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転職防止策は給与だけでは不十分─ 重要度が増すオフィス環境(福利厚生)の向上

サブプライムに対する懸念もどこ吹く風、ダウジョーンズが1万4000ドルを突破した米国だが、中でもこの世の春を謳歌しているのが南カリフォルニアの企業群。ここ数年の人口流入は今も継続しており、失業率も低く抑えられている。

より良い環境を求めて他州、更には国外から移住してくる人々。彼らが求めるのは住環境の向上だけではない。生活の糧を得るための職場においてさえ、居心地の良さが追求される。米国のリサーチ会社、モダン・シンク社は、このたびロサンゼルスのローカル企業の労働環境満足度調査を行った。

ロサンゼルスに本拠を置くあるリース会社。社員が生活をリフレッシュするための費用を毎月500ドル負担する。ヨガやピラティスに通う、飛行機の操縦を習う、寿司スクールに通うetc、生活のリフレッシュメントとなる事なら基本的になんでもOKだ。

同じくロサンゼルスのエンタテインメント系コンサルティング会社では、ペットを職場に連れてくることを許可している。職場にマッサージ師を呼び、社員のストレス解消に努めている企業もあった。

それもこれも、高い技能を持つ専門職を他社に引き抜かれないための方策だ。米国のワークフォースの流動性はつとに知られているが、ここにきて、マーケットリサーチや広告企画など、いわゆるスペシャリストの引き抜きは激化している。企業の環境をリサーチするコンサルティングファーム、モダン・シンクのジョン・ボイヤー氏は、引き抜き対策としての労働環境向上の重要性を強調する。

「サラリーやストックオプションなどのベネフィットは社員にとって重要なファクターに違いない。しかし、実はそれ以上に大切なのが居心地の良い労働環境だ。離れるのが惜しい労働環境は、給与額以上に従業員を引き付ける」

これが事実かどうかは置いておいて、給与面での待遇の向上がすでに限界に来ている事も確かだ。ストックオプションやリタイアメントプランはどの会社でもすでに頭打ち、どんぐりの背比べ状態だ。もはや差別化の要素は職場環境くらいしか残っていない。その上、こうした専門職はすでに複数の転職経験があり、居心地の良い職場が給与以上に大切であることを熟知している。いくらサラリーが良くても、げんなりするようなオフィスに行くのは御免というわけだ。ある労働環境コンサル会社の担当者はこう語る。「従業員は皆賢くなっている。トータルな人生の快適性は給与以上に大切だ、というのが彼らの考え方だ」

さて、今回の調査でトップに輝いたのは投資顧問会社、キャピタル・グループのロサンゼルス支社。勤続10年以上の社員が多いというのは、この業界ではきわめて異例だという。NBAのレイカーズや野球のドジャースのチケットが無償で配布される。従業員の子供への奨学金制度まである。

日本人からするといささかサービス過剰の感がある労働環境改善ブームだが、こうした努力は決して無駄ではない、と主張するのはスタンフォード大学ビジネススクールのジェフリー・プレファー教授だ。プレファー教授によれば、プロジェクト途中での従業員の離職による損失は計測不能なほど大きいという。従業員勤続年数と企業の成功の度合いに相関関係があることも証明されている。

「従業員の満足度と企業の成功の度合いには、歴とした関係がある。業務に通じた従業員を離職させない事は、企業の勝ち残りにとって必須条件なのです」。

業務内容や企業文化を知り尽くした従業員は企業にとって計り知れない資産である─これはまさに、かつての日本の終身雇用の思想ではないか。安定した経済発展が続く米国で、こうした考え方が頭をもたげてきたのは興味深い。

 


【関連情報】

○MediaSabor 2007/08/24
 「アメリカ企業の成果主義は変わるのか? ―企業のメンタルヘルス対策 その2」
http://mediasabor.jp/2007/08/2.html

○【リクナビNEXT】退職理由のホンネランキングベスト10(2007年)
http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/01/honne2007/honne2007_01.html?vos=nynmalst000001001


○ByoZINE 「辞めたくなる会社の特徴」 2007/09/30
http://byokan-sunday.haru.gs/2007/09/post_34.html


○ITmedia News 2007/10/19
 [WSJ]シリコンバレー企業が個人ブースを考え直す理由
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/19/news028.html


○WIRED VISION  2007/10/05
 Intel社:オフィス環境改善のために「電子メール禁止」?
 O'Brien氏は、まったく同じような小部屋が迷宮のように果てしなく続くIntel社の
  社内を歩き回りながら、「こうした環境に置かれた従業員は、基本的に、自分たちは
  みな無個性な人間だと感じるようになる」と茶化し、「個性も希望もなく、人生は
  可能性に満ちているという感じもしない」と言葉を続け、会場の笑いを誘っていた。
http://wiredvision.jp/news/200710/2007100520.html


○SiteBites Blog  「従業員を子ども扱いする会社」2007/01/12
 ここまできて日本のことを振り返って考えてみる。「終身雇用」という形態自体が実は
  Googleを一国規模に拡大したような形態であったのではないかと、ふと思った。会社を
  離れては生きていけない人たちの存在と、そのような多数の人々で戦後の驚異的な
  経済発展があったのだとしたら、逆にGoogleこそが日本型企業の雇用形態をちょっと
  アレンジして一企業でやったに過ぎないのかもしれない。
http://sitebites.homeip.net/blog/227


○CNET  2007/06/28
 「嘘か誠か?元社員が明かすグーグルの職場環境と待遇」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20351827,00.htm


○CNET 2006/05/22
 マイクロソフト、従業員福利制度を再見直し--「タオル洗濯サービス」も復帰
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20118347,00.htm


○住みたいところに住める俺 「オフィス環境比較その1」2006/08/17
 これまで欧米の色々な会社のオフィスを訪れる機会があった。会社によって
  カラーがあって面白い。実用性を重視しているところとか、デザイン重視とか。
http://remote.seesaa.net/article/22446100.html


○住みたいところに住める俺 「オフィス環境比較その2」2006/08/18
 ソフトウェアエンジニアの資本は脳と体だ。それが十分に発揮するように、投資する
  という発想はないのか。工場ではスループットをあげるために、何億もする製造装置
  を買う。同じようにソフトウェアエンジニアの椅子とPCとモニタぐらいはよいものに
  してもらいたい。何もキューブをくれと言っているわけじゃない。
http://remote.seesaa.net/article/22491821.html


○広告深夜族(新しい朝がきた?♪)2006/09/10
 書評『POST-OFFICE ワークスペース改造計画』
  著=岸本章弘 仲隆介 中西泰人 馬場正尊 みかんぐみ TOTO出版
 「<働く環境>は与えられるものではなく、自分でコントロールし、デザインする対象に
  なりつつある。自分で考えないと、仕事のクオリティが低下しかねない。そこで、
  <働く環境>を考えることが仕事の一部になり、仕事のプロとして、仕事のクオリティを
  サポートする<働く環境>を整えることが欠かせなくなってきている」「やり方の決まって
  いない未知の仕事に取り組む人ほど、ワークデザインが必要である。
http://3599.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_10e7.html


○mosaki的東京経験値 「POST-OFFICE POST-PEOPLE」2006/03/05
 POST-OFFICEは多くの人のオフィス環境への考え方がちょっと柔軟になれば、という
  願いから生まれたわけだが、個人的にはこの著者さんたちのような、助教授だとか
  事務用品の会社の人、という、一昔前ならカタブツみたいな肩書きの人物たちが、
  こんなハッピーでファニーなアイディアを、希望を込めて世に出すようになった、
  そんな時なんだな、という時事性が一番グっときたのだった。
http://blog.mosaki.com/?eid=435658


○近藤淳也(「株式会社はてな」代表取締役) jkondoの日記 
 毎朝好きな場所に座る「フリーアドレス」 2005/12/08
 フリーアドレスの利点はいろいろありますが、まずコミュニケーションの相手が
  固定化しない点があげられます。毎日ランダムに周りの人が入れ替わるおかげで、
  社員同士のコミュニケーションに偏りが少なくなり、「たまたま営業の人と開発の
  人がとなりに座ったら、結構面白い話ができてよかった」みたいなことが生まれたり
  します。どこか一箇所にノウハウが片寄ったり、社員同士の派閥みたいなものも
  できにくいという効果があります。
http://d.hatena.ne.jp/jkondo/20051208/1134006169


○GIGAZINE  2006/07/07
 「Googleのオフィスはいかにして作られたのか」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20060707_google_office/


○GIGAZINE  2006/04/25
 職場に置き菓子サービス「オフィスグリコ」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20060425_glico/


○池田信夫blog  「グーグル:迷い込んだ未来」 2006/06/30
  創業者のラリー・ペイジは日本が好きで、グーグルも日本企業の家族的な雰囲気を
  取り入れているという。物的資本よりも人的資本を重視するという点で、両者には
  共通点があるが、日本の会社が徒弟修業や年功賃金で従業員を囲い込むのに対して、
  グーグルは知的環境によって技術者を囲い込む。創造的で自由な仕事ができ、優秀な
  同僚がいるということが、その最大の企業価値である。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c4ccdbfecaced17dd10e1f035aaabd8c


○News2u.net 2007/07/10
 株式会社リンクアンドモチベーション : モチベーション高く働くための制度
 『ライフイベントサポート制度』
http://www.news2u.net/NRR200719851.html


○【FPD の人間工学ガイドライン検討委員会】
 ノートパソコン利用の人間工学ガイドライン─パソコンを快適に利用するために
http://www.ergonomics.jp/fpd/note_pc_guide/NP_ergoGL.html

 

▼オフィス関連映像集

○Ergonomist's Office(YouTube映像 01:29)
http://jp.youtube.com/watch?v=35SZ-M7mfhQ


○Humanscale Ergonomics(YouTube映像 07:16)
http://jp.youtube.com/watch?v=S_F-yaQ4Xqc


○Herman Miller Aeron "Office Hockey" Commercial(YouTube映像 00:31)
http://jp.youtube.com/watch?v=201mW9yLtS4


○How to Make ANY Chair an Ergonomic Chair(YouTube映像 00:55)
http://jp.youtube.com/watch?v=BUMZ5u1dtJw


○Ergotron LX Desk Mount(YouTube映像 03:59)
http://jp.youtube.com/watch?v=HWfxNNczlnI


○Google Recruitment Video(YouTube映像 07:21)
http://jp.youtube.com/watch?v=JcXF1YirPrQ

 

 


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