＜記事要約＞

オーストラリア連邦政府は、移住者に課される「市民権テスト」の概要を含む新たな市民権ガイドライン草案文書を公表した。

草案によると、オーストラリアの価値観として、寛容と思いやり、言論の自由などが挙げられている。

法案が上院で可決されれば、早ければ9月末から市民権テストが導入され、移住者は、オーストラリアの初代首相の名前を正しく答えたり、オーストラリア連邦が誕生した年を知っていることが求められるようになる。

ケビン・アンドリューズ移民・市民権大臣は、「我々は、さまざまな異文化を持つ人々の多様性を尊重しているが、それと同時に、社会的に結束した共同体としてやってきた。そのバランスを維持していくことを願っている」と述べた。

2007/8/26 ABC Newsより

＜解説＞

オーストラリアの市民権は、永住権を得て一定期間永住者として居住した後、各種条件を満たせば申請することができる。

永住者になれば、その国のパスポートを持てると誤解している人も少なくないが、永住権は、あくまで「外国人の滞在資格」の一つ。短期滞在者とは異なり、期間の制限なしに滞在できて、社会保障や医療などの公共サービスの恩恵も享受できる一方、国籍は変わらず、選挙権や被選挙権、公務就任権などもない。オーストラリア国籍のパスポートを発行してもらうためには、市民権を取得する必要があるのだ。

日本人の場合は、日本政府が基本的に二重国籍を認めていないこともあって、資格があっても市民権を取得する人はごく少数派。日本人をやめて、オーストラリア人になるという選択は、容易ではない。

国によって事情は異なるものの、外国生まれでオーストラリアに2年以上居住している人の市民権保有率は約75％に上り、国籍と市民権に関する法律が1949年に施行されて以来、オーストラリアの市民権を取得した外国人は約400万人もいる。

2005/06会計年度に市民権を得た約10万人の出生地は175ヵ国に及び、上位5ヵ国は、英国、ニュージーランド、インド、中国、南アフリカとなっている。

オーストラリアは重国籍OKなので、市民権を取得してからも、祖国のアイデンティティを失わずにずっと深いつながりを持ち続ける人も珍しくない。「オーストラリア生まれのオーストラリア人」は10人に7人、という現実と向き合って暮らしていると、この国の魅力の源でもある多元性を尊重しつつ、オーストラリア市民の名の下に融合を目指していくことは、途方もない課題に思える。

新しく導入される市民権テストの問題は、「オーストラリア市民になるために（Becoming an Australian Citizen）」と題したパンフレット最終版の内容に基づく200問のリストから無作為で20問が出題される。内容は、オーストラリアの10の価値観をはじめ、歴史や政治、社会など多岐に渡り、12問（60％）正解すれば合格で、基本的な英語能力があり、オーストラリアの価値観を理解していると示すことになるという。

全40ページに凝縮された知識や教養を頭で理解してテストに合格したからといって、帰属意識を持ったオーストラリア市民になるわけではないだろうけれど、市民権を取得するための同種のテストは、既にアメリカやカナダ、イギリス、オランダなどで実施されている。

カナダの市場調査会社が今年6月に行った調査では、カナダ市民（移民ではない人たち）1,005人に対して、カナダへの移住者向けの市民権テストを受験させたところ、60％が合格ラインに達しないという結果が明らかになった。通常の移住者の合格率は約70％なのだそうである。

はてさて、自国の市民権テストに合格できるオーストラリア生まれのオーストラリア人は、いったいどれくらいいるのだろうか……？

【関連情報】

○Lost in Australia　2006/12/12
「英語とオーストラリア文化を知らない人　お断り」
http://queenofthedesert.blog72.fc2.com/blog-entry-43.html

○Fairdinkum？！！メルボルン[オーストラリア]　 「市民権取得テスト導入？！！」　　
http://fairdinkum.seesaa.net/article/23959898.html

○Fair dinkum Susie　「Australia Day」　　2007/01/27
http://blog.goo.ne.jp/japoriginesusie/e/67b89ec428e62482b022e06c858c4912

○イギリス、サバイバル日記  「移民法変更です。。。（怒）」　　2006/12/11
http://kamosika.blog19.fc2.com/blog-entry-652.html

○イザ！　【アメリカを読む】移民法案廃案　超党派の敗北　渡辺浩生　　2007/07/03
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/topics/60169

○CNET Japan　　2006/06/02　
　ブッシュ政権、不法入国者対策で「ハイテク技術」を利用へ
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20129947,00.htm?tag=nl

○ある日本人の海外奮闘記 「不法移民の問題（アメリカ）」2006/04/05
http://blog.goo.ne.jp/toshi2ne/e/6a1fd71bebe793ddc2c2c165e9a8d7e8

○Espresso Diary@信州松本 「キャバクラで考える日本の将来」2007/04/20
http://blog.livedoor.jp/takahashikamekichi/archives/51529196.html

○こころ世代のテンノーゲーム 「外国人労働者」神話の実情 2006/11/03
http://d.hatena.ne.jp/umeten/20061123/p3

○世の中を生暖かく見守るブログ
　「フランス　不法移民１万４千人追放と黒人至上主義」　2006/08/02
http://blog.livedoor.jp/tonchamon/archives/50988825.html