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NO STYLE 広告論 SONY ウォークマン「REC YOU.」キャンペーン

11月に本格スタートする、SONY「ウォークマン」の「REC YOU.」キャンペーンが、面白いことになりそうだ(www.recyou.jp/)。ウェブなどではすでにティザーが始まっている。サイトにジャンプするとオペラが高らかに鳴り響き、のっけからテンションが高そうなのだが、表示されたインターフェイスを見るとちょっとビックリした。

同一人物の小さなポートレイトがギッシリ並んでいるのだ。並んでいるだけではない。「顔」はアップテンポのBGMに合わせ、一斉に首を振っている! 首を振るだけではない。曲がクライマックスに達するところで、突如クワッと目を見開き(なぜか瞳がつぶらになっている)、今度はオペラに合わせて歌い出した。

その表情の動きがちょっとぎこちない……というか奇妙にノッペリしているところから、映像にはなんらかの手が加えられているという想像が容易につく。実はこれらの「顔たち」は一般から集められた“投稿ポートレイト”をデジタル加工したもの。デジカメで顔写真を撮って(ムービーではなく)「REC YOU.」サイトに送ると、「顔」は音楽に合わせて歌ったり首を振ったりするように改造され、しかもそれがウェブで公開されてしまうのだ。

一体どうなっているのか。よくできているというか、ちょっと気持ち悪いほどだ(モーションポートレイト技術というらしい)。が、なぜか見てしまう。多分これまでに、これに類するものをあまり目にしたことがないことからくるインパクト。最初は一人の人物が大量に映し出されているが、しばらくするとそこに別の人物の顔がプラスされていく。若い男女を中心に、外国人から赤ちゃんまでがオペラを熱唱している。「グリッドで見る」をクリックすると、さらにたくさんの顔が集まった“顔タワー”を前後左右から自在に見られるようにもなっている。

写真を撮る。送る。動き出す。”ウォークマン”で歌う。テレビでデビュー。日本中に、 ネット中に、氾濫。”ウォ−クマン”×ワンセグREC そんな自分を、RECする。COMING SOON.

Googleで「REC YOU」を検索すると、項目の下に上のキャッチフレーズが表示される。ワンセグREC機能付きの新製品ということだが、「テレビでデビュー」のひと言が気になる。どうやら、この歌う「顔」はウェブで公開されるだけでなく、テレビで流されるらしい。11月からオンエアが始まるようだ。一方、YouTube上の“オンエア”はすでに始まっている(http://www.youtube.com/watch?v=tcU_mn7hKXw)。

雨の夜、ガレージに停めたクルマから降りてくる数人の若者。一人の写真を撮り、データをパソコンに取りこむ。「顔」が加工されていく様子を捉えたドキュメンタリー風の映像である。「How to」を説明するために、キャンペーンの制作サイドがアップしたゲリラCMだろう。が、映像はそれだけでは終わらない。続いて、クルマに積んだプロジェクターから、「顔」は何百メートルも離れた六本木ヒルズの森タワーに映し出されるのだ。若い男の巨大な顔が口を開けて歌う様(瞳はつぶら)がなかなか不気味な迫力がある。

「REC YOU.」のサイトを見ると、デビューの場所として、バナー広告やブログのほかに、「KDDIデザイニングスタジオ」や「SONYビル」なども挙がっている。「日本中に、ネット中に、氾濫。」というくらいだから、「顔」が流れるのはウェブとテレビだけでもなさそうだ。YouTubeの映像では六本木ヒルズに映し出していたように、繁華街のビル等に映し出せば、通行人の注目を集めることは間違いない。街が格好の広告スペースとなるというワケだ。そしてこの新製品を使えば、「そんな自分を、REC」できるということだろう。

いまのところキャンペーンは全貌を見せているわけではなく、コンテンツの多くが「COMING SOON」なのだが、本格スタートすればかなり話題を呼びそうだ(すでにネットではバイラルな広がりを見せている)。このSONY「REC YOU.」のクリエイティブワークを手がけているのはGT Inc.(http://gtinc.jp/)。XBOX360「Big Shadow」やNike「Cosplay」(
http://nike.jp/akibaman/nikecosplayjapan3/)といった、話題のバイラルキャンペーンを連打しているインタラクティブ・クリエイティブブティックである。

「Big Shadow」は、昨年末、渋谷で実施されたイベント型の屋外広告。ビルの壁に自分の影を映し出し、体を動かすと、影から巨大なドラゴン(これも影)が現れ、ゲーム「Blue Dragon」の世界で遊べる仕掛けになっている。が、「Big Shadow」が面白いのはそれだけではない。壁をスクリーンに見立てて、ただ影を映すだけではなく、影をウェブから操作できるようになっているのだ。リアルとバーチャルな体験を連動させたインタラクティブ・キャンペーンとしてカンヌ広告祭でも高く評価され、アウトドアとサイバーでゴールドを受賞している(http://bigshadow.jp/judge)。

最新のインタラクティブな技術をフルに活用しつつ、参加性の高い仕組みを作ったという意味で、「REC YOU.」も「Big Shadow」に近いところから発想されたキャンペーンだと思う。「REC YOU」の企画も担当している伊藤直樹氏(GT Inc.)は「広告批評」の取材に次のように語っている。

「ウェブって言うと、バナー広告やスペシャルコンテンツなどをイメージしがちですが、インテグレーテッドキャンペーンにおいては、あらゆるメディアの中核になるものです。(略)“Big Shadow”では、そういうポテンシャルを持ったウェブを、ちまちましたPCモニターの世界から屋外の巨大な壁にメジャーデビューさせたかったんです」(07年7月号/特集「web広告10年!」)

この取材の際、「(ウェブを用いて)本当の意味で360度のコミュニケーションを提供できている例って、日本ではほとんどありません」「フィジカルな感動を体験として得られる広告もあっていいんじゃないかと思ってるんです」とも語っていた伊藤氏だが、テレビをあらかじめキャンペーンの中核として想定するのではなく、ウェブ内で生成したコンテンツを“デビュー”させるひとつの場所と位置づけている。「REC YOU.」は、この“360度”を緻密に計算(意識)した上で構築されているのだろう。もちろん、その中核にあるのはウェブである。

しかし、そのメディアプランニングも「歌う顔」のアイデアと技術あってのもの。「どうやれば、ユーザーが新しいウォークマンの世界を楽しめるか」という商品に近いところから発想し、最新のデジタル技術でアイデアを実現、クロスメディアの力でそれを最大限に広めようとしている。その意味で実にいまを感じさせるキャンペーンなのだ。アイデア、表現、メディアプランニングが三位一体となって、それらがトータルで、新型のMP3プレイヤーという商品やSONYのブランドイメージにマッチしているところもよく考えられている。

いわゆるウェブ広告(キャンペーン)については次のような意見を耳にすることが多い。「ウェブはアイデアが面白く、クリエイティブのレベルが高いものが多いが、それに触れてもらうためには視聴者の自発的なアクションが要求されるため、所詮テレビCMほど影響力を持てない。実際、ウェブ広告が大ヒットしたケースや商品が目に見えて動く例も少ない。広告としてそれはどうなのか?」という類いの疑念だ。実際、「Big Shadow」などの場合、キャンペーンとしてよくできていても、“ターゲット”がかなり限定される面はあった(本当の意味でそれを体験できるのは、実施中にたまたま渋谷を通りかかった人のみ)。

今回はウェブを中心としながらも、テレビをひとつのメディアとして含みこんでいるところが注目される。参加しようと思えばだれでも気軽に写真を投稿できるのだ。オンエア量にもよるのだろうが、果たして一体どれくらいの人が「REC YOU.」するだろう? キャンペーンとしてどれくらい話題になるだろうか。その気になれば海外からでも参加できるところも興味深い。国のボーダーを超えたキャンペーンになるかもしれない。これがブレイクするようなら、日本の広告もいよいよ本格的に新しいステージに入ったと言えそうだ。

 

【関連情報】

▼GT Inc、クリエイター:伊藤直樹関連情報

○カンヌ広告祭2007  2007/06/27
 「カンヌ07: 大躍進したGT Inc(日本)の正体」
http://cannes-lions.jugem.jp/?eid=49


○東京IT新聞 2007/07/18
 【Toprunner Interview NEW VISION】 第4回 インタラクティブ・プランナー 伊藤直樹
 【インタビュアー】和田宗衛門
 和田: アイデアを出す時のメソッドとか、特に気をつけている点って何かありますか。

  伊藤:
  まず人のマネは絶対しないってことですね。アイデアは簡単に考えられるんですよ、
  何秒かで。それが自分の中の試験にどのくらい通過するかって言うと、ほとんど
  落ちますよね。そうやって、オリジナルであることを追求するっていうのはあると
  思うんですよ。デジャヴ感があるとか、何かと何かを組み合わせたなっていうのは、
  見る人が見ればわかるので。僕もやっぱりそう見られたくないから。広告については
  すごく研究する方だと思うんですけど、だからこそオリジナル性を求めますね。情報を
  インプットする時と、自分の中からなにかを吐き出す時は明確に分けます。そうしないと、
  何かを見ながらアイディアを出したりすると影響受けちゃうんですよ。流行っているから
  こういうのがいいんじゃないか、みたいな。そういう意味では、この前あるアワードの
  審査委員をやったんですけど、9割の作品が人のマネでしたね。なんでこうなっちゃう
  のかなって思いますね。
http://itnp.net/category_betsu/45/237/


○エキサイト ウェブアドタイムス 2007/05/29
 インタビュー「伊藤直樹、体の記憶で作るインタラクティブ」
 『広告は、文化を豊かにする使命を担っている』
  ――広告を作る際に心がけていることはありますか?

  日本は経済がピークを過ぎて、安定していっている国ですよね。そうしたときに、
  求められるのは文化だと思うんですね。僕は広告業界という大きな枠組みの中で
  働いていますが、コミュニケーションを扱っている商売なので、そういう面で
  文化を豊かにしたいという思いがあります。人が「ああ、こういう記憶ってあるよな」
  とか「こういう体験ってあるよな」とか思い出してくれるだけでも、豊かになる。
  それができる可能性を持った装置が、ネットなんじゃないでしょうか。それに、
  そう思ってもらえた広告物は、きっと結果的にいいプロモーションにつながると
  思うんですよ。
http://www.excite.co.jp/webad/special/rid_380/


○「Web STRATEGY」Vol.9 巻頭インタビュー:GT Inc
 内山は今の広告業界の現状を「次のステップに進めそうで進めない、踊り場に
  とまって足踏みをしているような状態だ」という。生活者の現実が、すでに
  変わってきているのに、それに企業も大手広告代理店も対応しきれていないため、
  突破できずにいる。伊藤もこう指摘する。「日本のメディア状況は、海外の
  先進国に比べて数年遅れている。まだテレビCMがメインで、その他のすべてが
  サブ・メディア化しています。テレビCMが中心であり、キャンペーンを主導する
  形が残っていますが、これは今後変化するでしょう。海外ではもうキャンペーンの核に
  TVCMがないケースがいくつも現れ、成功事例となっている。日本ではまだその
  キャンペーン事例がなかった。だからなるべく早くそれを形にしてみたいと
  思っていました」。この伊藤の意図に反応できる企業はそれほど多くはない。
http://www.good-field.net/GTinc.html


○1-click Award 審査員インタビュー 伊藤直樹 「行動をデザインしよう」
 インタラクティブを追求した表現が、良い表現です。これは、断言できます。
  Webだけじゃないんですよ。カンヌで賞を獲るようなポスターもCMも、人気の
  あるイベントや芝居なんかも、全部「インタラクティブ」にできているんです。
  インタラクティブというのは、一言で言えば、「行動をデザインすること」。
  人の行動心理を読んで、上手に誘導するしくみを作ることです。
http://www.1-click.jp/c9-2.html


○渋谷に巨大なドラゴンの影が出現!「Big Shadow」(YouTube映像 01:18)
 ゲームXbox 360「Blue Dragon」キャンペーン
http://jp.youtube.com/watch?v=Nr6y2lfc7Co

 

▼書籍「Webキャンペーンのしかけ方」
 ・渡辺 英輝・阿部 晶人・螺澤 裕次郎・伊藤 直樹【著】

○たつをの ChangeLog 2007/04/09
 「Webキャンペーンのしかけ方」、読了
http://chalow.net/2007-04-09-2.html


○T.Tstyle 「Webキャンペーンのしかけ方」2007/04/28
http://tomodz.jugem.cc/?eid=489


○世田谷のProducer 「Webキャンペーンのしかけ方」2007/04/07
http://ameblo.jp/hatarakanai/entry-10030095419.html

 

▼SONY ウォークマン 「REC YOU」キャンペーン関連情報

○GIGAZINE  2007/09/27
 「ソニー、最小・最軽量のワンセグ対応カード型ウォークマンを発売」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070927_sony_oneseg_walkman/


○ITmedia News 2007/07/24
 社長も「ぶったまげた」リアルさ 顔写真を3Dアニメ化する「MotionPortrait」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/24/news007.html


○ITmedia News 2007/07/10
 PSP版「ハルヒ」にも 顔写真を“3D顔アニメ”にするソニー発の技術
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/10/news079.html


○六本木経済新聞  2007/10/19
 ウォークマンのティザー動画「REC YOU」の正体が明らかに
http://roppongi.keizai.biz/headline/1186/index.html


○doops!  2007/10/22
 「あなたを録音する?SONY〈REC YOU〉キャンペーンがスタート」
http://doops.jp/2007/10/sonyrec_you.html


○広告会議 2007/10/20
 SONY 「REC YOU.」
http://blog.kokokukaigi.com/archives/2007/10/sonyrec_you_1.html


○ネットPR.JP 「REC YOU」というソニーのティザー広告がスタート 2007/10/03
http://netpr.jp/netpr/001548.php

 

▼屋外広告関連情報

○MediaSabor   2007/10/05
 「自治体と契約し街を媒体にする屋外広告の雄 ジェーセーデコー(JCDecaux)社」
http://mediasabor.jp/2007/10/jcdecaux.html


○デジタルサイネージチャンネル
 「デジタルサイネージのスペック」 2007/11/01
 デジタルサイネージを実行するにあたって皆さんはスペックを気にする人は
  おおいのではないでしょうか?機能や出力形態など...。
  これは大事な事ですが、「買い物をする」と言う心理ではこれは関係の無い事らしく、
  モノを選ぶ→買い物に至ると言うあたりまえの行為の中の心理では、
  「ピンときたから」と言う事が大きな要素だと言う事です。
http://digitalsignage.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_b8d9.html


○Scala(スカラ)のデジタルサイネージ.blog
 「SCALA イベント in Amsterdam」 2007/10/23
 このサイネージはすべて静止画でできています。
  それにトランジションという「効果」をかけているだけなのですが、非常に
  うまく作られているので、まるで動画を見ているような自然な動きになっています。
  動画ではなく「静止画+トランジション」で作ることでコンテンツは格段に
  軽くなるので、ぜひ参考までに見てみてください。
http://ameblo.jp/digitalsignage/entry-10052225567.html


○シブヤ経済新聞 2007/06/09
 渋谷109に巨大3D「缶コーヒー」広告出現─独技術を初採用
http://www.shibukei.com/headline/4379/


○ヨコハマ経済新聞 2006/04/28
 「ダヴ、パシフィコ横浜の屋根に世界最大の屋外広告」
http://www.hamakei.com/headline/1594/index.html

 

 


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TB第一弾:ソニーのREC YOU. っていうキャンペーンについて。 2007年11月05日 23:59
こんばんわ。 今日は、SNSで嫌なことが発覚してしまい、ブルーなせたPです。 最近は...