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若者が旅行に行かない!? 

 世界的な大交流時代を迎えるなか、日本の若者の旅行離れが進んでいる――。
9月13日に東京ビッグサイトで開催された「JATA国際観光会議2007」の基調講演でも、日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)の舩山龍二会長が、旅行市場における中高年層の伸びに対して、若年層が著しく低迷している状況を危惧している。

 法務省のデータを基にした出国率を2000年と2006年で比較すると、20─24歳の男性は12・4%から11・5%に、女性は27・4%から22・5%に、7年間で大きく減少している。25─29歳では、男性は20・1%から17・3%に、女性は31・5%から25・0%に減少。さらに、30─34歳では男性が23・8%から21・0%に、女性は21・3%から19・3%といずれも減少している。とくに女性の減少幅が大きい。

 これはどういうことか。舩山氏は「経済成長はしているものの、実質所得が伸びないことや、派遣社員や契約社員など非正規社員採用が広がった影響」をあげる。

 そのほかにも、ITの普及により、バーチャルな世界に没頭して旅行に行かないなど、若年層のひきこもり傾向を指摘している。

 日本経済新聞社が今年6─7月に実施した20─30歳代を対象にしたアンケート調査でも、「若者は車への関心が低く、お酒はあまり飲まない。休みの日は自宅で過ごし、無駄な支出を嫌い、貯蓄欲が高い」という結果が現れた。この傾向が強まれば、当然旅行への意欲は薄くなる。

 旅行は考えようによっては、究極の「無駄な支出」であるからだ。

 一生懸命働いた見返りとして「旅行に行ってパッと使い果たそう!」という考え方も一つ。「借金をしてでも大旅行をして見聞を広め、将来の糧にしよう」という考えもある。いずれにせよ、旅行は時間もお金もエネルギー(生命すら)も消費してしまう。そのわりに、「目に見える確実な何かが手のひらに残るものではない」のだ。

 20歳代の若者に貯蓄欲を高めさせている国のあり方も、どうかと思う。年金問題などが毎日のようにニュースで流れ将来の不安を煽る。ニートの問題や、派遣や契約社員の割合が上昇する社会構造のあり方が、直接的、間接的に若者の行動に反映される。
「旅行などに行ってる場合じゃない!」という気持ちは余裕のない社会の現れなのだろう。

 問題は、社会構造だけでなく、人間(若者)が旅行自体にも興味を抱かなくなったら……。

 例えば、一昔前は、夏といえば少年少女はオートマティックにキャンプに行っていた。しかし、それはまだ自宅にそれほどクーラーが完備されてなく、蚊取り線香で蚊を落としていた時代のこと。だから、山の奥や海辺のバンガローで過ごす一夜と、実生活との落差はそれほど乖離したものではなかった。

 だが、今や住環境はオール電化住宅に様変わりしようとしている。一年中エアコンが稼動し、花粉やアレルギー除去のために空気清浄機が二十四時間活躍する快適空間に暮らしている。見たこともない虫が飛んで来て刺すし、熱帯夜に誰が使ったかわからない毛布にくるまり、それほど知り合いでもない人と雑魚寝(ざこね)をすることを不快に思う心理も理解できる。

 IT化への生理的な反発から、野に、山に、自然に還るようなエコロジカルな生活や、旅を求める人も多いだろう。しかし、その数は絶対数として少なくなっていくのではないか。IT社会への反発も、やがて低反発になり、受け入れていく。

 とくに若者にとって、不便の代名詞である「旅行」への意欲が、快適な日常生活に勝てなくなってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 世界でも比類なき清潔・快適空間をつくり出した日本において、若者が、一部の好事家や冒険好きを除いて、未整備の秘境を嫌うのはわかる。都市だって同じようなものだ。パリやニューヨークやミラノなどの最新情報が横溢するなかで――日本同様の快適性を維持できる富裕層は別にして――言葉の通じない安ホテルの堅いベッドで天井を睨み、わざわざ水の合わない地で食べ慣れない料理を注文し、今さら物珍しくもない海外旅行でありきたりのエピソードを求めるだけなら、「数十万円を出費するだけの価値がない」と判断する気持ちもわからないでもない。

 日本の若者を旅に突き動かすものはなにか? もはや一律的に情緒に訴えるような宣伝文句では無理だと思う。若者にとっても、若者の需要を狙う側にとっても、難しい時代である。

 

【関連情報】

○勝手にメディア社会論 2007/08/11
  二十代女性の海外旅行三割減─時代は「たかが欧米」(1)
http://blogs.yahoo.co.jp/mediakatsuya/50717457.html


○「モーターホームの旅」専門旅行会社 社長の格闘日記
 「若者の旅行離れについて、、、」  2007/04/16
http://motor-home.blog.hobidas.com/archives/article/21894.html


○かずたちのブログ 「20代の海外旅行離れ」 2007/08/05
http://blog.goo.ne.jp/suuji123/e/d8e7a441592d6a3aea82645e41d143ed


○All Things Must Pass  2007/08/21 
  「若者のクルマ離れについて 若者が夢も車も持てない社会それが今の日本の現状」
http://blog.goo.ne.jp/ns3082/e/5f61e38aedfcc7dee97f576ba00f2e7a


○livedoorニュース 2006/03/06
  【ファンキー通信】外国から帰らない若者たち・・・その名も「外こもり」
http://news.livedoor.com/article/detail/1754057/


○米国からの便り 「20代の若者の海外旅行者数が低下」 2007/08/04
 (海外移住と海外生活の基礎知識)
http://kensirou2001.blog79.fc2.com/blog-entry-204.html


○phaのニート日記 「放浪生活のための宿泊ガイド」2007/08/30
http://d.hatena.ne.jp/pha/20070830/1188441797


○シンチャオ ハノイ イン ベトナム!
 「日本人海外旅行者の数が 伸び悩みだって」 2007/08/05
http://blogs.yahoo.co.jp/akira0ma/15220263.html


○北海道・観光ミシュラン 北杜の窓
 北海道は若者の旅誘致を、「旅離れ」の今だからこそ 2006/06/11
http://www.hokutonomado.com/kankou/archives/2006/06/post_64.html


○徒然★IRONY 「若者の旅行事情」 2006/08/15
http://blogs.dion.ne.jp/theta/archives/3964892.html


○バックパッカー見習いのひとりごと
 「旅行離れってホンとかよ?+俺の人生哲学」 2006/12/24
http://tomcat191.blog50.fc2.com/blog-entry-44.html


○紅茶の国的トルコなデーロン生活 2006/12/07
 若者の旅行離れが進むなかで「採算度外視」の大サービス価格を打ち出して
  囲い込みを図る「卒業旅行」商戦が過熱しているそうです。
http://d.hatena.ne.jp/piedpiper/comment?date=20061207

 

 


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どうして若者は旅をしなくなったか 2007年12月03日 23:56
旅行関係の方のブログからリンクをはって頂いていたので、何気なく見たら、若者は海外旅行どころか、旅行...