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ZARD(坂井泉水)をJポップの主役にのし上げたビーイング楽曲制作の手法


ZARD「揺れる想い」  ポカリスエットCMソング

どういうわけだか、知り合いを通じて、『宝島 音楽誌が書かないJポップ批評』誌からの原稿依頼があった。テーマは、この5月に「ヴォーカリスト」の坂井泉水が亡くなったことがマスコミでも大きく取り上げられたZARD。

短いながらもアルバム評(セカンド・アルバム)を書いてくれとのことだった。何で僕にZARD? と思わないでもなかったが、昔、たった一度だけカラオケでZARDの「負けないで」を歌ったことがあって、その知り合いに目撃されてしまっていたことを思い出した。それで。これは観念せねばなるまい…と思って引き受けることにした。

というのも90年代、そのZARDも所属し、当時一世を風靡していた音楽事務所ビーイングのアーティストたちから届けられる多くの曲に共通する、ある「型」に興味を持っていたからだ。

この依頼を機に、あの時代、自分なりに感じていたことを整理し直してみようと思ったのだ。ここでは、その時のレコード評の限られたスペースに書き切れなかったことを中心に、懐かしのZARDやビーイング全盛期のサウンドについての私見を綴ってみたい。

ビーイングと所属アーティストたちの楽曲が、複数のレコード会社から発売され、ヒット・チャートを席巻していたのは90年代前半のことだったが、そのサウンドに80年代洋楽のヒット曲群が大きな影を落としていたのだということが、まず今回、改めて強く認識させられた点。

それが最も強く出ているのがZARDのデビュー・アルバムで、冒頭曲「Good-bye My Loneliness」(91年/ZARDのデビュー・シングルでもある)がボリスの「見つめていたい」そっくりのアレンジでビックリするし(以後も「見つめていたい」風のコード弾きはZARDの楽曲の中で結構使われる)、続く2曲目「愛は暗闇の中で」はサヴァイヴァーの「アイ・オブ・ザ・タイガー」(82年)風のブレイクで始まる。

4曲目の「Oh! Sugar Boy」はミック・ジャガーの「ジャスト・アナザー・ナイト」(85年)+マイケル・ジャクスンの「ステイト・オブ・ショック」(84年)…という具合で、80年代に洋楽ファンだった人なら誰でも知っているような有名曲の要素を大胆に取り入れているのに驚かされる。

また、ZARDに限らず、WANDSやMi-Ke、川島だりあといったアーティストたちから届けられる、あの頃のビーイング発の楽曲のミディアム・テンポの楽曲のリズムやキーボード・アレンジ、ドラム・サウンドの処理等には、ド派手なドラム・サウンドで有名なパワー・ステーション・スタジオ的な音作りを取り入れていた頃のホール&オーツの影が感じられた。

個人的には、そうした曲を聞くたびに、ホール&オーツの「セイ・イット・イズント・ソー」(83年)を思い出したりしていたのだが、ZARDの「負けないで」のサビ部分のバックのアレンジがダリル・ホールのソロ曲「ドリームタイム」(86年)そのまんまだったことは、恥ずかしながら最近までは知らなかった。

しかし、それ以上に当時から気になっていたのは、ZARDを代表とするビーイング勢の90年代初頭のヒット曲のサビのコード進行である。このコード進行に関しては、坂井泉水が亡くなった直後のフジテレビの朝のワイドショー「とくダネ!」でも取り上げられ、「負けないで」でみんなが「励まされる」のは、あの曲のサビのコード進行(番組で直接言及されていたのは「ベース音」の動き)が17世紀にドイツの作曲家パッヘルベルによって作られた曲、通称「パッヘルベルのカノン」と同じだからだ、という結論になっていた。


ZARD「負けないで」
フジテレビ「白鳥麗子でございます!」エンディング・テーマ


この番組を見て、ZARDがクラシック音楽の高度な手法を取り入れている、と感銘を受けたファンの方々には申し訳ないが、しかしこのコード進行は、「カノン進行」なんて言葉もあるくらいで、ポップス、とりわけ日本のポップス界では非常に多くの使用例があり、(細かな装飾の仕方の違いによるヴァリエイションの違いも含めて考えると)ありきたりと言ってもいいぐらいのものなのだ(曲名に「カノン」という言葉を入れた思わせぶりな作品もある!)。

その例として、僕がまっさきに思い出したのは、チューリップの「心の旅」(73年)だったが、洋楽では、ロッド・ステュアートのカヴァーでも知られるアイズリー・ブラザーズの名曲「ディス・オールド・ハート・オブ・マイン」(66年)といった例に思い当たった。

先に触れたダリル・ホールの「ドリームタイム」などは、アイズリー・ブラザーズのこの曲のアレンジなども意識した上で、敢えて同じコード進行を使って書かれた曲だと思うし、ZARDの「負けないで」(作曲は織田哲郎)だって、そうした「カノン進行」を使った楽曲群の歴史をある程度以上は考慮に入れ、そんな歴史を代表する曲として「ドリームタイム」を下敷きに「確信犯」的に作られた曲のはずである。

ビーイングの同時期のヒット曲には、ZARDで言えば、やはり織田哲郎作曲の「眠れない夜を抱いて」(92年)、「揺れる思い」(93年)。さらに、T-BOLANの「Bye For Now」(作曲=:森友嵐士/92年)、川島だりあ「悲しき自由の果てに」(作曲=川島だりあ/92年)、中山美穂&WANDS「世界中の誰よりきっと」(作曲=織田哲郎/92年)、日本テレビの巨人戦ナイターのイメージソングとして作られ、ZARDやWANDSのメンバーが歌い、長嶋茂雄監督(当時)も一節聞かせたことでも話題になった「果てしない夢を」(作曲=出口雅之/93年)など、作曲者が誰によるかに関わらず、広義の「カノン進行」を効果的に配した曲が結構あった。


ZARD「眠れない夜を抱いて」  TV朝日「トゥナイト」エンディング・テーマ





ZYYG, REV, ZARD & WANDS featuring 長嶋茂雄「果てしない夢を」
日本テレビ劇空間プロ野球イメージ・ソング

ここに、音楽事務所ビーイングの「確信犯」的な制作姿勢がハッキリと見えてくる。それと同時にこれが、フィル・スペクターのフィレスや、さらにモータウンといった60年代的なレーベル主導のポップス制作手法に影響を受けていたビーイングらしいやり方なのだな、とも思えてくる。

最後に余談だが、「カノン進行」のことをいろいろ調べるうち、少し前からYouTube上で、「パッヘルベルのカノン」に合わせてヘヴィ・メタリックなギターを世界の若者が弾く映像が多数アップされて、隠れたブームになっていることを知った。

○CanonRock by JerryC(NewVersion) 05:23
  台湾のJerry CさんがCanon Rockの本家
http://www.youtube.com/watch?v=BjTFSZVp2W0&eurl=

○guitar 05:20
 YouTube音楽カテゴリで素人作品としては一番多く閲覧された動画。
 ギターは韓国のFunTwoさん。
http://www.youtube.com/watch?v=QjA5faZF1A8

○Canon Rock(プロの野崎聡さん) 05:02
http://www.youtube.com/watch?v=3sRGCmJd-2M


この古風なコード進行はポップスにアレンジされ何度も使い回されるだけでなく、メタリックなギターと組み合わされると(ビーイングの楽曲にも、ヴァン・ヘイレン風のメタリックなギターが取りいれられている曲は少なくないが…)、これはこれで見事な様式美メタルへと変身してしまうのだ! これは笑えます。


 

【関連情報】

本文中で触れた宝島社『音楽誌が書かないJポップ批評』のZARD特集号の紹介ページ。
http://tkj.jp/book/book_20147401.html

○【A面】犬にかぶらせろ! 「ZARDこと坂井泉水こと蒲池幸子さんのこと」2007/06/01
http://www.hayamiz.jp/2007/06/zard_6fc9.html


○BITMAP 「訃報:ZARDのボーカル坂井泉水さんが死去」 2007/05/28
http://www.capsule-net.com/bitmap/archives/2007/05/20070528_01.php


○ITmedia オルタナティブ・ブログ けんじろう と コラボろう!
 「ZARDって誰?とマラソン」 2007/06/28
http://blogs.itmedia.co.jp/kenjiro/2007/06/zard_94f2.html


○月刊「記録」編集部 2006/11/20
 「ビーイング系のアーティストたちはその後どうなった?」
http://gekkankiroku.cocolog-nifty.com/edit/2006/11/post_b53d.html


○80年代後半─90年代前半を回顧するブログ
 「ビーイングを検証する」 2006/07/07
http://sskkyy81.blog4.fc2.com/blog-entry-74.html


○CyberPunk 「PHIL SPECTOR」 2006/10/07
 (アーティストよりもプロデューサーの方が重要という概念を世に広めた
  パイオニア的存在であるフィル・スペクターのこと)
http://blog.livedoor.jp/curtis1999/archives/50132967.html


○彗星生活 「ガールグループス」 2005/05/03
 (プロデューサーが歌手、作曲、アレンジ、録音を統率して制作する優れた
  例としてのフィル・スペクターのことなど)
http://blogs.yahoo.co.jp/kohno0123/2258760.html


○関心空間 「パッヘルベルのカノン」 2005/07/07
http://www.kanshin.com/keyword/748139


○日々雑録 または 魔法の竪琴 2007/09/05
 パッヘルベルのカノンの「コード進行」と『少年時代』
http://kniitsu.cocolog-nifty.com/zauber/2007/09/post_42cb.html

 

 


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