イタリアでのたけし(北野武)人気と世界を驚かせた浮世絵
- イタリア在住ジャーナリスト
イタリアで日本映画が語られるとき、ふた昔前だったらまず筆頭に挙げられたのはアキラ・クロサワ(黒澤明)だっただろうが、いまやまぎれもなくタケシ・キタノ(北野武)だ。
世界三大映画祭のひとつ、ヴェネツィア国際映画祭では、今年はなんと「監督・ばんざい!」賞という彼の出品映画の名前にちなんだ賞が新設され、北野監督がそれを受賞した。
ベネツィア国際映画祭のメーン会場正面
映画監督としての北野武が一躍有名になったのは、93年のフランス・カンヌ映画祭での「ソナチネ」出品以降である。その後、97年のイタリア・ヴェネツィア映画祭における「HANA-BI」の金獅子賞受賞により、その名声を決定的なものにした。
ヴェネツィア映画祭に関していえば、2000年以降、「BROTHER」、「Dolls」、「座頭市」、「TAKESHIS’」、そして今年の「監督・ばんざい!」と、ほぼ2年に一度のペースで作品が上映されている。「ソナチネ」から十数年が経ち、コアなファンは確実に増えた。イタリアで北野監督の作品が上映されるときは、彼の出場を待っておそろいのTシャツを着たファンの一団が現れるという。
北野作品というと暴力的なイメージがつきまといがちだが、ある映画専門誌の中で行われた人気投票によると、「HANA-BI」、「ソナチネ」にならんで「菊次郎の夏」や「あの夏、いちばん静かな海。」の人気が高いのが目を引く。
では、北野作品のどういうところが魅力なのか。
筆者は「HANA-BI」をイタリア中部の都市で観た以降、大方の彼の作品をヴェネツィアの映画祭で鑑賞した。(残念ながら今年は見逃してしまったのだが。)翌日の新聞に載る評論家の記事よりも、観客の反応の方が気になり、観客の様子を観察したものである。
一言で言うと、ハリウッド映画を観たあとのそれとは違ったものだった。「楽しかった」「感動した」というような、あとあとスッキリ・カタルシス型とは一線を隔すもので、娯楽というよりもむしろ芸術を堪能したあとの感覚とでもいおうか。
ベネツィア国際映画祭開催期間中に監督、俳優らが宿泊するリド島のエクセルシオールホテル
北野武といえば、日本では頂点にいた漫才師であり、俳優であり、博識な司会者としてつとに有名だが、タップダンスを踊り、ピアノを弾き、絵を描くマルチなアーティストでもある。氏のこうした芸術センスが、映画のなかにこれでもか、と凝縮されているのだから、芸術を堪能した、と言っても言い過ぎではあるまい。
踊りや音楽や絵を楽しむのに言葉が要らないのに似て、北野作品を堪能するのに言語の壁があまり気にならない、ということも言えるのではないかと思う。
余談だが、映画祭における(少なくともヴェネツィア映画祭でわたしが見た限りでは)外国映画の作品は、イタリア語の字幕が入っている。興行作品として全国各地で上映されるものは、声優が話す母国語に吹き替えられているので、字幕になれていない観客が、原語を聞きながら字幕を読んでいく映画鑑賞は、おそらく日本人が考えている以上にしんどいものであるはずだ。
しかし北野作品は、セリフにムダがない。少ない。かわりにそれを補うかのような、ものいいたげな映像がぐんぐんせまってくる。たぶん観客は、この手法に「なんなんだ。コレは!」と圧倒されるんだと思う。
北野監督が意識するしないにかかわらず、監督の描く作品にはニッポンがたくさん詰まっている。寡黙なヤクザ、妻思いの不器用な夫、おそろしく腕の立つサムライ、本人の意に反した結婚、紅葉の赤、それから、独特の間合いを持つ、少し哀しみをおびた笑い。観客は、それら日本的なものの根っこや背景などを理解するすべをもたないまま、北野作品を、観て感じて帰っていく。
ところでイタリアでは、80年代半ばごろの日本のバラエティ番組、「風雲!たけし城」が、90年代初頭に放映され、一大ブームとなった。また、ここ2年ほどの間にも、平日のゴールデンタイムに再放送されている。
このお笑いバラエティのイタリアでの人気が、北野作品の知名度に貢献した、ということはないのか。ヴェネツィア大学で教鞭を持つ日本映画の専門家に尋ねてみた。
彼女によれば、
─「風雲!たけし城」をテレビで見ている層と、映画館に行って北野作品を観る層は違う。北野作品のイタリア人ファンが「風雲!たけし城」の中の北野武と出場者の日本人を見たら、「ここに出ている日本人は、北野武がとてつもない才能の持ち主なんだということを本当にわかっているのだろうか」とむしろ疑問に感じるのではないか。─
この彼女の意見を裏付けるような評論を一部、紹介したい。2002年、東京大学フィレンツェ教育研究センターで開催されたセミナーでの、ダニエレ・メオーニ氏による一文である。
─ 北野監督作品は1989年の「その男凶暴につき」に始まるが、その後の「3-4x10月」「あの夏、一番静かな海」に到っても、日本では誰も気にとめなかった。彼の作品が知られるようになったのはヨーロッパが最初で、特にイタリアでは、タオルミーナでの「ソナチネ」への賞の授与(1993年)から始まった。コメディアンとしてではなく、映画監督としての北野武を日本人に知らしめたのは我々である。─
要するに、日本人には北野武の才能はわからない、と言っているに等しい。
その昔、輸出用の陶器の包み紙に描かれていた浮世絵が、ヨーロッパの人を驚かせ、日本人の知らないところで画家達に多大な影響を与えたんだとか。
われらがビートたけしは、現代における浮世絵だったのかも知れない。
【関連情報】
○世界の北野 ─ビートたけし・北野武ファンページ─
http://kitanotakeshi.web.fc2.com/
○オフィス北野
http://www.office-kitano.co.jp/
▼書評:『天才をプロデュース?』 森昌行
○映画な日々。読書な日々。森 昌行 『天才をプロデュース?』2007/07/24
そしてこれが今一番私の中でホットで参考になった話だったのですが、プロデュースする
人間にとって必要な能力として、「気づく」ということが書かれていました。
「気づくか気づかないか」は、「分かるか分からないか」よりはるかに重要だ、と。
自ら気づくこと。気づく人は、こっちが何か言えば早く気づくけれど、言わなくても
やがて気づく。それは一つの才能。本人が気づかない限り、その人のものにはならないと
書かれていたんです。
http://ameblo.jp/4rusmasako/entry-10039920152.html
○celebi庵 「天才をプロデュース?」読んだ 2007/06/30
私の中のニーチェは、「何のために生きたかを問うために生きていけ」と私に
説きます。人は何のために生きるのか、なんていう問いには結論なんかないん
だ、そもそも自分が誕生した理由も分らないのに、存在し続ける理由なんて分
かるはずがない。しかし、無限の可能性の中で、人間はその生き方を考え、実
践することならばできるぞと、ニーチェは私に教えてくれました。創意工夫を
繰り返し、自問自答し続け、自分は出来ていると思っても他人には「出来てな
いよ」と言われるかもしれないけど、人生の最後に「私はこのように生きまし
た」と言えるのが人生の目的という考え方です。
http://d.hatena.ne.jp/celebi/20070630
○旦那@八丁堀 2007/06/23
「プロデュースできないのが天才だ!>>>>天才をプロデュース?」
あの淀川長治さんがタケシワールドにはまったきっかけが「あの夏、いちばん静かな海。」
と言うエピソードは正直意外ではありましたが、「あの乱暴な人がこんなに美しく優しい
映像を撮れるなんて思わなかった」という氏のコメントの後半には激しく同意します・笑
http://hatchobori.exblog.jp/6368391/
○樋口雅子(明治図書出版 編集長) 教育マグマ日記
「書評は読まない?」 2007/06/25
プロデュース業の極意?として、
・「ビートたけしさんのすべてがすごいですよ」といいたいけどそうはいかない。
だから自分の役割があるのだ。
・仲がいいという関係ではない。常に一定の距離感を持って仕事をしている。
・いつも、これで最後かもという姿勢で仕事をし、予定調和的な考えはない。
・マネジメントの本質は他者の視点。ファンにはお金を払えばなれるけど、プロは
お金を支払う立場ではなく、生み出す立場でなければならない
http://edublog.jp/anti-ageing/archive/78
○Gori -ふどうさんやのおやじ- 2007/06/21
「天才をプロデュース? -森昌行」読みました。
http://blog.livedoor.jp/ppdwy632/archives/50684334.html
▼「北野武」関連
○シネマトゥデイ 2007-09-01
【第64回ヴェネチア国際映画祭】北野武を“映画の神様”とあがめる
イタリアの一団、ちょんまげで現る!
http://cinematoday.jp/page/N0011383
○NUMB 「ソナチネ」 2006/03/30
「あんまり死ぬのを怖がってると、死にたくなるんだよ」
歌い、踊り、笑い、遊び、そして死ぬ。それ等はここではすべて同列で等価値だ、
いや、初めから同列なのを我々が気づかないだけなのかもしれない。
http://diracsocean.blog16.fc2.com/blog-entry-503.html
○北野武監督作品 ソナチネ予告編(YouTube映像 00:51)
http://www.youtube.com/watch?v=xzvv3-q3Z50
○小鳥ピヨピヨ 「北野武と美輪明宏」 2006/04/14
「TAKESHIS'」を見ました。一番印象に残ったのは、美輪様(美輪明宏)の
扱いです。映画の中で「あんなのただのバケモノじゃねえか」と言い放ち、
場末の適当なセットで歌わせ・・・
http://coolsummer.typepad.com/kotori/2006/04/post_5.html
○So-net blog 風に吹かれて 「北野武」 2006/01/23
昨年、フランスから遊びに来た、パリ大学の学生に聞いたところ、
日本人で一番有名なのは、サッカーの中田と北野監督と話した。
http://blog.so-net.ne.jp/reiji-reiji/2007-01-23-2
○イザ! Cool Cool Japan !!! 2007/08/01
「見よ!モスクワのクレムリン近くに現れた長さ400メートル、
高さ15メートルの北野武巨大看板」
http://sasakima.iza.ne.jp/blog/entry/253322
○ビートたけし ロシア CM(YouTube映像 00:30)
パナソニック 薄型テレビ「VIERA」
http://youtube.com/watch?v=pu-Txbqv6yc
○FIFTH EDITION 「はてなのいつか終わる夢」 2006/01/25
エンタメ業界の端っこにいる身としてビートたけしの言葉を心に刻んでいます。
「ファンはいつまでもファンではいてくれない。それでも芸人は芸を磨くのを
やめてはいけない」
http://blogpal.seesaa.net/article/12260886.html
○So-net blog:Merci pour tout 「風雲たけし城」 2006/04/01
http://blog.so-net.ne.jp/chiglarsha/2006-04-01
○NewtonWorldの”松に古今の色なし” 2006/09/20
「今イギリスで風雲!たけし城がOnAir」
http://timelimited.blog73.fc2.com/blog-entry-81.html
○ORICON STYLE 2006/09/15
次の首相は北野武か太田光!?『総理大臣になって欲しい有名人ランキング』
http://www.oricon.co.jp/news/ranking/34852/
○関心空間 「イタリア・ガリレオ2000賞文化賞」 2006/04/25
http://www.kanshin.com/keyword/943917
○北野武/ビートたけし研究所 2007-09-07
[キネマ旬報]1991年9月下旬 宮島英紀「北野武の監督日記第3弾!!
MAKING OF『あの夏、いちばん静かな海。』」
http://d.hatena.ne.jp/Tezuka-Comaneci/
○キタノ・タケシ・ヴェネツィア・サッサリ・ファンクラブ(イタリア語)
http://kitanofanclub.altervista.org/home.htm
○東京大学フィレンツェ教育研究センター資料・セミナー序文(イタリア語)
http://www.ut-florence.it/200209kitano.bio.pdf
○ビエンナーレ・ディ・ヴェネツィア公式サイト
http://www.labiennale.org/it/cinema/
○日本映画情報サイトNEON・EIGA
http://www.neoneiga.it/registi/kitano/
○映画情報誌 チネマ・デル・スィレンツィオ(イタリア語)
http://www.cinemadelsilenzio.it/index.php?mod=star&ids=260
▼「浮世絵」関連
○春画 浮世絵 電脳ギャラリー ─桜吹雪の下で─
日本が誇る美とエロス、春画・浮世絵の世界。江戸より昭和までのバリエーションに
富んだ春画・浮世絵 画像や関連商品の通販サイトです。
「春画について」
http://nijinokuni.4.dtiblog.com/blog-entry-1.html
○HEAVEN 「米議会図書館の浮世絵」 2005/08/09
http://chiquita.blog17.fc2.com/blog-entry-56.html
○浮世絵
このホームページでは江戸時代の春画をたくさん紹介しています。
http://www1.ocn.ne.jp/~matikado/index.html
○GIZMODO 「浮世絵トランプ」:エロな和風トランプ 2006/12/30
http://www.gizmodo.jp/2006/12/post_684.html
○浮世絵が動く動き絵
http://ugokie.diginauts.com/
○*LOVE IS DESIGN* 「浮世絵に学ぶ日本の伝統色と配色」 2007/06/27
http://sweetlovexx.seesaa.net/article/46000803.html
○Ukiyoe-Gallery -Ukiyo-e & Shin Hanga Japanese Woodblock Prints, Library,
Advice for Collectors, Articles
http://www.ukiyoe-gallery.com/index.htm
○名古屋テレビ 浮世絵美術館
http://www.nagoyatv.com/ukiyoe/
○浮世絵画像リンク集
http://www.geocities.jp/web_ukiyoe/link2.html
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