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ジョニ・ミッチェルがヒア・ミュージックからカムバック作『シャイン』をリリース

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康


ジョニ・ミッチェル 『シャイン』

スターバックスとコンコード・ミュージック・グループが設立した“ヒア・ミュージック”レーベル。6月にレーベル第1弾としてポール・マッカートニーのアルバム『メモリー・オルモスト・フル』が発表されたことは記憶に新しいが、ヒア・ミュージックの第2のアーティストとして迎えられたシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)の新作『シャイン』が9月26日に日本で発売になる。

日本では一般的な知名度はポール・マッカートニーとは違って低いが、カナダ出身のこのシンガー・ソングライターは、欧米の音楽界では最も高い評価を受ける女性アーティストのひとりと言ってよいだろう。

ジョニ・ミッチェルは、60年代の後半にまずソングライターとして注目を集め、ジュディ・コリンズが歌った「青春の光と影」などの作者としてその名を広めた。69年に自身がデビューしてからは、アルバムを発表するごとにさまざまな試みを聞かせ、フォーク系の弾き語り(といっても変則チューニングを駆使した独特のものだが)を聞かせる初期から、ジャズ/フュージョン・ミュージシャンを多数従えて凝ったアンサンブルを聞かせる70から90年代以降と活動を続けてきた。

僕自身が彼女の音楽に初めて触れたのは、ジャズ・ギタリストの渡辺香津美が80年代初頭にやっていたFMラジオの番組でだったような気がする。そこでかけられた76年のアルバム『逃避行(Hejira)』に収録された「コヨーテ」という曲を聞いて、ちょっと一筋縄ではいかない不思議な音楽という印象を受けた。ジョニの弾く独特なコード感のギター、饒舌に話しかけるような歌に、ジャズ・ベーシストのジャコ・パストリアスが弾くフレットレス・ベースの粘っこい音色が絡み、なんともいえない浮遊感のあるビートを聞かせていたからだ。

ポップといえばポップなのだが、一度聞いてメロディが印象に残るというほどではなく、むしろ複雑なメロディと独特なハーモニーをもつ変わったポップスという感じで、日本では一般的に名前が浸透しないのも、そういう音楽の感触がひとつの原因だろうとは思われる。

新作『シャイン』には、珍しく自らがほとんどの楽器を手がけたという曲が多くあり、1曲めのインスト「ワン・ウィーク・ラスト・サマー」など緻密だが自宅録音ぽい作りが、作曲家としての彼女の姿を見えやすくしているようにも感じられ、かえってとっつきやすいかもしれない。ジョニ・ミッチェルの音楽を聞いたことがないという方も、この機会に彼女の音楽に触れられてみてはどうだろう。

そして、今回、ポール・マッカートニーに続く第2のアーティストとしてヒア・ミュージックに迎えられたということで、欧米での彼女の評価の高さには改めて驚かされている。

今年のジョニ・ミッチェル関連の話題ということでは、まず6月に発売されたオムニバス『トリビュート・トゥ・ジョニ・ミッチェル』があった(プリンスやビョーク、ジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーといった人たちが参加)。


オムニバス『トリビュート・トゥ・ジョニ・ミッチェル』


そして、彼女自身のアルバムとほぼ同時にジャズ・ピアニストのハービー・ハンコックも自身の新作『リヴァー ─ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』をジョニのカヴァー曲集(ジョニ自身やノラ・ジョーンズ、ティナ・ターナーらが参加)として発表するという、トリビュート作品続きである。


ハービー・ハンコック『リヴァー ─ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』


実はジョニ・ミッチェルは02年の前作『トラヴェローグ』を出した後に、レコード会社への不信感から今後はアルバムを作らないとインタヴューで発言していた。『トラヴェローグ』はアメリカの最も良心的なレーベルのひとつと言えるノンサッチから発売されたにも関わらず、彼女は一体どうしたのか、という印象を当時は受けたものだ。それゆえ、もう本当にアルバムを作ることはないのだろうと思ったりもしていたのだが、この話題続きの中での新作発表にヒア・ミュージックがまたやってくれた、とうれしい驚きを感じた。

また、ヒア・ミュージックは第3のアーティストとして、ジョニとも親交のあるシンガー・ソングライターのジェイムス・テイラーと契約しており、ライヴとドキュメンタリーを収めたCD+DVDのセット“One Man Band”を11月に発売するとも発表している。

欧米の大物ベテラン・アーティストの創造性をうまく発揮させられるレーベルとして、ヒア・ミュージックも今後ますます注目を浴びることは間違いなさそうだ。

 

【関連情報】

○ジョニ・ミッチェル公式サイト
http://www.jonimitchell.com/


○立川直樹責任編集 TOKYO ART PATROL for ART MANIA
 「知が輝くカナダの女たち ─魅力ある3枚の新譜─」 2007/08/30
http://blog.excite.co.jp/tap/6238354/


○小川隆夫のJAZZ blog 『 Keep Swingin' 』
  元麻布「AVANTI」2007/08/08
http://blog.excite.co.jp/ogawatakao/6247430/


○bounce.com  2007/07/18
  JONI MITCHELLがスターバックスの〈HEAR MUSIC〉からカムバック作『シャイン』をリリース
http://www.bounce.com/news/daily.php/11041/


○Hard Rock / Heavy Metal Magazine LAZY!!
 「ジョニ ミッチェル特集!!」2006/09/15 
http://mysound.jp/hrhm/2006/09/001996.php


○【OnGen:国内最大級の音楽ダウンロードサイト】ジョニ・ミッチェル特集
http://www.ongen.net/international/artist/feature/joni_mitchell/index.php


○PLUG IN information|PLUG IN プラグイン
  「9年ぶりとなるアコースティック・ジャズ・アルバムはジョニ・ミッチェルに捧ぐ、叙情的で深みのある作品」
 ハービー・ハンコック 『リヴァー ─ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』
http://sp-plugin.jp/information/archives/2007/09/20070918.html


○音楽酒場 since 2005 「ハービー・ハンコックの新作聴いてみた」 2007/09/19
http://ongakusakaba.at.webry.info/200709/article_10.html


○SEXY AOR  「ジョニ・ミッチェル・トリビュート」 2007/02/14
http://motonoji.cocolog-nifty.com/sexy_aor/2007/02/post_c88a.html


○BARKS NEWS 「ジョニ・ミッチェル、スターバックスと契約」2007/07/26
http://www.barks.jp/news/?id=1000033124


○シュリンパーズ・ネット「Both Sides Now 青春の光と影」2006/11/24
http://sakurababashrimp.at.webry.info/200611/article_24.html


○熱帯雨林の迷宮  「Joni Mitchell / ジョニ・ミッチェル」2006/02/23
http://dkcosmos.exblog.jp/1188388 

 

 


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ジョニ・ミッチェルの「シャイン」 2007年10月02日 22:33
スターバックスでコーヒーを買おうとしたら、目の前に   Joni Mitchell Shine  ...