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スパム「郵便」の復権?

スパムメールが氾濫してるせいで、コミュニケーション手段としての電子メールの価値
は大幅に低下しているという話はかなり前から出ているが、そういう目でみるとちょっと
興味深い話があった。

海外ビジネスに以前から関わっている人なら、かなりの確率で、「政情不安な国からの
送金」をネタにした詐欺の話を知っているか、実際にそうした郵便を受け取ったことが
あるだろう(この件については自分のブログhttp://www.h-yamaguchi.net/2006/08/post_3deb.htmlでも前に書いたことがある)。

日本でもよくある「見せ金」で金をだましとろうとするものだ。典型的にはナイジェリア
から秘密裡に送金したいが協力してほしい、という類で、90年代までは国際郵便で企業幹部
みたいな人に送りつけるのが一般的な手口だった。それが、電子メールが普及して以降、
電子メールを利用するようになった。電子メールはコストが低いから、相手を選ばず誰にでも
送りつけられる。ここ数年はもっぱら電子メールでしか見なくなっているように思っていた。

ところがごく最近、さらに状況が変化している、かもしれない。先日フィンランドの友人が
受け取ったのは、ロンドンからの国際郵便によるもの。差出人は弁護士を名乗っているが
連絡先が電子メールだけ、しかもフリーメールのものだったそうで、まあ普通だまされる人は
いないだろうが、「郵便」であったことには注目すべきではないかと思った。

1つの事例だけだから、むろん確信などない。ひょっとしたら、という雑談レベルの想像でしか
ないのだが、これは電子メールから郵便(いわゆるsnail mailね)への「回帰」の動きの
あらわれかも、と思ったわけだ。

この種のことをやる人というのは、ある意味非常に「努力家」で、情報にさとく、かつ
金に関して非常に敏感なのではないかと想像する。知恵を働かせ、無駄を削り、その上
で、誰かが引っかかってくれるかも、という「確率論」に賭けるわけだ。郵便に比べ、
電子メールはメッセージを送るコストが圧倒的に安い。相手を経営者に絞り込むことは
難しいかもしれないが、その分たくさん出せばいい。電子メールへの移行にはそういう
計算が働いていたはずだ。

しかし今や、スパムメールは氾濫し、自分たちが送るメールもほとんどはスパムメール
フィルタに阻まれてしまう。スパマーの敵はスパムメール、なわけだ。たとえ届いても、
郵便とちがって電子メールにはタイトルがついているから、まずタイトルだけでごみ箱へ
直行となる。さらに、読まれたとしても、スパムメールがあまりに多いから、たいていは
「ああまたか」としか思われない。情報への信頼度が低いのだ。そもそも届かない、
読んでもらえない、信用してもらえない状況では、いくらコストが安く、「確率論」とはいえ、
あまり成果が上がらない状況になっているのではないかと想像する。

だからこそ、の「原点回帰」なのではないか。コストをかけてでも、郵便で送ったほう
が、確実に届き、読んでもらいやすい、信用される確率も高い、という判断になったの
ではないか。そういう「空気」を、郵便をロンドンから送りつけた人たちは、いち早く
かぎとったのではないか。

もちろん、だからといって、電子メールがなくなって皆が郵便に戻る、などということ
はないだろう。しかし、伝えたい情報の性質によっては、遅くてもいい、コストがかか
ってもいい、確実に届いてほしい、確実に伝わってほしいということもあるだろう。
そうした場合における郵便の価値は、逆にこれまで以上に高くなるかもしれない。

サービスがコモディティ化すると、より「不便」でコストのかかる旧式のサービスが
ハイグレードなものとして復活してくる、なんてことはよくある。MP3だのiTunesだのの
時代になってレコードが復権したり、船旅がぜいたくなものとなったり。

考えてみれば、メッセージを伝えるというサービスに関しては、これまで上下の別が
それほどなかったように思う(電報をハイグレードとみる考え方もあるだろうが、
ちょっとちがうような感じがする)。ひょっとすると、電子メールという「コモディティ」
が普及したことによって、郵便がその「ハイグレード版」として復権してくる、なんてことも
考えられるかもしれない。

 

【関連情報】

▼詐欺関連

○F.E.R.C Research Data -2003/02/16 
「22億円をあなたに・・」凶悪な国際詐欺事件を調査せよ!
http://www.ntv.co.jp/FERC/research/20030223/f1074.html


○ニューイングランド通信 「Ponzi Scheme(ポンジー・スキーム)」2007/05/12
http://blogs.yahoo.co.jp/giantchee2/32066006.html


○OPUS MAGNUM  迷惑DMの内容は「海外宝くじ詐欺」! 2006/03/29
http://blog.goo.ne.jp/oko-bou/e/ed099a27d35f9328a4ad839c67ed9eb4

 

▼スパムメール関連

○ITmedia News  2007/08/22
 「迷惑メール無断送信を禁止に 経産省、規制強化の方針」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0708/29/news060.html


○ホームページを作る人のネタ帳 2007/04/03
 「迷惑なスパムメールを防止する7つのステップ」
http://e0166.blog89.fc2.com/blog-entry-89.html


○GIGAZINE  2006/11/16
 「世界中のスパムメールの80%がこの200人によって送信されている」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20061116_spam/


○CNET  2006/07/05
 「約500%の株価上昇--株式スパム詐欺の効果、ドイツ大学が調査」
http://japan.cnet.com/news/sec/story/0,2000056024,20160707,00.htm

 

▼アナログの復権

○オークションマニア☆Aucfan.com  2007/09/10
 復権フィルムカメラ デジタル全盛期に「古きよき魅力」 オークションで人気
http://blogs.yahoo.co.jp/defactostandard_2005/49423736.html


○真空管のアナログ世界に魅せられて 2006/12/14
 「★アナログ世界の回帰」
 現在イギリスにおいて音楽レコード盤の需要に火を点けたのは音楽好きの
 若者達です。レコードとか真空管の世界を知らない若者達のエネルギーは
 計り知れないものがあります。このブームは何れ世界を席巻するものと思います。
http://ameblo.jp/blograjio/entry-10021588908.html


○男の隠れ家ONLINE 中田 寿行  私のオーディオ遍歴  2007/06/03
 「スーパーオーディオの世界(2)─進化するアナログプレーヤー」
http://otokonokakurega.net/blog/hobby/38/entry430.html

 

 


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