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石油業界・産油国VSバイオ燃料 新たなエネルギー戦争始まる

  原油価格高騰、地球温暖化問題の深刻化に伴い、植物原料を用いるクリーンなバイオ燃料の生産が世界的に拡大しつつある。しかし、オイルメジャーと呼ばれる多国籍企業を筆頭とする世界の石油業界、最大の産油国サウジアラビアを盟主とする石油輸出国機構(OPEC)、原油・天然ガス価格高騰を好機として超大国再興を図っているロシアにとって、バイオ燃料の需要拡大は既に脅威となっている。

 また、ブラジルと並ぶバイオ燃料の2大生産国である米国では原料となる穀物の価格とインフレ率上昇を招いている。新旧燃料をめぐり、水面下ではどのような駆け引きが展開されているのだろうか。


▼物価高の舞台裏

 バイオ燃料はバイオエタノールとバイオディーゼルに大別される。熱帯地域と温帯地域では原料も異なる。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、米国は2005年にバイオエタノール(主原料・コーン)を1,440万キロリットル、バイオディーゼル(主原料・大豆)を40万キロリットル、ブラジルはそれぞれ1,260万キロリットル(主原料・サトウキビ)、64万キロリットル(主原料・大豆)を生産、2カ国を合わせると世界の総生産量の8割超を占めている。しかし、主力のエタノールですら05年の対ガソリン消費量は約1.8%、2020年予測でも10%未満にすぎない。

  米国では06年にエタノール生産に用いられたコーンの量は全生産量の約2割に達した。さらに中国など新興国での肉食嗜好の高まりでコーン輸出が伸び、米国の農家は小麦や大豆の生産を減少させている。このため穀物価格が上昇、家畜の飼料代も上がり、肉類、鶏卵などの値上がりにつながっている。だが、バイオ燃料の生産、使用を奨励している世界41カ国の中で米国のように基幹食糧であるコーンを利用しているのは例外である。

 生産最適地とされ、今後の生産急拡大が期待される東南アジア地域などではサトウキビ、ココナツ、イモ類などと並び、ジャトロハ(JATROHA、ジャトロファ)と呼ばれる落葉低木の種油が高品質、高生産性な原料として生産され、大規模な栽培計画が相次ぎ打ち出されている。米国がコーンを原料にした国内生産を大幅縮小し、途上国産品からの輸入に切り替えれば問題が軽減するのは確実だ。

 バイオ燃料普及に伴う食糧不足が誇大に騒がれている感は否めない。関係筋は「バイオ燃料の途上国からの輸入を拒む米国の穀物生産者、業界の政府や議会へのロビー活動は年々活発化している。一方、採掘可能な埋蔵原油は少なくとも消費量の40年分以上が残されており、これから最大限の利益を上げようとする石油業界は当面、バイオ燃料の普及を最小限に抑えようと躍起になっている」と明かした。 


▼ダミーNGOが暗躍?

 現在、ブッシュ米政権は石油メジャーと一体となって石油利権確保の政治的価値低下を防ごうとしている。つまり、中国、ロシアとの世界的なエネルギー争奪戦に打ち勝ち、米英メジャーから価格支配権を奪った石油輸出国機構(OPEC)の弱体化を促したいからだ。また、天然ガスの埋蔵・生産高世界一、石油生産量同2位の座を獲得、国富を蓄積しつつあるロシアも同様、経済的利益を享受するにとどまらず、蓄積した資本を利用して軍備拡大を進め国際社会での政治力を高めようとしている。

 こんな状況を背景に、米、露、中東産油国などは非政府組織(NGO)を利用し、食糧供給不足、遺伝子組み換え品種の危険、途上国農民の外資への隷属、本来の農業振興・貧困軽減の阻害━などを挙げ、バイオ燃料生産反対の一大キャンペーンを展開しているようだ。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国のエネルギー省担当官は「特定国の石油業界が官民一体で反バイオ燃料宣伝を行っている」と明言。「サトウキビやココナツの生産拡大はやり方次第では確実に途上国農民の所得拡大をもたらすのに、先進国や産油国では反対キャンペーンが正論と受け取られている」と嘆いた。実際、この国のジャトロハ栽培事業は資金不足で頓挫しかけている。

 一方で、関係者の中には「石油メジャーがバイオ燃料、新エネルギー分野支配へと本格的に動く日は遠くない。実際、関連会社を通じて熱帯地域を中心に途上国への投資を始めていると聞く」と話す者もいる。原油高騰とバイオ燃料普及遅延をできるだけ長引かせ、十分に資本蓄積した多国籍石油企業が一気に新エネルギービジネス(バイオ燃料)をその掌中に収めようと戦略を練っている可能性は大である。

 

【関連情報】

○MediaSabor  2007/07/09
 「食糧自給率の低い日本に迫る危機─矛盾だらけのバイオエタノール」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_154.html


○MediaSabor 2007/07/19
 「世界初!植物からポリエチレン生産 ─今ブラジルのさとうきびが甘くて熱い!─」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_160.html
 

○MediaSabor  2007/08/20
 「ドイツにおける乳製品値上げの謎」
http://mediasabor.jp/2007/08/post_189.html

 

▼原油価格関連情報

○Business Media 誠:藤田正美の時事日想 2007/10/22
 「1カ月で10ドル上昇――原油高騰原油高騰が止まらない3つの理由」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0710/22/news017.html


○Klug  2007/10/18
 「商品価格上昇に追い打ちをかける海運コストの上昇」
http://www.gci-klug.jp/commodityreport/07/10/18/post_5269.php


○Analyze News And Trend 「原油需要減退か?」2007/06/28
http://koumeianalytics.seesaa.net/article/46076695.html

 

▼ジャトロハ(JATROHA)関連情報

○ドラマー的なブログ 「ジャトロファの可能性」 2007/09/24
 ジャトロファの利点は「非食用」ではなくて「荒地に強い」という点であるハズだ。
  食用作物が育たないような場所でのみジャトロファを栽培して、エネルギーへ
  転換する。そうすれば、本当の意味での「食料との競合」も避けられる。
http://d.hatena.ne.jp/yeyehill/20070924/p1


○お金持になる『投資でわかる世界地図』!
 「バイオ燃料用の低木をカンボジアで大規模生産」 2007/07/01
 バイオ燃料の原料になる低木「ジャトロファ」の大規模生産を、日本企業が
  カンボジアで開始します。燃料精製も行い、2010年から半分を現地の
  発電用として利用、残りを日本や欧州に輸出する。
http://keizai.aki.sub.jp/?eid=216677


○香港で起業した社長の和僑のススメBlog 「ジャトロファの栽培試験」2007/05/19
 実は、僕は、この精製装置の中国における製造権、販売権、などを含む包括的な
  事業権利を持っています。ジャトロファは東南アジアなどを中心に広く栽培が
  おこなわれ、その作付け量はどんどん増えてきています。
http://blog.livedoor.jp/sdi005/archives/50381438.html


○格安なタイの楽しみ方 「ジェトロファ ジャトロファの説明」2007/10/24
 今、世界で実用化が進められているバイオ燃料ですが、すべて食料から
  作られていることに大きな欠点があります。食糧危機を助長することを
  世界中の科学者が指摘しています。
http://blogs.yahoo.co.jp/thaigaia/5862372.html


○つれづれに...ひろろぐ 「ジャトロファ」 2007/10/23
 ジャトロファ(Jatropha Curcas)の実を搾ると燃料になるそうです。
  毒性があるので食用にはなりません。一次石油危機の時期に注目され
  栽培が進んだそうですが、その後の石油価格の安定化で忘れられた
  存在に近くなっていたそうです。
http://hirilog.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_0dd7.html


○信濃卓郎 大学の窓から(北海道大学一教官のブログ)
 「インド旅行記32」 2007/02/22
 バイオディーゼルに適しているというJatroha(ジャトロハ)の栽培技術の確立を
  進めているということでこの植物は動物、昆虫の食害をほとんど受けないので
  管理しやすいということであった。
http://takuro.exblog.jp/4807730/


○【 G-PHOTO World News 】
 「バイオディーゼルの原料、ジャトロファの実」 2007/02/20
 世界中のカメラマンから届けられる日々の写真。
http://gphoto.exblog.jp/4649281/

 

▼バイオ燃料、バイオマス関連情報

○志葉 玲 シバレイのたたかう!ジャーナリスト宣言。 2007/05/17
 「車に食わせるメシはない!? バイオ燃料普及で環境破壊や食糧危機の恐れアリ」
http://www.actiblog.com/shiba/35583


○Food-trust Project from Pure Soil 2007/05/23
 「エタノール生産の問題点その1─バイオ燃料に警鐘!食料需給と環境に配慮」
http://blog.jseq.org/archives/54371006.html


○北里大学名誉教授 医学博士 田口文章  バイキン博士のつぶやき
 「バイオ燃料の問題 その2」 2007/10/08
 都バスの数台を使って、使用済みの天ぷら油などを回収してバイオディーゼル油に
  改変した燃料を添加した油で実用都バスを走らせる実験に入ったようです。
http://microbes.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_cb49.html


○バイオ燃料が来てる 「バイオ燃料の問題点、日本での現状」 2007
http://xn--v9jufsa4mr61y2ip.seesaa.net/article/48478829.html


○Ever Green Forest -- blog 「バイオエタノール本当の問題点」 2007/04/28
http://egf.air-nifty.com/forest/2007/04/post_334f.html


○PEUGEOT 307 HDi 「穀物エタノール採算割れ」 2007/01/21
http://blog.goo.ne.jp/peugeot307hdi/e/338c8684a57a9805a8c704ee0d9655c6


○バイオエタノール(バイオ燃料)は環境問題のエースか?
 「経産省がバイオ燃料リッター40円に!(15年の目標)」 2007
http://xn--eckif9f9ch8q5e.sblo.jp/article/4150214.html


○夕刊フジBLOG   バイオ燃料「ETBE方式」のカギは国内生産 2 007/04/26
http://www.yukan-fuji.com/archives/2007/04/post_9185.html


○エ・ビ・ス Eco Business Study 2007/03/22
 「バイオマスプラスチックは最高のグリーンプラ製品?」
http://blog.goo.ne.jp/ebisu7163/e/d26065058b95d206421cffaaa38ad159


○iPod LOVE 「ジュースで発電できるバイオ電池」 2007/08
http://ipod.item-get.com/2007/08/post_83.php


○WIRED VISION 「バイオ燃料の普及で森林が絶滅?(1)」  2007/08/20
http://wiredvision.jp/news/200708/2007082023.html


○WIRED VISION  2006/03/08
 「成長著しいバイオ燃料市場、今後10年で3倍増との予測」
http://wiredvision.jp/archives/200603/2006030804.html


○CNET  2007/07/31
 「バイオの力で代用ガソリンを製造--産業微生物学の最前線」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20353849,00.htm


○CNET  2007/02/22
 「バイオディーゼル燃料のベンチャー企業、2億1400万ドルを調達」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20343770,00.htm

 

 


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