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ある古老の教え 正しい心の使い方

 前回は医療人の資質という観点について触れたが、今回は患者側の視点から健康に対する心得について、ある古老の知恵を紹介したいと思う。この話は、今まさに病に伏している人や健康になりたいと願っている人がいたらきっと参考になると思うので、当時の記録を出来るだけそのまま記す事にする。

 1998年の11月、ある健康雑誌の取材で私は熱海に住む古老の医師を尋ねた。その人の名は塩谷信男(しおや のぶお)さん。1902年(明治35年)生まれ。なんとタイタニック号の沈没事故があったときに10歳ということになるから、まさに歴史の生き証人という感じの人であった。インタビューに応じてくれた塩谷さんは当事96歳。矍鑠(かくしゃく)としてどう見ても70歳代にしか見えなかった。私の質問にうんうん、と頷きニコニコしたやさしい眼差しが印象的だった。

 ゴルフをする人なら誰もが耳を疑ってしまうような話だが、塩谷さんは65歳のときにシングルプレーヤーになり、94歳の時に人生3度目のエイジシュートを達成している。いったい何を食べているのか聞きたくもなる。塩谷さんは次のように語ってくれた。

 「私が実行しているのは玄米食です。それとおかずは生野菜。あとはね、南京豆(薄皮の付いたピーナッツ)ね。それに汁物が付けば汁物。私の住んでいるこのマンションではね、3度の食事が付きます。栄養士さんがちゃんと考えて作ってくれる。でもね、私はそれをあまりいただかない事にしている(笑)。私は玄米と菜っ葉。それに何がしかのおかずね、ときどき動物食もとりますがね。小魚とかイナゴみたいな頭から全部食うやつね…」

 取材のあとでいろいろ調べさせてもらったが、塩谷さんの食生活はほんとうに其のとおりの質素なものであった。

 「私は食べる量も少ないんですよ、本当に。それは周りが心配するくらい。でもね、私のこのカラダを見てください。これが栄養失調に見えますか…?見えないでしょ!なぜだかわかりますか。あのね、呼吸法が違うんです」

 塩谷さんは「正心調息法(せいしんちょうそくほう)」という独自の呼吸法を編み出し「大断言」という瞑想を毎日実践しているという。この呼吸法と瞑想が健康長寿の秘訣だと教えてくれた。

 「では、なぜ酸素が必要かというと、酸素は筋肉を動かしたりいろんな細胞に使われるんですが、一番酸素を必要としているのは実は脳なんです。脳は筋肉の7倍もの酸素を消費するんですね。それじゃ、脳は何でそんなに酸素を必要としているかといえば、それは脳の神経細胞は人間が生きて行くために必要ないろんな神経ホルモンを作っているんです。そうすると、これはもう酸素だけではどーにもならない。そこで糖質(ブドウ糖)が必要になってくるわけです」

 それで呼吸法が大事になってくるというわけなのだ。

 「しかし、ただの腹式呼吸じゃダメなんです。肺から心臓を通って全身に運ばれる酸素は赤血球とくっついていろんな働きをする。人間のおなかの中には消化したものを吸収するための腸が折りたたまれている。小腸はこの狭い腹の中に7メートルも折りたたまれているんですから、血液の流れだってどーしたって滞ります。よく丹田に力を込めるというでしょう。あれは、横隔膜が下の方にグッと下がって肺低がうんと広がるんです。これで腸の血行も良くなってくるわけなんです」

 ところが、塩谷さんの話はここから先が重要だという。心の正しい使い方が出来ていないと真の健康は維持できないというのだ。

 「なんと言ったって、心が一番大事なんです。私の呼吸法は正心調息法(せいしんちょうそくほう)と言いますがね、正心が主で調息が従なんです。正心とは何か。それはね、常識的に考えて正しいか、不正かっていうことは誰だってわかるでしょ、その程度の正しさでいいんです。それを基盤にしてですよ、こんどは『正しい心の使い方』なんです。じゃあ、『正しい心の使い方』って何かっていうと、それは

1)物事をすべて前向きに考える。
2)感謝の心を忘れない。
3)愚痴をこぼさない。

たったこの三つのことだけでいいんです。これだけだったらあなたにもできるでしょ(笑)」

 これは、もともと前向き、成長志向で出来ている私たち人間の本質を、その本然どおりに発現させるために有効な心の働かせ方でもあるという。

1)物事をすべて前向きに考える。
 「これはつまり、物事をよい方向へ考える効果は体の免疫力を高めるなど健康にまで及んでいることがわかっています。たとえ病気やケガをして仕事が出来なくなり、金銭的な負担が発生しても、物事には必ず二面性があって、病気をしたことで人の心のやさしさに気付いたり、他人の親切のありがたさが本当に理解できたりするプラス面だってあるわけです。反省しても後悔しない姿勢が大切です」

2)感謝の心を忘れない。
 「ありがたいという気持ちをいつも抱いていることです。心というのは波動であり、こちらが発している波長に見合った出来事が起こってきます。良い波長を出している人には良い事が起こるのです」

3)愚痴をこぼさない。
 「愚痴をこぼせば、そこにまつわる否定的な感情や負の心のありようが波長となって発せられ、結局また愚痴をこぼしたくなるような事態を招いてしまう事になるのです」

この『正しい心の使い方』は、実に合理的で誰もが実践可能な教えであり、人間教育の根源に根ざす要素が凝縮されていると筆者は感じている。病床にあっても実践可能な究極の健康法ではないだろうか。

 

 


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