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世界中の子供たちにノートパソコンを─量産化がスタートした100ドルPCプロジェクト:OLPC

  • 米国在住ジャーナリスト

世界中の子供たちにノートパソコンを与える「100ドルノートPC計画」がいよいよ秒読み段階に入った。台湾のクアンタ・コンピュータの生産ラインで製造が始まり、年内にはウルグアイへ納入するという。

One Laptop Per Child(それぞれの子供に一台のノートパソコン)と名づけられたこの計画は、開発途上国など庶民がパソコンを入手しづらい国の子供たちに対して、ノートパソコンを配布しようというもの。通常のパソコンではハードウエア、ソフトウエアともにコストがかさむため、専用機種の開発を続けてきた。販売価格の目標を100ドルに設定してきたことから100ドルノートPCと呼ばれるが、正式名称はXO laptop。

このパソコンには、多様な環境でも実用に耐えるよう、いろいろな工夫が施されている。7.5インチ、1200 x 900ピクセルのTFTディスプレイは、フルカラーモードとバックライト付のモノクロモードを備え、太陽の光が当たっても文字が読める。屋根のない環境でも使えるようにとの配慮だ。

また、カラー液晶画面の消費電力は、通常のノートブックパソコンの7分の1にあたる1ワット、モノクロ画面はわずか0.2ワット。それを合わせて、パソコンの消費電力は2ワットというから、従来機種の1割以下に過ぎない。加えて、手動でバッテリーを充電する機能も装備されている。これは、開発途上国に住む子供たちにとっては重要な機能となる。

433MhzのAMD製CPU、256メガバイトのメモリー、ハードディスクの代わりに1ギガのフラッシュメモリ、ワイヤレスインターネット接続機能、カメラ、マイク、スピーカー、USBポートなど、ノートパソコンに必要な一通りの装備を備える。価格が安いからといって決して廉価版には仕上げていない。OSには、オープンソース・ソフトウエアのリナックスを採用した。

プロジェクトの趣旨に共鳴した企業からの支援も増えている。ビデオゲーム最大手のElectronic Artsは、人気ゲームのSimCity(シムシティ)の無料提供を決めた。シムシティはプレーヤーが都市を作り、経営していくシュミレーションゲームで、米国の学校教育現場でも教材として使われている。Google(グーグル)、eBay、ニューズコーポレーションなども、援助を決めた企業の一群だ。

量産ラインが立ち上がったことで今後は販売に移行することになるが、プロジェクト運営元のOLPC(One Laptop per Child 本部=マサチューセッツ州) では現在のところ、ウルグアイ、ペルー、モンゴルから受注があったことを明らかにしている。受注したウルグアイ教育研究所との間で10万台の購入契約を結び、今後さらに30万台の追加受注が見込まれるという。

1台でも多くのXO laptopを普及させるためにOLPCではウェブサイトを通じて寄付を受け付けていたが、新たな取り組みとして11月12日からは北米地域で「Give1 Get1 」キャンペーンをスタートした。

XO laptopは開発途上国向けのパソコンのため、本来はそれ以外の地域で販売しない。しかし、399ドルを払えば特別に2台入手できるというもので、そのうちの1台を本来の趣旨である開発途上国の寄付にあてる。寄付はOLPCが行うので、購入者には1台だけが送られてくる。XO laptop自体、かなりユニークな機能を搭載しているため、欲しがる人も多いかも知れない。

2台で399ドルという値段から分かるよう、実際には100ドルにコストを下げることはできなかったようだ。ノートブックパソコンの価格が下がり、ウォルマートなど小売量販店では500ドルを切るモデルも登場している。しかし、200ドル以下であればまだ競争力はあると見るのが妥当だろう。

XO laptopの取り組みに追随する動きもある。インテルはClassmate PCと名づけた小型で200ドル程度のノートブックパソコンを開発し、開発途上国向けにすでに発売している。この9月からリビアに15万台の出荷を開始、ナイジェリアにも販売することが決まったようだ。モロッコの小学校には1000台を寄付するという。

こうしたインテルの動きを、OLPC代表のニコラス・ネグロポンテ氏は強く非難している。XO laptopプロジェクトの足を引っ張っているという主張だ。確かにインテルとしては、自社製品の使われたパソコンを世界に広げることで、市場拡大につなげる戦略もあるのだろう。資本力を使った漁夫の利といえなくもない。

だが、結果として開発途上国の子供たちにパソコンが普及し、デジタルデバイドの解消につながるのであれば、OLPCの目的達成の方向へと向かうのではないか。開発途上国側の視点で見れば、選択肢は多いほうがいいだろう。

 

【関連情報】

○WIRED VISION  2007/07/27
 ノートPC市場に革命をもたらすか、OLPCの『XO』
http://wiredvision.jp/news/200707/2007072723.html


○FPN  2007/11/08
 「100ドルPC(OLPC):子供のために楽しくなるネット・PC体験を」
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2832


○CNET  OLPCの「XO」、ついに量産開始  2007/11/07
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20360495,00.htm


○CNET  2007/10/30
 「Windowsはオープン性の維持で不可欠」:OLPC会長ネグロポンテ氏
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20359882,00.htm


○ITmedia News  2007/11/02
 「日本人ヒーローがOLPCの親善大使に」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/02/news044.html


○One Laptop per Child (OLPC) Give One Get One(YouTube映像 00:30)
http://www.youtube.com/watch?v=zQbtebeftyA


○ITmedia アンカーデスク  2007/07/24
 「スペック表では分からない、100ドルノートPCの実力」
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0707/24/news066.html

 

○miniTamTam demo: Music and sound for the OLPC(YouTube映像 06:51)
http://www.youtube.com/watch?v=31L9qaxOrp0


○one laptop per child XO prototype at siggraph 2007(YouTube映像 06:34)
http://www.youtube.com/watch?v=rfV7hZGyGlk

 

 


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