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ハイビジョン次世代DVD戦争における驚異的な低価格化スピード

秋の深まりが冷気を伴い、いつの間にか季節が冬に変わっていることに気づくこの時期。冬の到来を教えてくれるのは気温だけではない。クリスマス商戦を見越した商品チラシの急激な増加も、季節を感じさせる重要な要素だ。

そんな中、衝撃的なニュースが飛び込んできた。小売大手のウォルマートはクリスマス向けの商品として、東芝製HD-DVDプレイヤーを台数限定、98ドルで販売すると発表した。この商品、元の価格は199ドル。ついに200ドルを切るHD-DVDプレイヤーの登場である。当初は1000ドル近かったHDプレイヤーも、普通のDVDプレイヤーと変わらぬところまで値を下げて来た。

「イノベーターのジレンマ」で一斉を風靡した経済学者、クレイトン・クリステンセンによれば、商品の市場への浸透にはいくつかの段階があるという。まず、商品の性能を上げ、ハイエンドの消費者にアピールする段階。商品の値段に関わらず、マニア、新しい物好きを相手にしている段階である。そして、市場への浸透とともに商品の値段が下がり、それと同時に機能が進化して、一般の消費者がこれを購入し始める段階。これに続くのが、掟破りの低価格商品の登場によって、市場が爆発的に広がる段階だ。携帯も、DVDも、すべてこうした変遷を経て市場を形成してきた。HD-DVDが同じ経路を辿ったとして、別に何の不思議もない。

ところが、HD-DVDの市場浸透のプロセスは、他に比べて異常に早いのだ。携帯電話が10年以上、DVDが5年以上の歳月をかけて市場に浸透してきたのに比べ、ハイビジョンディスクの場合はほんの2年程度でクリステンセンの言うところの底辺型技術革新が起こった事になる。

ここまで早くプロセスが進んだ一因に、HD-DVDと市場を争う競合フォーマット、ブルーレイの存在がある。ハリウッドの映画会社の支持を二分し、にらみ合いを続けるHDとブルーレイだが、コストダウンの点ではブルーレイが不利とされており、ブルーレイプレイヤーの最低価格はいまだに400ドル近辺をさまよっている。

クリスマス商戦という絶好のチャンスを利用して、ライバルに水をあけようとしたHD陣営が、少々無理をしても早めに底辺型商品の投入に踏み切った事は容易に想像できる。

ブルーレイ陣営も早晩200ドルを切る商品を投入してくるのは間違いないが、クリスマス商戦を逃したのはいかにも痛い。安価なHD-DVDプレイヤーが今年のクリスマス商品の目玉になる事は間違いなく、これを機にハイビジョン戦争の形勢はHD陣営に傾くと予想する専門家も多い。

まだまだ目が離せないハイビジョン対決だが、第三のライバルの存在を忘れるわけにはいかない。近年とみに市場を広げている、APPLE TVを初めとするダウンロード市場である。まだまだ手軽さではハイビジョンにかなわないが、ダウンロードベースという、将来の映像ビジネスのあり方にかなった商品が最終的な勝者になるのではいか、という見方も強い。

いよいよ佳境のハイビジョン戦争。米国市場の動向次第では、意外に早く決着がつくかも知れない。

 


【関連情報】

○MediaSabor  2007/07/06
 Joostは「閉ざされた庭」と言い放つVeohTV
http://mediasabor.jp/2007/07/joostveohtv.html


○WIRED VISION 2007/09/07
 Vint Cerf氏「テレビは廃れ、ダウンロード動画が主流に」
http://wiredvision.jp/news/200709/2007090720.html


○WIRED VISION「次のトレンドは? 統計データを駆使して予測」2007/10/22
http://wiredvision.jp/news/200710/2007102223.html


○ITmedia News  2007/10/22
 「角川、BitTorrent日本法人に約10億円出資 動画配信を来年スタート」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/22/news105.html


○小寺信良 ITmedia アンカーデスク  2007/07/09
 「次世代DVDが起爆しない5つの理由」
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0707/09/news008.html


○CNET  2007/10/25
 「消費者は関心を持っているか?--次世代DVD戦争の行く末」
http://japan.cnet.com/special/story/0,2000056049,20358925,00.htm


○CNET  2007/05/25
 いかにして本丸のテレビ局に切り込むか--打倒YouTube目指す
 「Brightcove×トランスコスモス」
http://japan.cnet.com/interview/media/story/0,2000055959,20349541,00.htm


○メディア・パブ 2007/10/30
 「YouTubeキラーの“Hulu”,出足の評判は上々」
http://zen.seesaa.net/article/62062957.html


○P2Pとかその辺のお話 2007/07/25
 「オンラインビデオ制作者向けの10のP2P配信プラットフォーム」
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-607.html


○Forgot the Milk. 2007/05/22
 「これはすごい!201の動画サイトをリストアップした究極のオンライン動画
 サイトリスト!」
http://d.hatena.ne.jp/hmiyaza1/20070522/1179798042


○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/10/04
 「次世代DVD本格普及へ…BD・HD規格争い長期化の様相」
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200710040013a.nwc


○GAMEKO  2007/08/21
 「HD DVDに追い風 ParamountとDreamWorksが支持」
http://game.item-get.com/gamegyo/hd_dvdparamountdreamworks/index.php


○GAMEKO  2007/08/29
 「消費者意識 ブルーレイがHD-DVDに大差」
http://game.item-get.com/gamegyo/hddvd/index.php


○GIGAZINE  2007/08/21
 「大手映画会社がBlu-rayをやめてHD DVDのみリリースへ」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070821_paramount_dreamworks_hddvd/


○死よりも悪い運命 「次世代DVDが普及しそうにない理由」2007/10/06
http://d.hatena.ne.jp/lakehill/20071006/p1


○Te2MODE.COM  2007/07/24
 「DVDとブルーレイ(Blu-ray)の記録が可能なハイブリッドドライブを日立が開発」
http://www.te2mode.com/news/pc/070724175503.html


○【臨機応変?】 2007/06/22
 「東芝が個人向けのノートパソコン全機種にHD-DVDを搭載」
http://rik.skr.jp/archives/2007/06/hddvd_1.html


○小宮日記 2007/09/13
 「ソニーからものすごい本命のBDレコーダーが来た」
http://d.hatena.ne.jp/mkomiya/20070913/p1


○野良犬の塒 『イノセンス』Blu-ray版の映像 2007/01/19
http://www.kyo-kan.net/archives/2007/01/bluray_1.html

 

▼イノベーション理論関連情報

○ビジネス戦略を考える 「イノベーションと思考パターン(5)」2005/11/09
http://blog.chalaza.net/?eid=379957


○ミツエーリンクス 実践!Webマーケティング:Blog
 「アートマーケットとイノベーター理論」2005/09/06
http://marketing.mitsue.co.jp/archives/000061.html


○死んでしまったら私のことなんか誰も話さない 2003/12/22
 クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」
http://vietmenlover.blog.drecom.jp/archive/74


○arclamp.jp アークランプ 「イノベーションへの解」2005/01/10
http://www.arclamp.jp/blog/archives/000407.html


○Think positive, act positive  2005/09/17
 「明日は誰のものか---イノベーションの最終解」
http://miyakoda.jugem.jp/?eid=121


○進化する大人たちへ 2006/02/05
 読了/クリステンセン『明日は誰のものか』
http://d.hatena.ne.jp/eurospace/20060205


○英日 誤訳どんぶり  2007/06/01
 種が蒔かれた―『明日は誰のものか』謝辞(その1)
http://goyaku.jugem.jp/?eid=158

 

 


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