無給油で2600キロ走行の超低燃費プラグインハイブリッドカー
- 米国在住ジャーナリスト
家庭用電源を利用して充電するプラグインハイブリッドカーの開発が自動車メーカーで進んでいるが、米国ではすでに実用化されている。1ガロン当たり100マイル(1リッター当たり約42キロ)走行の超低燃費を実現する夢の車だ。
電気とガソリンによる駆動力を状況に応じて使い分けながら走るハイブリッドカーは、二酸化炭素の排出を抑えて石油資源の節約にもつながるなど環境にやさしい車。電気を蓄える手段として、例えばトヨタ自動車のプリウスでは、走行エネルギーを電気に変える回生ブレーキを使っている。つまり走っていないことには充電できないため、通常はそれに伴ってガソリンも消費されることになる。
これを家庭用のコンセントを使って充電できるようにするのがプラグインハイブリッドカー。車から電源コードを伸ばし、家にある100ボルト、もしくは200ボルト用のコンセントに接続することで充電が完了する。
ハイブリッドカーは低速域の動力を電気モーターの駆動で賄う方式が多いので、プラグイン方式を採用した車では、渋滞の多い市街地走行など電気だけで走行が可能な場合もでてくる。クリーンエネルギーもさることながら、1ガロンあたり100マイルを超えるといわれる超低燃費は魅力だ。通常のプリウスの燃費が50mpgだからその2倍。ガソリン代は半分に減る。
トヨタはプリウスをベースにプラグインハイブリッド車を開発、7月に国土交通省から大臣認定を取得した。今後3年をかけて公道走行試験を行いながら、実用化に備えるという。予定通りなら市販化は2010年以降。自動車メーカー初のプラグイン方式となる可能性が高い。
しかし、米国とカナダではすでにプラグイン方式のプリウスが街を走っている。もちろんトヨタ自動車が販売したものではなく、プラグインハイブリッドシステムを開発する専門メーカーが、通常のプリウス(2004年モデル以降)をプラグイン方式に改良するコンバージョンキットを発売しているのだ。プリウス以外にフォード車のハイブリッドにも対応する。
キットは10社近くから発売されている。プリウスのトランクルームに積まれた巨大なバッテリーを外し、プラグイン方式用に開発された電池と交換。制御装置も専用のシステムと付け替えることで完成する。
カリフォルニア州サンディエゴにあるプラグイン・コンバージョン社の場合、出力が違う数種類のコンバージョンキットを8000ドルから1万5000ドルの間で発売する。頼めば付け替え作業は一日で終了するが、高圧電流の知識を持ったエンジニアなら自分で交換することもできる。
2万4000ドルからプリウスのコンバージョンキットを販売するハイブリッドプラス社(コロラド州)では、顧客が1ガロン当たり171マイルの走行を記録した。(このときの様子がビデオでアップされているhttp://www.youtube.com/watch?v=I5WmcnSkUTw)。1リッター換算で72キロ走行に相当するこの燃費は、給油なしで約2600キロを走行したことになる。
アメリカ大陸の西端のロサンゼルスから真ん中のテキサス州ダラスまで無給油でいってもまだ走れる計算。東京─大阪間を8リッター足らずのガソリンで走破したといえば分かりやすいだろうか。普通の車なら小田原までいけるかどうかだ。
コンバージョンキットの値段は決して安くないため、一般ユーザーよりも企業が宣伝をかねて事業用途に導入するのが適している。もともと燃費の良いプリウスでは、一般ドライバーが乗る程度の距離では元を取れないからだ。
例えば、ガソリン価格を1ガロン3ドルで計算した場合、年間72000マイル(約11万5200キロ)で5年間走行して、やっと1万800ドルの差額が出る。こうしたことから普及とまではいっていない。それでも現在、70台前後のプリウスがプラグイン方式に変換されて北米大陸を駆け巡っている。
一方、バスがプラグイン方式を採用するケースはある。何台かのスクールバスがコンバージョンされ、ニューヨーク州ロングアイランドでは市バスに導入された。また、海兵隊ではディーゼルエンジンと電気のプラグインハイブリッドカーも導入済み。こうした特殊分野でも需要はある。
待たれるのは自動車メーカーからの登場だが、いまのところ発売時期を明言しているメーカーはない。十分なデータを取得し、安全性やシステムの信頼性を確認してからになるだろう。このあたり自動車メーカーは常に慎重。発売後にバグ修正を重ねて品質を上げていくコンピュータソフトと違い、走行中は人命を預かる立場になるだけに致し方ない部分もある。
日本車メーカー以外で開発ピッチをあげてきたところもある。GMはサターンとシボレーでそれぞれプラグインハイブリッドカーの量産化を発表、2009年─2010年の発売を目標に掲げた。ダイムラー・クライスラーは、15人乗りの商用車でプロトタイプを製作している。
ネックになるのは開発コスト。ハイブリッドカー自体が従来の自動車のシステムと違うだけに、投じる予算も大きい。「機会と可能性はとても大きいが、非常に高額な計画」(フォード役員)と、苦戦を強いられる自動車メーカーにとっては簡単に手を出せない領域だ。
【関連情報】
○Business Media 誠 2007/07/27
家庭で充電できる「プラグインハイブリッド」ってどんなクルマ?
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0707/27/news012.html
○Business Media 誠 2007/07/27
「“プラグイン”で、クルマのスタイルと周辺環境はどう変わる?」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0707/27/news027.html
○ラジオNIKKEI 2007/08/13
「プラグイン・ハイブリッドカーの可能性」
http://blog.radionikkei.jp/trend/index.php?ID=923&themes=
○ITmedia News 2007/06/19
「Google、プラグインハイブリッドカー普及計画を発表」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/19/news026.html
○環境の世紀 2007/06/23
「プラグインハイブリッドは、安定電力供給の巨大キャパシタへ」
http://akihitoblog2005.blog.ocn.ne.jp/kankyo/2007/06/post_9123.html
○WIRED VISION 2007/09/07
「Volvoから、電気が主力のプラグイン・ハイブリッド車」
http://wiredvision.jp/news/200709/2007091319.html
○WIRED VISION 「5分の充電で800km」新キャパシタ電気自動車 2007/09/07
http://wiredvision.jp/news/200709/2007090723.html
○ソフトエネルギー 2007/08/03
「トヨタ プラグインハイブリッド車の実証試験を秋より開始」
http://greenpost.way-nifty.com/softenergy/2007/08/post_ad2f.html
○販促のココロ─“エコの視線”をもった販促プランナーの雑学日記
「プラグインハイブリッドカー」時代が来るぞ! 2007/10/01
http://blogs.yahoo.co.jp/tknky176/17097039.html
○President 「プラグイン・ハイブリッド」2007/01/13
http://blog.goo.ne.jp/ecotech-res/e/7f3cc69ef49a6bd6a864750fc4f502a0
○おきらくプログラマー 2007/08/06
2015年燃費規制の「JC08」モードについて思う
http://mkozo.sakuraweb.com/article/5059177.html
○CNET 2006/08/16
「ハイブリッドは本命か?:次代のクリーンテクノロジーを模索する日本の自動車産業」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20199909,00.htm
○CNET 2006/05/23
スピード志向からグリーン志向へ--「プリウス」にみる今どきの車改造
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20120027,00.htm
○しなやかな技術研究会 「最新の電気自動車たち」 2006/08/09
http://greenpost.way-nifty.com/sinaken/2006/08/post_1dec.html
○しなやかな技術研究会 「プラグイン・ハイブリッド(カー)について」 2005/11/11
http://greenpost.way-nifty.com/sinaken/2005/11/post_02a0.html
○レジデント初期研修用資料 「組織の維持に必要なもの」 2007/07/03
http://medt00lz.s59.xrea.com/blog/archives/2007/07/post_512.html
○The Tesla Roadster: Electric Dream(YouTube映像 01:40)
http://www.youtube.com/watch?v=LhgctsVIrWc
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