消費者金融(サラ金)業界の再編成(寡占化)で、責任をのがれようとする者達
- ジャーナリスト
以前、拙稿「貸金業法改正後に消費者金融業界はどう変わるか?」2007/04/01
http://mediasabor.jp/2007/04/post_53.html
において、貸金業法改正によって、サラ金(消費者金融)の経営が揺らいでいることを描いた。サラ金問題に詳しいジャーナリストの三宅勝久さんは、「資金力のない中小のサラ金は倒産するでしょう」と予言したが、事態はその通りの展開になってきた。
9月14日、消費者金融中堅企業、クレディア(本社静岡市、東証一部)が倒産。民事再生手続きに入った。消費者金融の上場企業としては初の倒産。負債総額は約757億円。サラ金業界に激震が走った。
クレディア倒産の背景には、「グレーゾーン金利」という違法すれすれの高利が、今回の貸金業法改正によって認められなくなったことがある。29.2%以上の金利は違法であり、刑事罰の対象になる。しかし、これまでは29.2%未満であれば、ぎりぎり違法ではない、とされてきた。この法の隙間で、消費者金融は荒稼ぎをしてきた。
過去に借り手が消費者金融企業に払いすぎたお金(「過払い金」という)について、請求されたら返還しなければならなくなっている。消費者金融企業は、これまで蓄えてきた利益を吐き出さざるを得なくなった。
消費者金融で儲けることができない、と判断した外資の行動は速い。消費者金融の「レイク」を経営するGEコンシューマー・ファイナンス(東京都港区)は、レイク事業の売却を検討していると発表。これに対してプロミス、アコムが関心を示した。業界大手の武富士はこのレイクの買収はしない、との姿勢を示した。その背景には、消費者金融業界の中で最も歴史のある会社であるがゆえに、借り手から請求されている過払い金も巨額であるという事情もあるのではないか、と前出の三宅さんは分析する。
グレーゾーン金利で儲けてきた消費者金融業界から、その儲けを吐き出させる、今回の貸金業法改正。もっと早く法改正をしていれば、多重債務者の悲劇(自殺、一家心中、失踪など)を防止できたことは明らかだ。
「金融庁は、グレーゾーン金利を放置した責任をいっさい取っていない。はじめから利息制限法を適正に運用していればよかった」
三宅さんは、貸金業法改正を評価しつつも、あまりにも遅い国の対応にいらだった。 そして、クレディアの倒産後の行方についてもしっかり監視するべきだ、とも指摘。クレディアが倒産したあと、過払い金がどう処理されるかを見ておく必要があるというのだ。
「ライフ」というアイフルの100%子会社が、過払い金の返還請求を拒否しているのである。このライフ社は平成12年(2000年)に会社更生法の申立をしている。すぐにアイフルの社長がライフ社の会社更生管財人に就任。翌年、ライフはアイフル傘下に入った。この一連の会社更生手続きのとき、過払い債務は免責されているとして、過払い金の請求に一切応じていない。 http://www.i-less.net/news/060731.html
これは民事訴訟になっているが、このライフとアイフルが行った方法で、過払い金返還をしなくてもよい、という司法判断が下れば多重債務者の救済の道がまた一つ絶たれることになる。
経営環境の悪化から、消費者金融各社が豊富な資金をもつ銀行と全面的につながっていく動きも活発化している。9月21日、三菱UFJフィナンシャルグループは、クレジットカード最大手のニコスを完全子会社化すると発表した。過払い金返還請求の増加を見込んで赤字決算になることが判明したためだ。
こうしてみると、貸金業法改正によって儲けることができなくなった消費者金融各社の選ぶ道は限られている。
第一は、銀行と資本提携して生き残りをかける。リストラ、店舗閉鎖などの痛みは残るが、銀行の信用によって事業の存続と成長が期待できる。銀行に見放された消費者金融企業は倒産するか、さらに大手の消費者金融の傘下に入るしかない。
第二は、ライフとアイフルがやったように、民事再生手続きの中で、過払い金の返還請求ができないようにしてしまう。こうすれば、過払い金による支出が最小限に食い止められる。
一連の動きを見ていると、非常に感慨深い。これまで、人々に法外な金利でカネを貸してきた消費者金融が、貸金業法改正によって濡れ手に粟の利益をはぎ取られ、弁護士などの司法関係者と借り手からの過払い金返還請求の嵐のなかで翻弄されているのだ。まるで、消費者金融業者たちが弱者に転落したかのような錯覚に陥る。
しかし、そんなことは断じてない。高利による利益は、消費者金融にカネを貸してきた銀行や生保によって吸い上げられてきた。その見えにくかった資金環流の構造、経済的弱者からカネを搾り取る構造がシンプルになり、外部から見えやすくなっただけである。
【関連情報】
○CNET ブログ 2007/08/26
「GMOの苦境に見るIT企業と消費者金融事業の危険な関係」
http://rblog-biz.japan.cnet.com/it_bigbang/2007/08/gmoit_39de.html
○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/07/05
「“灰色”撤廃で“難民”増大 ネオ・ヤミ金も台頭」
http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200707050047a.nwc
○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/07/04
「“灰色”撤廃の波紋 殺到する利息返還請求」
http://www.business-i.jp/news/kinyu-page/news/200707040047a.nwc
○Business Media 誠 2007/06/05
「消費者金融は“悪”なのか?――じゃあ、誰が貸してくれるのさ?
という素朴な疑問」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0706/05/news019.html
○Business Media 誠 2007/05/30
「自己破産者が急増する」――金融庁
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0705/30/news132.html
○魁!清谷防衛経済研究所 2007/01/25
「パチンコと消費者金融その2 本当に悪い奴は誰だ?」
http://kiyotani.at.webry.info/200701/article_24.html
○ITmedia News「技術を制す者がネット金融を制す」 2007/01/19
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/19/news050.html
○mediologic.com/weblog 2006/11/14
「広告業界の景気へどのように影響するか?─消費者金融業界と広告」
http://www.mediologic.com/weblog/archives/001128.html
○池田信夫blog 「悪魔的ビジネスモデル」 2006/10/29
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/aedb536c459aa60520b6fa95f70db9e7
○小飼弾 404 Blog Not Found 「下流喰いに喰われる前に」 2006/09/21
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50636471.html
○svnseeds’ ghoti! 2006/11/10
「サラ金の上限金利規制は多重債務者を減少させるか?」
http://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20061110#p1
○徒然なる数学な日々 2006/11/05
「貸金業法改正とバブル崩壊に見る相似」
http://mathdays.blog67.fc2.com/blog-entry-858.html
○木走日記 2006/09/13
「これは国民に対する背信行為じゃないのか?─国民(多重債務者)を見捨て
アメリカ資本(サラ金)に配慮する金融庁」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060913/1158078134
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