Entry

広島原爆投下 エノラゲイの機長、92歳で逝く。─自分は任務を遂行しただけだ。─

原爆を日本の広島に投下したポール・ティベット・ジュニア氏がイーストサイトの自宅で死去した。92歳だった。ティベット氏はここ数年、軽い脳卒中と心臓疾患を患い、ホスピスで治療を受けていた。

同氏はイリノイ州のクィンシーで生まれたが、父親の家族の下への引越しとともにマイアミで育った。ティベット氏は飛行機に乗ることが好きな少年で、12歳のとき、ボランティアとして二人乗り飛行機の後部助手席に座り、キャンディー会社などの宣伝用ビラ撒きをした。

軍隊に志願した1938年はすでに米国が第二次世界大戦に参加したときで、潜水艦の監視のため大西洋上をパトロール飛行したり、後にB-175に搭乗してドイツ上空での作戦に加わった。

1945年8月6日、ティベット氏は母親の名前を付けたB-29戦闘機(エノラゲイ)で、日本から6時間のところにあるテニアン島を飛び立った。このとき同氏は30歳の大佐。この日の作戦コードネームは「Special Bombing Mission No.13」だった。

「もしダンテが私と一緒に同乗していたら、彼はぞっとしていただろう」。ティベット氏は広島に原爆を投下した後、こう語っている。「数分前まで太陽に照らされてとても澄み切っていた市は、見苦しく不鮮明になった。一面の煙と炎によって完全に消失してしまったんだ」。

ティベット氏は1966年まで軍隊に所属、その後は国際的エアー・タクシー・サービスを行うコロンバスのエクスクルーシブ・ジェット・アビエーションの社長になった。

(ザ・コロンバス・ディスパッチ オハイオ州コロンバスの新聞)


エノラゲイで広島に原子爆弾を投下した機長が1日に亡くなった。息を引き取った地元オハイオ州コロンバスにある新聞(電子版)は「Pilot of Hiroshima bombing mission dies at 92」の見出しとともにトップストーリーで報じ、原爆投下作戦とティベット氏の余生を伝える11枚の写真を掲載した。

原爆投下の瞬間や焼け野原となった広島の様子と同時に、任務を遂行したティベット氏が直後に殊勲十字章を受賞したことや、1995年に別の勲章をもらったときの写真なども掲載。原爆投下に対する議論などには触れず、事実関係をさっぱりとまとめた内容に仕立てている。

米国にも原爆投下を非難する声はあるが、それは少数派に思える。反対に多く占めるのは、戦争を終わらせるために必要な措置だったとの考えだ。今年7月のジョゼフ前国務次官の発言、「(原爆投下により)戦争を終結し、結果的に多くの日本人の命を救った」からもそれは伺える。

投下した本人も認識は同じだったようだ。ティベット氏は生前こう話していた。「(原爆投下で)片っ端から人々を殺すことになることは分かっていたけど、自分の任務に対してベストを尽くすことを考えていた。それによって、殺し合いを可能な限り早く終わらせることができた」。「8万人を殺したことを誇りには思っていないが、何事もなく任務を遂行できたことに対しては誇りに思っている」。

自分が落とした爆弾のせいで広島の町が壊滅したあとも毎日熟睡できていたというから、少なくとも罪悪感は抱かなかったはずだ。

原子爆弾を開発したマンハッタン計画は、そもそもドイツの核兵器保有を恐れた米国がそれに対抗する目的で始められた。だが、ドイツが原爆を保有していないことが分かると、計画に参加した科学者の間からも日本への使用を反対する声が強まった。

アイゼンハワー連合軍最高司令官が、敗戦が決定的な日本にいまさら原爆を落とす意味はないと原爆投下に反対していたことは、米国で使われている歴史の教科書にも明示されている。

しかし、原爆投下を正当化する人々が、こうした情報に耳を傾けるのは難しいようだ。恐らく、立場がそうさせているのだろうか。戦争で家族を失った人、苦悩を味わった退役軍人、それらの人々の利益を代弁する政治家など、歴史認識はそれぞれの立場を基にした考え方から生まれてくる。それらを無視してむりやり同一化させることはできない。

たが、それでも疑問に感じるのは、肯定派の人々が理由としてあげる「結果的に多くの日本人の命を救った」という論法だ。

多くを救ったというからには原爆で亡くなった20万人以上が助かっていないと辻褄が合わないが、アイゼンハワーも知っていたよう、当時の日本には連合軍を相手に立ち向かう物資も底をついていた。降伏は時間の問題だったといわれるなか、本当にそれだけの新たな犠牲を出す余力があったのだろうかと思わずにはいられない。取って付けたような理由に感じてしまうのはそのためだ。

ティベット氏は、火葬された自分の遺灰は墓に埋葬せず、海に撒いてくれと遺言を残したという。自分を批判する人たちの抗議活動を恐れたためだ。生前、終始自分の行いを正当化していたのは、あるいは、そうしないことには自分を支え切れなかったからなのかもしれない。

 

【関連情報】

○広島平和記念資料館WEB SITE
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/


○平和データベース
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/database/


○本山美彦 消された伝統の復権
 「原爆 1 広島原爆投下61周年の日に思う」 2006/08/06
http://blog.goo.ne.jp/motoyama_2006/e/fe808a41563c8800e1ce2261bd3e3b61


○Science Portal  2007/08/01
 インタビュー 金子 敦郎 氏「世界を不幸にする原爆カード─ヒロシマ・ナガサキが
  歴史を変えた」─第1回愚かな決定
http://scienceportal.jp/HotTopics/interview/interview12/index.html


○リベラル21 軍事的には原爆投下は不要だった 伊藤力司 (ジャーナリスト) 
  「世界を不幸にする原爆カード─ヒロシマ・ナガサキが歴史を変えた─」 2007/08/21
  金子敦郎(著)
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-111.html


○池田信夫blog   国会は「原爆投下非難決議」を出せ 2007/07/03
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f5b0d2940134791e57b349dcd1030dd4


○muse-A-muse 2nd  「ヒロシマに原爆を落とすべきだったか?」 2007/04/23
http://muse-a-muse.seesaa.net/article/39732094.html


○表参道 high&low 「オッペンハイマー」 2007/10/18
 「オッペンハイマー」は「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの伝記。 
  愛国心から原爆を作った彼は意外にも日本に落とされた数年後に反米活動の疑いを
  かけられ地位を失ってしまう。 この本は作者達の25年に及ぶリサーチによって
  希代の科学者の複雑なポートレイトを描ています。 
http://yesquire.exblog.jp/6694444/


○松岡正剛の千夜千冊『黒い雨』井伏鱒二
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0238.html


○休日の過ごし方/Enjoy my Holiday  「エノラゲイ」 2007/11/06
 先日、エノラゲイの元パイロットが亡くなった記事をYahooニュースでみた。
  それから1日後か2日後、実物のエノラゲイを目にするとは思わなかった。
  B-29、なんとも昆虫のような顔をした歪な飛行機だろう。
  宮崎駿の映画に出てくる昆虫型飛行機に似ている。
http://blogs.yahoo.co.jp/kamanyan2004/51953441.html


○Sweetness 「アメリカは日本を民主化した、という話」 2007/08/24
 もし「最も嫌いなアメリカ合衆国の大統領は?」と問われれば、民主党の
  ハリー・S・トルーマンと答えざるを得ないのだろうなと思う。深い意味はない。
  ただ単に彼が日本への原爆投下を容認したからだ。
http://d.hatena.ne.jp/ryoto/20070824


○ナニミル?─DVD日記─ 「ヒロシマナガサキ」 2007/06/14
 「衝撃」の一言。 原爆をテーマに作られたドキュメンタリーはこれまでも沢山あった。
  しかし、この作品(原題:White Light/Black Rain)ほどショッキングな作品はなかったと思う。
http://blog.so-net.ne.jp/dvd-diary/2007-06-14


○「はだしのゲン」を世界へ 米映画『ヒロシマナガサキ』 2007/08/22
http://blog.goo.ne.jp/barefootgen/e/2ac6629f62975784a5aceb4fec15a2f0


○goo映画 『ヒロシマナガサキ』 2007年 アメリカ
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD10823/index.html


○米国映画「ヒロシマナガサキ」予告篇(YouTube映像 01:54)
 スティーヴン・オカザキ監督
http://www.youtube.com/watch?v=KwqpP3tWojM


○大津留公彦のブログ2  「麦(はだしのゲン後編)」 2007/08/12
http://ootsuru.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_05be.html


○はだしのゲン 原爆投下シーン(YouTube映像 05:38)
http://www.youtube.com/watch?v=zJUksMX8qmc


○「原爆ホロコースト」の実態 ─「原爆」と「冷戦」の舞台裏─ 1998
http://inri.client.jp/hexagon/floorA4F_ha/a4fhc700.html


▼音楽

○Tomorrow is Another Happy 「ヒロシマ・モナムール」 2007/08/09
 作曲:イングヴェイ・マルムスティーン、作詞:グラハム・ボネット
 『Hirosima Mon Amour』 アルカトラスのアルバム『ALCATRAZZ』に収録。
http://aqualeafree.blog70.fc2.com/blog-entry-753.html


○広島の空 -さだまさし(YouTube映像 05:54)
http://www.youtube.com/watch?v=jQxhlFAaCZ8


 
 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/456
広島 (Japan Trek 2008) 2008年04月09日 10:26
3月23日(日) 京都→広島 "全米が泣いた話"のあとは、本当に泣いたお話。 朝から新幹線...