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わが国でも動き始めた統合医療 その1 ─ 代替療法の基礎知識

  • グリーンフラスコ株式会社 代表・薬剤師 
  • 林 真一郎

欧米では統合医療と呼ばれる耳慣れない医療が大きな注目を集めています。今回と次回の2回に分けて、この魅力に富んだ新しい医療の内容とわが国での取り組みについてお伝えしたいと思います。

ところで、皆さんは強い頭痛に襲われたときにどう対処しますか? 場合によっては救急車を呼ぶこともありますが、普通はドラッグストアで購入した頭痛薬を飲むことが多いかも知れません。症状が重いときは駅前のクリニックに行くかも知れませんし、ハーブやアロマテラピーに詳しい人であればカモミールティーを飲んだり、ラベンダーの精油の入ったマッサージオイルで首すじをマッサージする方もいるでしょう。

あるいは、近所の鍼灸院で鍼を打ってもらう人もいれば、整体の治療を受ける人もいるでしょう。こうしてみると、私たちの身の回りには数多くの治療法があり、状況に応じてそれらの中から適切なものを自分で選んでいることがわかります。

わが国の医療は、大きく2つのグループに分けると
1)西洋・近代医学と、2)代替(だいたい)療法に分けられます。

1)の西洋・近代医学はその名の通り、近代に西洋で発展した医療で、医薬品・手術・放射線療法の3つを武器にした医療です。先進国の国立の医学部で教育されている医療です。

一方、2)の代替療法は、簡単に言えば1)以外の全ての医療ということになり、例をあげればメディカルハーブやアロマテラピー、それに心理療法・カウンセリングに整体・マッサージなどのボディワーク、それに食事療法やサプリメントから音楽療法まで、古今東西のありとあらゆる「癒しの技」が実践されています。

ふたつの医療を比べてみると、1)の西洋・近代医学は悪い菌を抗生物質で叩いたり、悪い部分を手術で切除するなど、攻撃的な医療と言えると思います。一方、2)の代替療法はヒトの自然治癒力を高めることを基本に据えていて、こころや体に与えるダメージが少ないため、子供や女性、お年寄りなどに適した医療と言えます。

代替療法がこれほどまでに普及し、支持を集めている理由は、病気の質が変わったことにも一因があります。戦争での負傷や伝染病などには外科手術や抗生物質が極めて有用でしたが、先進国ではそれに代わって、不眠・抑うつと言った心身症や高血圧・糖尿病などの生活習慣病が増加したため、西洋・近代医学よりも代替療法の方が適しているケースが増えてしまったのです。

1990年に米国ではハーバード大学のアイゼンバーグ博士が国民に対して医療調査をしたところ、なんと全ての国民の3分の1(約34%)が代替療法を利用していることがわかり、西洋・近代医学一辺倒だった政府に衝撃を与えました。

そこで、政府は代替療法に関しての調査を行い、それが適切なものであるならば正規の医療として採用していこうと考えたのです。そこで、1992年よりNIH(米国国立衛生研究所)ではOAM(代替医療調査室 Office of Alternative Medicine)を設置し、代替療法の有効性などについての調査を開始します。1999年にはこの組織をさらに格上げして国立相補・代替医療研究センターとし、13の大学に年間およそ5000万ドルの研究費をつけたのです。この研究費は2001年には8600万ドル、2002年に1億ドル、そして2003年には1億7600万ドルと増加していきました。

ところで、代替療法が注目を集めるようになったきっかけは、やはり1960年代後半の米国にあります。薬の副作用や薬害、それに医療制度に対する疑問などが一気に噴出し、反戦運動などと時を同じくして社会的なムーブメントとなり、その影響はわが国にも及びました。

また、現在の米国でサプリメントなどのマーケットが大きいのはマイケル・ムーア監督の「SiCKO(シッコ)」に映し出されていたように、米国ではわが国のような医療保険制度がないため、「病気になってしまっては巨額の医療費を払わされる。」と考えた人々が病気の予防に意識を向けたためとも言われています。


医療と言えども社会のサブシステムですから、当然ながら、政治的・経済的な背景で大きな変化が起こります。良くも悪くも、米国一辺倒のわが国において、医療制度のこの先を占う上にも、こうした米国の状況からは目が離せないと思います。

 

【関連情報】

○〔独立行政法人 国立健康・栄養研究所〕「健康食品」の安全性・有効性情報
http://hfnet.nih.go.jp/


○MediaSabor  2007/09/20
 マイケル・ムーア監督の映画「SiCKO」(シッコ)をメディアが批判─ 
 キューバは本当に医療天国?
http://mediasabor.jp/2007/09/sicko.html


○MediaSabor  2007/09/03
 「世界のあり方を変えるハーブ(植物)療法のコンセプト」
http://mediasabor.jp/2007/09/post_201.html


○MediaSabor  2007/06/03
 「診療費をWEB上で公開した米国の医療機関─。病院競争時代の処方箋となるか」
http://mediasabor.jp/2007/06/web.html


○MediaSabor  2007/04/15
 「タミフル問題を考える─薬の専門家とは誰か」
http://mediasabor.jp/2007/04/post_69.html


○MediaSabor  2007/03/18
 「人の免疫力を低下させる抗生物質の乱用」
http://mediasabor.jp/2007/03/post_38.html


○身体・病気・医療の社会史の研究者による研究日誌
 「健康の社会的決定要因」 2007/09/10
http://blogs.yahoo.co.jp/akihito_suzuki2000/49333195.html


○Kawakita on the Web  映画『SiCKO』鑑賞  2007/09/07
http://d.hatena.ne.jp/kwkt/20070907/p1

 

 


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