情報格差の是正を目論む米国ユビキタス社会の理想と現実
- 米国在住ビジネスコンサルタント
最近ではホットスポットと呼ばれるインターネットにアクセス可能な場所は多い。わざわざネットカフェまで出向かなくても、近くのスターバックスやレストラン等で簡単にネット接続出来る。駅や図書館など公共の場での接続も一般的になった。また携帯電話の機能の進化により、短いメールのやりとりや写真や動画の鑑賞も出来る。
しかしアメリカでは、携帯電話の機能が日本ほど発達しておらず、また国土が広いために、ホットスポットの数も、人口に比例すると、遥かに少ない。また経済格差は日本以上に大きく、行政が何とかしないと、それは直接に情報格差となる。情報格差はまた長期的に経済格差を更に大きくし、社会の安定を脅かす。
機会均等をお題目とするアメリカでは、情報格差は経済的に恵まれない人々から情報による生活向上の機会を奪うとして、情報の民主化を進める動きは強い。そこで考えられたのは市営のWi-Fiサービスである。現在全米で455の市がすでに開始済みか、または準備中である。
市中のどこにいてもワイヤレスでアクセス出来る。市民はだれでも無料で利用出来る。通常は300kbps程度のスピードだが、それ以上のスピードを求める市民は、例えば毎月21ドル95セント払えば、アップ・ダウン両方共に1Mbpsの速さまでアップグレード出来る。
鳴り物入りで理想社会の実現に踏み出したアメリカの各都市だが、現実はなかなか厳しそうである。通常はネット接続業者が電柱などの市のインフラを無料で利用させて貰う代りに、Wi-Fiネットワークの設営を行なう。彼等は有料サービスを利用する市民からの収入で、長期的に最初の設営コストや維持・保守コストを回収する。またグーグルからの広告収入のシェアーも期待出来る。
ところがネット接続業者の一つで、積極的にこの市営Wi-Fiサービス事業を進めて来たアースリンク・ネットワーク社が見直しを始めた。同社はカリフォルニア州のミルピタスやルイジアナ州のニューオーリンズなど8つの市でのサービスをすでに開始または準備中である。その中にサンフランシスコも入っていた。
最近発表されたニュースではアースリンクはサンフランシスコ市との契約を破棄する事にしたそうである。やはりアースリンク1社が設営経費を投資するのは回収リスクが大き過ぎる事と、サンフランシスコ市からは、より速い500kbpsの無料サービスなどが要求されている事がその理由である。
ミルウォーキー市との契約により、同市でのサービス設営を計画中のミッドウェスト・ファイバー・ネットワークス社も、約2千万ドルと計算されている初期投資に見合うだけの収入が将来的に保障されるかどうか疑問を持ち始めているという。つまり無料サービス以外の有料サービス利用者の数がどれだけ伸びるかが問題である。
グーグル社は市営Wi-Fiサービスが全国規模で実現すれば、ネットへの接続の数が飛躍的に増え、同社の広告サービスの収入も増えるとの事で、インターネット接続業者との収入折半を提供している。サンフランシスコでもアースリンクと同様なビジネス契約を結んでいた。
また同社は本社があるカリフォルニア州ミルピタスでは、いち早く市全域のWi-Fi無料サービスを実現している。毎月1万5千人が利用しているそうである。iPhoneからのアクセスが多いらしい。将来的にはアメリカではiPhoneと市営Wi-Fiサービスとの融合も一般的になって行くのかも知れない。
情報格差をなくする事で、教育格差、経済格差の拡大にストップを掛けようと考え、実行するアメリカの市営Wi-Fiサービスであるが、理想の実現まではまだ色々試行錯誤が繰り返されるようである。恐らくは民間業者一社がリスクを取るのではなく行政もその経費の一部を負担して行なう形になる可能性が高い。
「いつでも、どこでも、だれでも」のユビキタス社会への模索は続いている。
【関連情報】
○GIGAZINE 2007/08/28
「Googleの無料無線LAN接続サービスは今、どうなっているのか?」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070828_google_wireless_lan/
○ITmedia News 2007/09/06
「StarbucksでiTunesに無料Wi-Fiアクセス可能に」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/06/news019.html
○ITmedia News 2007/01/05
「自動車専用のインターネットサービスがスタート」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/05/news028.html
○Komaku Blog 「PC 作業は喫茶店ルノワールが最高な件」2007/08/20
http://komaku.net/wp/2007/08/20/ginza-renoir/
○CNET 2007/08/03
「公共Wi-Fiサービスは企業に不公平?」
http://japan.cnet.com/column/europe/story/0,3800077429,20353128,00.htm
○CNET 2007/08/06
エキサイトとフォン・ジャパン、「日本版 FONマップ」を公開
http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20354219,00.htm
○FON blog 「Segafredoが六本木ヒルズ店でFONを試験運用」 2007/07/31
http://blog.fon.com/jp/archive//segafredoaaaaafonaeeec.html
○WIRED VISION 2007/07/19
Wi-Fi普及でクローズアップされる「干渉」問題(1)
http://wiredvision.jp/news/200707/2007071921.html
○GIZMODO 2007/06/07
6つの電波をまとめ高速接続できるWi-Fiハリネズミ「Slurpr」
http://www.gizmodo.jp/2007/06/6wifislurpr_1.html
○ヨコハマ経済新聞 2007/07/27
日本大通りで「ワイヤレスLAN横浜プロジェクト」─地域情報発信も
http://www.hamakei.com/headline/2554/index.html
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