Entry

観光による地方活性化は地域住民含めた受け入れ態勢、意識改革が肝要

格差社会の不安が社会に広がる中、情報格差、年収格差、学力格差、恋愛格差… など、さまざまな格差が議論されている。その中で、都市と地方の経済格差が広がっているのではないか? という指摘がある。公共事業に頼れなくなったことや、メーカーの工場の海外移転、大手流通業者の進出などが要因となり、地方のビジネスが疲弊しているというのだ。

現在国内を見渡して、“元気のいい地方”と言われて連想されるのはどこだろうか。宮崎県などは、東国原知事効果で活況に見えるので、日本全国各都道府県で、その土地出身の著名人を知事に据えるのもいいかもしれないが、現実的ではないだろう。地方の有効な活性化策を模索しようとすると、まず思い浮かべられるのが観光である。

地方自治体にとって、観光収入は重要な財源だ。観光資源のある自治体は観光客を集めるために様々な取り組みをしている。

最近ブームともいえるのが、世界遺産への登録だ。平泉の文化財や富士山など、世界遺産候補に名乗りを上げる場所は増える一方だ。世界遺産に登録されれば、観光客の増加につながるだろうというのだ。実際、財団法人和歌山社会経済研究所の調査では、世界遺産に登録されると、すでに有名な観光地でも10%前後、観光地としてあまり知られてなかった土地では飛躍的に観光客が増加するケースがあると報告している。

また、2007年5月には国土交通省が中小旅行業者の募集型企画旅行販売を解禁したことにより、多様化する旅行者の志向に合わせた、キメ細やかな旅行商品が増え、結果的に地域活性化につながるという期待もある。

世界遺産や旅行商品のように誰の目にも明らかなものであれば、その地域の住民は観光地に住む者としての自覚をもてるかもしれない。しかし、そうした自覚のない地域ではどうだろうか。観光政策の遅れが指摘される日本では、国民の観光収入や観光経済に対する意識が低いと筆者は推察している。

例えば今年7月のニュースに『らき☆すた』というアニメの舞台・モデルになったとされる埼玉県春日部市近辺に、アニメファンが殺到し、地元住民が困惑しているというものがあった。特に注目されていたのは、関東最古ともいわれる鷲宮神社。住民の中には、駅前の商店街を利用してくれるなど経済効果を期待する声もあったというが、突然に殺到した来訪者を不気味に感じ、不安を抱いてしまった地元住民が、ほとんどであるような記事だった。

ドラマ『北の国から』のロケ地となった北海道富良野周辺や、映画『世界の中心で愛を叫ぶ』のロケ地となった香川県高松市などでは、積極的に観光資源として活用しているが、突如アニメの舞台・モデルになった地域では、来訪者を受け入れるという心構えが、まったくできていなかったのである(関東最古といわれる神社があるにも関わらず、である)。せっかく人が訪れても、受け入れ体制ができていなければ観光経済は成立しないのだ。

1998年の長野オリンピックの時も、2002年の日韓ワールドカップの時も、開催地域の警備やインフラの整備に注力したものの、周辺地域、ひいては日本国内で“お金を落としてもらおう”という取り組みは目立たなかった。国土交通省による外国人旅行者の訪日を促進することを目的とした“ビジット・ジャパン・キャンペーン”がスタートしたのは、オリンピックやワールドカップなど、国際的なイベントが滞りなく終了してからの2003年からである。

世界遺産のように、世界に目を向けるという動きの中で、インターネットの積極的活用については期待している。観光地が直接世界にアプローチするには、言葉の問題や文化理解の問題でスムースにはいかない面もあるかもしれないが、インバウンド観光(訪日外国人旅行)のポータルサイトなどもあり、ネットの力で地域へのダイレクトな導線を整備する試みが進められている。

国や地方自治体による誘致するための観光政策と同時に、観光客を受け入れる(可能性がある)側である地域住民の観光文化や経済に対する意識を高める工夫も必要なのではないだろうか。


【参考Webサイト】

●世界遺産資料館
http://homepage1.nifty.com/uraisan/index.html

●我ら久喜市民のHP「オタクが集まる鷲宮神社」
http://kuki-shimin.com/archives/219

●ビジット・ジャパン・キャンペーン実施本部事務局
http://www.vjc.jp/index.html

 

【関連情報】

●MediaSabor  2007/08/13
 「世界的に拡大するラグジュアリー・トラベルマーケット」
http://mediasabor.jp/2007/08/post_180.html


●MediaSabor  2007/05/20
 東国原宮崎県知事独占インタビュー「似非(エセ)の時代は終った」
http://mediasabor.jp/2007/05/post_102.html


●MediaSabor  2007/03/25
「国土交通省 中小旅行業者の募集型企画旅行販売解禁へ」
http://mediasabor.jp/2007/03/post_45.html


●MediaSabor  2007/02/25
 「世界遺産は旅行業界にとっての救世主」
http://mediasabor.jp/2007/02/post_21.html


●都道府県別統計とランキングでみる県民性
http://passageiro.blog54.fc2.com/


●海猫は空を飛ぶ 「地方活性化策」 2007/09/19
http://blog.goo.ne.jp/jupiter0223/e/91f3b201bc7a125a371e83620b94744a


●monster-blog 「解ってないなぁ、二人とも」 2007/09/07
http://blog.monster.co.jp/archives/51038837.html


●小寺信良 コデラノブログ 3 「宮崎はそのまんまでいいのか」 2007/09/04
http://blogmag.ascii.jp/kodera/2007/09/04095724.html


●イザ! 「らき☆すた」聖地の神社にアニヲタ絵馬ずらり 2007/07/25
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/entertainment/comic/70748/


●All About プロファイル 小坂 淳 : ITコンサルティング・企画
 「地方活性化に役立つウェブサイト」 2007/08/30
http://profile.allabout.co.jp/pf/kan/column/detail/17342


●ITmedia オルタナティブ・ブログ 2007/06/03
「地方格差をなくすためにみんなでwebでがんばろうじゃ駄目な理由を考える」
http://blogs.itmedia.co.jp/kudou/2007/06/web_2dab.html


●おやじまんのだめだこりゃ日記 「SNSで地方活性化は無理」 2007/05/31
http://www.oyajiman.net/oyaji/item-1652.html


●The best is yet to be. 「地方って、もう終わっちゃったのかな」 2007/03/28
http://d.hatena.ne.jp/rajendra/20070328


●partygirlの日記 「地方の人が車を買ったから、ローカル線が消えた?」2007/03/27
http://d.hatena.ne.jp/partygirl/20070327


●シートン俗物記 「コンパクトシティーへ」 2007/01/16
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070116/1168936602


●雪斎の随想録 「格差」の虚実  2007/02/26
http://sessai.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_dc25.html


●Web担当者Forum  「Web 2.0ケーススタディ/フォートラベル」 2006/12/19
 http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2006/12/19/343


●ネットで外国人旅行者を集客 【インバウンドにっぽん】
 「ネットでインバウンド、いま意欲あれば勝機あり(1)」  2006/10/29
http://blog.livedoor.jp/inboundjapan/archives/50847534.html


●CNET  「ブログは離島を幸せにできるか」 2006/10/13
http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000056022,20272307,00.htm


●分裂勘違い君劇場  2006/08/01
 「ワーキングプアのNHK特集で取材された秋田県仙北町出身の友人と今日、
  昼飯を食いました」
http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20060801/1154425850


●言論ブログ 第5話:「地方活性化のトータルデザイン(1)」2006/05/10 
http://www.genron-npo.net/opinion/saito/001384.html


●転職業界ニュース 2006/07/21
新たな職種の誕生? 21世紀は『観光プロデューサー』の時代
http://news.jobmark.jp/2006/07/21_1.html


●山旅ブログ 「Google Earth」で世界遺産を見る 2007/02/23
http://yama-tabi.net/blog/archives/2007/02/google_earth.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/377