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わが国でも動き始めた統合医療 その2 ─普及のための課題と展望

  • グリーンフラスコ株式会社 代表・薬剤師 
  • 林 真一郎

 薬や手術による西洋・近代医学とハーブ・アロマ・食事療法・マッサージ・音楽療法などの代替療法の両方を視野に入れて、患者さん中心の医療を実現しようという統合医療への取り組みが欧米で広がりつつあります。

 「総合」ではなく「統合」という言葉が示す通り、最終的にはふたつのものを足し算するのではなく、一度バラバラにして全く新しい「第3の医学」を構築することを目指しているのですが、当面はふたつの医学・医療を併用したり、意識的に使い分けるといった状況が続くものと思われます。

 こうした統合医療が望まれる理由は、感染症から心身症や生活習慣病といった慢性病へと疾病構造が変化したことと共に、医療サービスの受け手である患者さんのニーズの多様化があります。同じ病気でも手術を望む人や手術ではなく薬を飲んで様子をみる人、薬ではなく食事療法を試みる人とさまざまで、そうしたニーズに対応するために、米国では多くの医学部で統合医療の教育が行われています。

 もうひとつ重要なポイントは、統合医療は決して西洋・近代医学を否定するものではないということです。薬害や副作用を恐れるあまり、薬を否定して食事療法や健康食品、気功や瞑想などの自然療法だけに頼るのは、ときとして非常に危険な状況を招きます。

 統合医療のリーダーであるアリゾナ大学のアンドルー・ワイル博士も統合医療プログラムの目的として、1)現代医学の内側に統合医療モデルを構築することと、 2)新しい医学教育モデルを構築して、他の医学校に提供すること。さらに、 3)医師・薬剤師・看護師などに統合医療の理論と臨床を教育することをあげています。

 わが国でも数は少ないものの、統合医療教育を正式なカリキュラムに採用する医学部も出てきました。学術面では渥美和彦東京大学名誉教授が中心となって、日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)や日本統合医療学会(JIM)が組織され、活動を進めています。また、現役の医師を対象にしたものとしては、特定非営利活動法人統合医療塾(塾頭 川嶋朗東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニック所長)が統合医療教育をスタートさせています。

 さて、医療システムは社会全体のシステムの中のひとつのサブシステムなので、医療の内容を変えるには、法律や施策の変更が必要になるケースも多々あります。

 例えば、ストレスが原因で不眠を訴えている患者さんがクリニックで医師の診断を受け、薬を処方してもらったとします。それと同時に、心身のリラックスのためにアロマテラピーのマッサージを勧められ、本人の同意のもとでクリニックに所属しているアロマセラピストにオイルマッサージをしてもらったとしましょう。

 この場合に、当然のことながらオイルマッサージは保険がおりませんが、「薬代は保険で、オイルマッサージは自費で」という2種類の支払いも認められず、全額が自費払いになってしまうのです。

 保険診療と自由診療を同時に受けることを混合診療と言いますが、現在の日本では混合診療は禁止とされているためです。こうした制度を変えるには行政に働きかける必要があります。あまり知られていないことなのですが、実はわが国にも統合医療を推進するための超党派の国会議員連盟がすでに組織されています。

 ただし、統合医療が「患者さん中心の医療」を実現することを目的とするならば、統合医療の普及のための運動も医療サービスの送り手(プロバイダー)ではなく、受け手(ユーザー)が旗振り役になるべきでしょう。

 医療消費者としての市民の立場から真の健康を実現するために、市民レベルはもとより行政・教育・研究・医療などの各分野と広くネットワークを結び、安全、かつ適切な代替医療を受けることができる環境づくりを目指す動きとしては、カムネット(Complementary and Alternative Medicine Users Network 代替医療利用者ネットワーク)の活動が知られています。生老病死といわれるように、医療は全ての人間にとって避けて通ることのできない共通のテーマなのです。

          *NPO統合医療塾 http://www.togoiryojuku.com/

          *NPOカムネット http://camunet.gr.jp/


【関連情報】

○MediaSabor  2007/10/01
 「わが国でも動き始めた統合医療 その1 ─ 代替療法の基礎知識」
http://mediasabor.jp/2007/10/1.html


○MediaSabor  2007/09/03
 「世界のあり方を変えるハーブ(植物)療法のコンセプト」
http://mediasabor.jp/2007/09/post_201.html

 

▼アンドルー・ワイル博士 関連情報

○VOGUE NIPPONビューティー・ディレクター 麻生綾の美容編集者生活
 「アンドルー・ワイル氏」 2006/02/21
 統合医療の第一人者、現アリゾナ大学の内科教授であるアンドルー・ワイル氏に
  おめもじ。彼は2005年に『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」にも
  選ばれた、その世界のカリスマである
http://voguebeauty.exblog.jp/2869823/


○Doctors Blog 美人女医さんのひ・み・つ 「ワイル博士とお会いしました」  2007/05/29
http://blog.m3.com/Seclets/20070529/1


○猫のいいぶん , ハーブ屋の出来事
 「ヘルシーエイジング」【著】アンドルー・ワイル 2007/06/04
 アンドルー・ワイル博士が提唱実践する「統合医療の実践」ワークショップに参加していました。
http://blogs.yahoo.co.jp/jgnhm075/33520992.html


○増岡聖子(ラジオ番組パーソナリティ)公式サイト
 「代替療法:アンドルーワイル博士の翻訳家・上野圭一さん」  2007/09/14
http://report.seiko-masuoka.net/?eid=292333


○代替医療的 「アンチエイジング」に違和感を覚える人のために。  2007/05/23
http://camunet.at.webry.info/200705/article_2.html


○Tim & Yoshiko の「日々是好日」 「ワイルさんの来日」 2006/02/22
 この一週間ほど、来日したアンドルー・ワイルさんの日本での活動の
  通訳とコーディネーションを務めていました。
http://timyoshiko.blog26.fc2.com/blog-entry-41.html


○「マリファナ青春旅行」麻枝(まえだ)光一的大麻生活
 「アンドルー・ワイル博士と大麻」 2007/06/28
http://taimadobrog.livedoor.biz/archives/51168929.html


○整体とアロマで自然治癒力を高め、幸せな毎日を・・・@梅ヶ丘
 『ヘルシーエイジング』(アンドルー・ワイル博士) 2007/03/27
http://plaza.rakuten.co.jp/aromaseitai/diary/200703270000/


○イザ! トムのページ 『ヘルシーエイジング』(アンドルー・ワイル博士)  2007/04/11
http://kuri-momo-tom.iza.ne.jp/blog/entry/149776/


○テンコの落書き帳 「トランス脂肪酸」(ワイル博士の医食同源)  2006/12/09
http://blog.so-net.ne.jp/norimaki448/2006-12-08


○ユルユルヴェーダ生活 「昨日の続き」  2005/03/10
 (ワイル博士の医食同源) 
http://cococi.blog5.fc2.com/blog-entry-21.html


○ミルクのソムリエ、ミルリエときどき美容エディター
 「食事で美しくなれる」 2006/12/18
http://blog.so-net.ne.jp/crystalmimi/2006-12-18-1

  

 


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