだけでなく、「刺繍」をムービー化したDenim Galleryもよくできているし、今年の秋冬コレクションのショーの模様が映像で見られるCollectionは、ショーのコンセプトである未来都市のイメージ(「Diesel Planet」)を、全面に出した作りになっている。そのほか、歴代キャンペーンが俯瞰できたり、ショーやパーティなどの様子が見られるPOD CASTINGがスタートしていたり、あの手この手のサービス満載だ。

ブランドの世界観を感じさせるだけではなく、“カタログ”も商品をしっかり見せるよう工夫されている。Denim(http://www.diesel.co.jp/site.html)へジャンプすると、チープな紙に印刷され、すでに黄ばんでしまったかのようにわざとデザインした、大衆誌の恋人募集広告頁風のビジュアルが現れる。

何人かは写真入りで大きく出ており、そこをクリックすると彼や彼女ではなく、その本人のはいているデニム(商品)が紹介されるという仕掛けだ。しかし、この“恋人紹介”が半端じゃない。デニムの一部を拡大したり、前後が見られる位のものは、まあありそうだが、それプラス360度回転したり、映像も見られるものとなると少ないのではないか。

さらに面白いのは、拡大したデニムをマウスで滑らかに動かすことができること。商品に実際に触わって手で確かめられないのが、本来こういったカタログの歯がゆいところで、実際に買うのをためらわせる大きな要因なのだが、この場合、デニムを上下左右にユラユラ揺らしているだけで、なんとなく触ってモノを確かめた(商品と自分の距離が縮まった)ような気がするのが不思議だ。

似たようなシステムは、UNIQLO(ユニクロ)のTシャツブランド「UT」のサイトでも体験することができるが、こちらのほうがもう少し動き方が日本ぽいというか、服の反応の仕方が繊細な気がする(http://ut.uniqlo.com/)。

そう言えば、UNIQLOのサイトをデザインしている中村勇吾氏にインタビューしたことがあるが、そのとき彼はこの「動き」について、「『無限の可能性の中から服を自由に選べます』という、企業の考え方みたいなものを翻訳したらああなったということなので。動いているシステム自体が奥にあるとしか、言いようがないんですけど」(広告批評7月号「web広告10年!」)と語っていた。

Dieselにせよ、UNIQLOにせよ、よく考えられたファッションブランドのサイトは、CMのような秒数の制限もないため、訪問者にそのブランドのフィロソフィーを深く知ってもらう機会となりうる。

そもそもファッションは、飲料や生活用品とは違って、短時間でそのよさを伝えにくいジャンルでもある。その意味では、ウェブ向きとも言えるだろう。Dieselは、遊び心やアイロニーなど、プリント広告やテレビCMでも発信してきたブランドのカルチャーを、ウェブでも徹底して表現することで、そのイメージを一層強固にして、さらにファンを増やしたであろう(Dieselのことを一層好きになるように作られている)サイトのひとつと言えそうだ。

 

【関連情報】

○シブヤ経済新聞 2007/09/08
青山に「ディーゼルデニムギャラリー」 若手支援ギャラリーも
http://www.shibukei.com/headline/4623/index.html


○GIZMODO  2007/07/27
「世界初! ホログラムが出るファッションショー(動画)」
これはフィレンツェで先月開催された人気ブランド「DIESEL 2008春/夏ショー」からのひとコマ。DIESELのデザインチームとバルセロナのアニメスタジオDvein、オランダのマルチメディア製作エージェンシーVizooのコラボです。
http://www.gizmodo.jp/2007/07/post_1937.html


○Diesel Dreams(YouTube映像 00:30)
http://jp.youtube.com/watch?v=9HrMHx9ZvBw

○Diesel Dreams(YouTube映像 01:30)
http://jp.youtube.com/watch?v=fwPUf5Fe_pI

○Diesel Dreams(YouTube映像 01:20)
http://jp.youtube.com/watch?v=oRButL-sgJ4

○Diesel Dreams by pes(YouTube映像 01:23)
http://jp.youtube.com/watch?v=6ozmrZGyBKY

○Diesel Dreams- I must destroy the evil bear(YouTube映像 02:34)
http://jp.youtube.com/watch?v=xyvDOvTgWZw

○gradation 「LOBO」
 モーショングラフィックっていったらココって位に有名なブラジルの
 デザインスタジオ「LOBO http://www.lobo.cx/」が手掛ける
 アパレルブランド「DIESEL」のムービー。
http://blog.livedoor.jp/gumi_93/archives/10026076.html


○UNIQLO MIXPLAY(YouTube映像 04:08)
http://www.youtube.com/watch?v=XSdhDyPhyiU

○UNIQLO MIXPLAY XMAS SHOW(YouTube映像 05:19)
http://www.youtube.com/watch?v=6Le-9R18jkI

○Uniqlo starring Cameron Shayne of Budokon(YouTube映像 01:01)
http://www.youtube.com/watch?v=uKIz5JztthQ


○ITmedia News  2007/07/04
「Tシャツがドリンクのよう――ユニクロ“未来のコンビニ”」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/04/news035.html


○ファッション流通ブログde業界関心事  2007/05/02
ユニクロ原宿店、「UT」を見て、ユニクロの「ファッションへの道のり」
を考えた
http://dwks.cocolog-nifty.com/fashion_column/2007/05/post_afb9.html


○Ut uniqlo store(YouTube映像 00:26)
 Tシャツを検索できる専用端末。タッチパネルで操作し、色や形、シリーズなどから好みのTシャツを探して 売り場を特定できる。検索結果のプリントアウトも可能。
http://www.youtube.com/watch?v=lMl_4td3Mck


○[mi]みたいもん! 2007/07/16
「ユニクロのUNIQLOCK、これ今年いちばんのオンラインキャンペーンなんじゃないんですかね」
http://mitaimon.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/uniqlo.html


○DesignWorks 2007/07/07
 UNIQLOCKで世界中のブロガーを繋ぐ「WORLO.UNIQLOCK」
http://designwork-s.com/article/47021796.html


○小鳥ピヨピヨ 2006/10/03
 「ユニクロ(米国)のサイトがやたらクールな件」
http://coolsummer.typepad.com/kotori/2006/10/post_1.html


○関心空間 「中村勇吾」 2005/11/20
http://www.kanshin.com/keyword/853175


○Web人発見!
 Web人賞:中村勇吾氏  第5回 Webクリエーション・アウォード
http://award.wab.ne.jp/2005/133.html


○打ちっ放しブログ 2007/07/21
 「中村勇吾→ドラえもん→泣けるweb までの思考」
http://blogs.yahoo.co.jp/fujiojifu/48369495.html


○万有引力 「ユニクロをツカいこなすコツ」 2007/06/08
http://d.hatena.ne.jp/Banyou/20070608/1181313948

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/370