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インドでは今年から、9月の第4日曜日は「娘の日」 ─女児間引き問題対策?─

<記事要約>

Happy Daughter's Day !

父の日や母の日、ヴァレンタインズデイなどを慣用化している西洋のコンセプトを見習う形で、Archies LTD(インドのギフトショップチェーン)が今、目指しているのは、この国特有の女児問題に焦点を当てていくことだ。

Archiesのアニル・ムールチャンドニー氏に聞いてみた。

「娘の日」なんていままで聞いた事もありませんでした。それはいったいどんなものなんですか?

ムールチャンドニー氏:

「娘の日(Daughter's Day)」というのは、女児を祝う日です。私達はこれを通して、「女児は男児と同様に、素晴らしいものである」という事実を人々が納得できるように試みようとしているのです。そして、古くからの「女児を授かる事は、同情をかわれる原因になる」という俗説を壊す試みをしようとしているのです。

私達は人々に、「a son is a son till he gets a wife,but a daughter is a daughter for life(息子は嫁をもらうまでは息子だが、娘は一生を通して娘である)」という諺を植えつけたいと思っています。この機会(「娘の日」の慣用化)は、親達に、自分の娘がどんなに素晴らしいかを見せるチャンスを与える事にもなるだろうし、娘は息子より少しも劣っていない、という事実を強調する事にもなるでしょう。

(The Economic Times 9月23日)

 

<解説>

朝の新聞を見たら、何ページ目かに「Happy Daughter's Day !!」などという見出しが躍っていた。どうやらインドでは今年から、9月の第4日曜日は「娘の日」になったらしい。

インドの深刻な社会問題のひとつに、「女児の間引き問題」がある。インドでは、古くからの多くの事情により女児が歓迎されないため、宿った子供が女児だとわかると中絶してしまうケースが後を絶たないのだ。

この時代にそんな・・・、と思われるかもしれないが、これは農村部に限った話ではない。それどころか、一見現代的に見える都市部の方がより顕著という事態で、しかも、インド全土の8割の地域においては、毎年悪化し続けている(1991年からの調査)。

例えば、数値を見ただけで、どれほど深刻かがわかるだろう。

「女児の間引き問題」において、いつも悪名をとどろかしているパンジャーブ州では、1991年の出生数調査では1000人の男児に対し、875人の女児がいたが、2001年の調査では798人にまで下降。その他、2001年の調査では、ハリヤナ州で819人、首都デリーでも868人となっている。最悪の地域では、703人という数字も出ている。

1000人の男児に対して700から800人の女児しかいないというのは、明らかに異常な数値である。ちなみにインド全土の平均は927人だが、これは「女児の間引き問題」がほとんどないケララ州(1000人の男児に対して、1036人の女児)などが含まれての数字である。

インドでなぜ女児がこれほどまでに忌み嫌われるかといえば、まず「ダウリー(結婚持参金)問題」があげられる。インドでは結婚持参金の風習が根強く残っており、結婚する時には新婦側の家が莫大な金額を新郎の家に収めなければならず、また、年々派手になっている結婚式にかかる費用も嫁側の家が負担するのだ。

「3人娘がいれば家が滅びる」とまで言われている。つまり、女児はいずれ、他の家に財産をもって行かれる要因にしかならないという事だ。これは、もともとインドでは財産相続権が男性にしか認められない社会であった事による。

持参金が少ない結果、嫁いだ先の家でいじめ抜かれた挙句に新婦が自殺するケースも後を絶たないため、この風習はなかなか姿を消さないどころか、要求される持参金の額は増える一方なのである。また、持参金の少なさが、新郎の家側による新婦の殺人に発展する「ダウリー殺人」と呼ばれる事件も同様に後を絶たない。インドの新聞にダウリー関連の自殺と殺人のニュースが出ていない日はないといっていいだろう。

また、「女児はいずれ他家へ嫁いでいってしまうものなのだから、教育を授けたり、投資をしても何の得にもならない。それどころか、他家の肥やしになるだけである」という考えから、女児には男児と同等の教育は与えられず、男児にするような投資もなされない場合が多い。カースト制度がはびこり、一族繁栄に全てを懸けるインド社会においては、家の肥やしにならない時点で、女児は重荷でしかないようだ。

一方、ケララ州は、インド全土で一般的な父系社会とは逆に、権力と財産が母系に継承される母系社会であるため、子供としての女児が忌避される事がない。「乞食までが新聞を読んでいる」と言われ、インドで最も識字率の高いケララ州では、もちろん女性の識字率もインドでトップである。

このような男児と女児の人口比率の異常な歪みにより、更なる社会問題が起きている。

ある地域では新郎に対して新婦が圧倒的に足りないため、「交換婚」などというものが一般的になっている。ある男女を結婚させるにあたって、新郎側の家は新婦側の家の兄弟に対して新郎の姉妹を嫁として与えるのが条件なのだ。ややこしいが、簡単に言うと、姉妹がいない男は余ってしまう仕組みなのである。

また、ビハール州などの最も貧しい州から女性を牛よりも安いような値段で買ってくる、もしくはさらってきてしまうという問題も多発している。買った女性を無理矢理自分の家の長男と結婚させてしまうのだ。この目的は主に「男児を産ませる」事で、嫁は男児を産んだと同時に捨てられる、もしくは家政婦同然の地位におとしめられる事が多いそうだ。

確かに、インドで暮らしていると、どうも男児を多く見かける気がする。街でもどこでも、女の子が少ない。また、女の私が初対面のインド人に「(男の)兄弟はいるのか?」と聞かれる確率は95%以上である。

「娘の日」は効を奏すのだろうか? 「あぁ、もちろん女性は素晴らしいさ!」と、女性信奉者になったかの如くに外では語りつつ、「でも、それとは別の話だから」と言って、女児を中絶し続けるインド人の図が容易に想像できるのだが。わかってやっているのだから、意識に訴えるくらいじゃ、治らない気がする。

 

【関連情報】

○葬儀の勉強 「ヒンズーのインド」 2007/05/08
http://plaza.rakuten.co.jp/basiisi/diary/200705080000/


○Klug 「インドから見る金価格の今後」 2006/10/25
http://www.gci-klug.jp/commodityreport/06/10/25/post_1923.php


○イザ! さまよえる団塊世代
 「インド・家庭内暴力法発効・・・女性に朗報」 2006/11/06
http://dankaisedai.iza.ne.jp/blog/entry/69182/


○アッチャー!? インド生活 「本と現実」 2006/06/30
http://aranyos.blog62.fc2.com/blog-entry-84.html


○+ ハハオヤな日々 + 「そんな国イヤだ!」 2006/04/03
http://yotsuba.livedoor.biz/archives/50343785.html


○世界読書旅  2005/07/07
 「インドの女性問題とジェンダー ―サティー(寡婦殉死)・ダウリー問題・女児問題」
  (著)マラ セン Mala Sen (翻訳) 鳥居 千代香
http://neto.blog10.fc2.com/blog-entry-855.html


○版元ドットコム 「インドの女性問題とジェンダー」
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN4-7503-1848-5.html

 

 


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