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迫りくる世界経済クライシス─ サブプライムローンという信用収縮問題

(記事要約)

米国ではこのところサブプライム・ローンという言葉を耳にしない日がない。この数年、住宅バブルや低金利を背景に信用度の低い低所得者に義務なしで貸し付けられたサブプライム・ローンの焦げ付きが、住宅ローン会社の経営破綻、不動産バブルの崩壊、信用不安、株式市場の乱高下をもたらした。

その影響は国際金融市場にまで及んでいる。日、米、欧の協調による市場への資金供給や、米連邦準備理事会(FRB)による公定歩合の緊急引き下げ、7月の新築住宅販売件数が予想を上回ったことによりある程度の安心感は広まった。しかし日を追うにつれ、サブプライム・ローン問題の裾野の広さが明らかになっており、サブプライム・ローンという爆弾がリセッションという結果をもたらす可能性もでてきた。



2年前に完成したばかりのタウンハウスも「値下げしました」、「売り家」の看板が並ぶ。
(テキサス州ダラス、2007年8月18日撮影)


(解説)

■ FRBを動かしたサブプライム爆弾

8月の米国株式市場の乱高下に、パニックを起こした投資家は多い。7月19日にはダウ工業株平均は過去最高の1万4000ドルを記録し、年末までには1万5000ドルかという声が出始めていた。低所得者向けの高金利住宅ローン(サブプライム・ローン)の焦げ付きが増えていたが、8月中旬近くまでFRBの理事らも「住宅ローン関連の金融商品の価値が低下しているが、米国の経済全体に大きな影響は与えない」、「個人消費の低迷に波及する恐れは小さい」という見方を示していた。

ところが8月に入るとサブプライム・ローン問題への懸念から、ダウ工業株平均は6営業日連続で下落して、8月16日には1万2845.78ドルまで下がった。この日のダウ工業株平均は、一時、前日比343.53ドル安まで下落したため、底なし沼のように感じた人もいたはずだ。こうした地すべりは米国にとどまらず、8月17日の日経平均は前日比874円81銭安という今世紀2番目の下落率で、欧州株もそれまでの1ヶ月で10%以上下落した。

金利引下げに慎重だったFRBも、8月17日には臨時の連邦公開市場委員会(FMOC)を開き、公定歩合を緊急に0.5%引き下げ、年5.75%とすることを決定した。FRBは金融不安を緩和するため、8月に1000億ドル以上の大量の資金供給を行った。またバーナンキFRB議長は今後もあらゆる政策手段を総動員すると話した。


■ 金利リセットの恐怖

米国での住宅ローンの焦げ付きが、なぜ世界市場を巻き込むパニック現象をもたらしたのだろうか。返済が焦げ付いたとしても、担保の住宅という資産は存在しているのだ。その裏には、サブプライム・ローンに付随する虚偽と複雑なマネーゲームがある。

サブプライムは、「頭金なし」、「収入証明不要」、「最初の2年は超低額返済」といった売り文句で、本来なら家を買う資金力のない低所得者を対象とした高金利住宅ローンだ。収入証明なしで行う審査など、信用できるものではない。実際、ローン仲介業者の勧めで、本当の収入の3倍額でローン申請しているといった話が次々と明らかになっている。またローン仲介業者が自分のコミッションを増やすために、不動産鑑定士に圧力をかけて高い評価額をつけさせ、必要以上の額を借入れさせた例もある。

サブプライムは最初の数年が低金利で、後で利率がリセットされる変動型ローンだが、実際の返済額を試算することなく、その時に借り換えをすれば良いという根拠のない説明に踊らされた人が多い。例えば2005年に最初の2年間のみ4%でその後は変動金利という条件で20万ドル借り入れた人の返済月額は、これまでの955ドルから、年利7%の1331ドルへと跳ね上がる。

もともとは頭金分の貯金もなく、普通のローンを組める財政状況にない人々である。実際に返済額が増えれば、途端に窮地に追い込まれる。最初のリセットをなんとかしのいでも、6ヶ月後、あるいは1年後に金利は再びリセットされて、さらに上がる可能性が高いのだ。


■ 担保の価値とローンの所有者

一般的に普通の銀行は担保の住宅を差し押さえるより、返済計画を多少変更してでも借り手に支払ってもらおうとする。しかし昨今のサブプライム・ローンでは、それもままならない。というのは、住宅ローン専門会社はローン財源を調達するためにサブプライム・ローンを金融商品として投資銀行や証券会社に売ってしまうからだ。投資銀行や証券会社はリスク分散のため、他の多数のローンとまとめて証券化し、さらに金融機関やヘッジファンドに販売する。

住宅ローン返済に窮する借り手は、返済計画を交渉しようにも、ローンの本当の所有者が不明という状況も多い。差し押さえ前に家を売ろうにも、住宅価格は下落しており、住宅ローンの審査基準強化のため買い手がローンを組めずに、売買契約がまとまらない。こうした環境では、その住宅に実際どれだけの価値があるのかも怪しくなってくる。

一方、実際の焦げ付きに加え、担保の価値や、サブプライム・ローンというものに対する不安から、サブプライムローンを証券化した商品の価格は急落し、金融機関やヘッジファンドに損失が生じた。

またこうした金融機関やヘッジファンドは、米国内にとどまらない。7月に仏銀最大手のBNPパリバがファンドの資産価値が適正に評価できないとして、傘下の3つのファンドを凍結したことは記憶に新しい。(8月23日に順次解除を発表。)ヘッジファンドへ投資、あるいは融資をしている金融機関も多いため、その分も損失となり、雪だるま式に金融機関の信用度まで低下し、国際市場に信用不安が広がったわけだ。


■ これから爆発する時限爆弾

一番の問題は、このサブプライム問題の底がまだ見えない点だ。今年利率がリセットされる変動金利住宅ローンの総額は、1兆ドル。返済が追いつかなくなる人が本格的にでてくるのはこれからという見方もある。

米国の住宅関連産業はGDPの4分の1を占めているが、その低迷は今後も続きそうだ。住宅ローン審査の厳格化でサブプライム・ローンは事実上なくなり、住宅ローンが借りにくくなっている。市場に出回る差し押さえ物件の増加で、不動産の価格下落はまだ底を打っていないと見る専門家らが多い。7月の新築住宅販売数は予想を上回ったが、これは住宅建設会社が自らの利益を削って、値下げをした結果だという見方が強い。

ローン審査が厳しくなっているのは、住宅ローンに限らない。車などの個人ローン申し込みも厳しくなり、クレジット・カードも最低支払い額を上げたりしている。これがローンやクレジット・カードに頼りがちな一般米国人の消費活動に影響を与えることは、容易に想像できる。

また米国の多数の住宅ローン専門会社が経営破綻に陥ったり、大幅リストラを実施したりしたことから、住宅及び金融産業では8月だけで2万3000近い職が失われた。これは同業界で2006年の一年間に失われた職に匹敵する数だ。住宅ローン専門会社の最大手で、全米の住宅ローンの約20%を発行しているカントリーワイド・ファイナンシャルでさえ資金繰り不安が伝えられていた。8月22日に大手銀行のバンク・オブ・アメリカが20億ドルを出資したことで一息ついたが、まだ予断を許さない。

住宅ローンの支払いに窮する低所得、中間所得層への対策として、連邦政府に支援を求める声もあり、ブッシュ大統領も連邦住宅局、政府支援の住宅投資機関であるファニー・メイやフレディー・マックを使って、借り換えや低金利住宅ローン拡大に前向きな姿勢を見せている。

しかしそれで救えるのは、実際に返済を続ける財政力を持つ消費者だけだ。低所得者に持ち家の幻想を与えたサブプライム・ローンと、高金利のサブプライムを証券化して儲けるというマネーゲームのツケは大きく、今や米国はリセッション(景気後退)という言葉まで出始めている。

 

【関連情報】


○読売新聞  2007年8月24日
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏によるサブプライムに関する解説
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yamazaki/at_ya_07082401.htm


○MediaSabor  2007-04-29
「マネーゲームが生んだサブプライムローン危機」
http://mediasabor.jp/2007/04/post_82.html


○MediaSabor  2007/04/29
「米国経済を襲うサブプライムローン爆弾」
http://mediasabor.jp/2007/04/post_83.html


○GIGAZINE 2007-08-17
 急速な円高や全世界同時株安の原因、「サブプライム問題」とは?
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070817_subprime/


○暗いニュースリンク 2007-08-12
 ポール・クルーグマン:『実に恐ろしい事態』(ニューヨークタイムズ紙2007年8月10日付コラム翻訳)
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2007/08/post_090e.html


○カトラー:katolerのマーケティング言論 2007-09-01
 「サブプライムローン破綻の諸相 ─見えない敵に怯えるアメリカ─」
http://katoler.cocolog-nifty.com/marketing/2007/09/post_8aee.html


○中島孝志のキーマンネットワーク 2007-08-21
 「不動産は値下がりする!」 江副浩正著 中央公論新社 777円
http://www.keymannet.co.jp/i1272


○CNET Venture View
 「不動産は値下がりする!」江副浩正著  2007/08/29
http://v.japan.cnet.com/blog/story/0,2000071498,000270c-0000020111o,00.htm


○元外交官・原田武夫の国際政治経済塾
 「サブプライム問題を隠れ蓑に進行するシナリオ」 2007/08
http://money.mag2.com/invest/kokusai/2007/08/post_27.html


○Klug クルーク(為替、海外投資、ヘッジファンドなどのニュース、コラム)
 「中国でも無視できないサブプライムローン問題」 2007/08/07
http://www.gci-klug.jp/klugview/07/08/07/post_1240.php


○株式市況と黒岩の眼 2007-08-27
 「サブプライム問題、中国の銀行にも飛び火――各行、損失拡大を否定」
http://nikkei225kuroiwa.blog90.fc2.com/blog-entry-1052.html


○株式市況と黒岩の眼 2007-09-02
 「サブプライムショック、未体験の急落に震撼 旅行中に100万円損失」
http://nikkei225kuroiwa.blog90.fc2.com/blog-entry-1072.html#more


○切込隊長BLOG「また失われる10年だな」2007/08/13
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2007/08/10_c3df.html


○株式日記と経済展望 2007-09-02
 「ちょっと前の日本の金融危機と同じ現象が、米国で深刻化している」
http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/e26ec2a497d7eb1a63d1f9be13aa1c1a


○株式日記と経済展望 2007-08-19
 「サブプライム爆弾破裂で中国がアメリカに引導を渡す時がきた?」
http://blog.goo.ne.jp/2005tora/e/9d3bdc96a7b450a20ff0ac469b3d02dc


○渡辺千賀 On Off and Beyond
 「米国サブプライム・バブル崩壊による取り付け問題」2007/08/20
http://www.chikawatanabe.com/blog/2007/08/post-8.html


○IBTimes  2007-09-01
 「米大統領、サブプライム問題対策を発表」
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070901/11689.html


○IBTimes  2007-08-25
 「中国の大手銀、サブプライム関連の投資額を公開」
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/070825/11400.html


○イザ! 2007-08-16
 「サブプライムローン問題 米金融市場で信用収縮拡大」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/76879/


○フジサンケイ ビジネスアイ
 「サブプライム問題、欧米の不動産に急落懸念」 2007/08/20
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200708200021a.nwc


○フジサンケイ ビジネスアイ
 「米サブプライムショック M&Aブーム終息の声も」 2007/07/28 
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200707280016a.nwc


○本石町日記 「ECB緊急・無制限オペの考察」 2007/08/10
http://hongokucho.exblog.jp/7275082/

 

 


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