「改革」という名のネット規制─ イタリアのブログはどこへ行くのか
- イタリア在住ジャーナリスト
<記事概要>
「政府、出版業界改革へ。ネットにも危険信号」
プロディ首相の右腕、リカルド・フランコ・レーヴィ議員から提出されていた法案が、10月12日の閣僚会議で承認された。それまで法人出版社のみに限定されていた、当該機関への登録・当局からの許可、という制度が個人にも適用される、というもの。営利目的のない個人ブロガーであっても、登録の際に印紙代として税金を払わねばならず、表現の内容が第三者を誹謗中傷するものだった場合には刑法に問われることになる。 (10月19日付けラ・レプッブリカ紙から)
<解説>
閣僚会議で承認されたといっても、議会で議論されるのはこれかららしい。
しかし驚いた。イタリアたるもの、「言論の自由」にはもうすこし敏感ではなかったのか。こんな大事なことがらが、承認後1週間を経て大手メディアに取り上げられる、というのもなにやら胡散臭い。
9月初旬に、ブログで呼びかけることで政府糾弾のV-DAYを主導し、33万人の署名を集めた有名ブロガー、べッペ・グリッロがさっそく噛み付いた。
http://www.beppegrillo.it/
(ベッペ・グリッロのブログ)
10月19日記事 「レーヴィ・プロディ法案でネットは終焉へ」
10月20日記事 「法案で中国に近づくイタリア」
ネット規制の危うさはもとより、数ある重大な国内問題をなおざりにしている政府を、例によって強い口調で非難している。
ベッペが名付けた「レーヴィ・プロディ法案」についてのこれらの記事には、1万を超えるコメントが書き込まれた(10月21日現在)。読者の関心がそれだけ高いということだろう。ベッペに誘導され、法案を作成したレーヴィ議員へメールを送った者も多数いると思われる。
こうした反応を受け、相次いで当事者がコメントを出し始めた。レーヴィ議員は、政府公式サイト上にベッペ宛ての公開書簡を寄せている。
それによると、
「法案にネット規制の意図はない」こと、
「規制する能力を国は持ち合わせていない」こと、
を明確に述べた上で、
「雑誌、新聞などの法人メディアと著作活動をする個人の線引きは難しい、だからこそ法案は必要なのです」と言っている。
http://www.governo.it/GovernoInforma/Comunicati/dettaglio.asp?d=36855
(イタリア政府サイト)
一方、コミュニケーション担当相のジェンティローニは自身のブログでこう述べている。
「法案を、一語一語くまなく読んだわけではない(ので問題があるとは考えなかった)。元からあった、ウェブ新聞含めた出版社に対する登録制の見直し程度のことだと思っていた。個人のブログまで規制が及ぶとしたら、それは間違っている、といわざるを得ない」
http://www.paologentiloni.it/cgi-bin/adon.cgi?act=doc&doc=14116&sid=1
(パオロ・ジェンティローニのブログ)
どういう言い訳がされようが、ネット規制への動きがあることは間違いない。ネットの呼びかけで多くの人が集まったV-DAYの予想外の反響に、政府が危機感をもったあらわれではないのか。
ところで、ネット規制へのこれら一連の動きが、テレビのニュースでは一向に流れないのはどうしたことか。ブログ開設者がイタリアではまだ少数だからだろうか。
http://technorati.com/weblog/2007/04/328.htmlから転載
グラフは、ブログ検索エンジンTECHNORATIによるものだ。ブログ記事投稿数(2006年第4四半期)は、多い順に日本語、英語、中国語、イタリア語、となっている。話者の絶対数が多い英語、中国語をのぞけば、イタリアのブロガーもなかなか健闘している、と言っていいのではないだろうか。
レーヴィ・プロディ法案が国会での審議ののち発効したとしても、個人の日記に近いようなブログまで誰がどうやって管理するのか、現実にはむずかしそうだ。とはいえ、法案の内容によっては、ベッペが嘆いているようにほとんどのブログが閉鎖の憂き目に遭うかもしれない。そして、イタリアのブロガーが、海外のブログ運営サイトに集団移住することだって、将来的には起こるかもしれない。
ベッペの次のV-DAYのターゲットは出版界を含む言論界らしい。この法案の是非だけでなく、新聞社への政府補助金やジャーナリストの許認可制へも切り込んでゆくとのこと。ますます目が離せなくなりそうだ。
【関連情報】
○MediaSabor 2007-09-25
「ダントツの人気ブロガー&ピン芸人ベッペ・グリッロ(BEPPE・GRILLO)がイタリアを変える日」
http://mediasabor.jp/2007/09/beppe_grillo.html
○GIGAZINE 2007-04-06
「世界中のブログで使われている言語は日本語が一番多い」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070406_technorati_blog/
○Wip Japan Corporation 「世界の主要20言語使用人口」
http://japan.wipgroup.com/useful-information/reference-material-data/gengosiyoujinkou.html
○ Oggi come oggi 「今日はV-day」2007-09-08
http://tady.seesaa.net/article/54393855.html
○ Oggi come oggi「V-dayの反響」2007-09-10
http://tady.seesaa.net/article/54789102.html
○ Oggi come oggi「V-dayその後」2007-09-10
http://tady.seesaa.net/article/54789102.html
○at ブログヘラルド 「ブロガーに忍び寄る独裁政府の検閲の影」2007/11/02
http://jp.blogherald.com/2007/10/18/bloggers-face-same-censorship-from-repressive-regimes-as-journalists-study-suggests/
○CNET 2007-09-12
ネットの書き込みにトレーサビリティは必要か--「ネットID」を識者が激論(前編)
http://japan.cnet.com/special/media/story/0,2000056936,20348685,00.htm
○livedoorニュース 『表現の自由』で闘う社長、名誉棄損事件(上)2006/09/17
http://news.livedoor.com/article/detail/2457177/
○In the Strawberry Field 「ネットビデオ、EUの言論弾圧陰謀」 2006/10/17
http://biglizards.net/strawberryblog/archives/2006/10/eu.html
○ニュースの地層 欧州はアルメニア人虐殺問題を「踏み絵」にした 2006/10/31
フランス国民議会が、オスマン・トルコ帝国のアルメニア人虐殺を演説や出版物で
否定する者は1年以内の禁固刑ないし4万5000ユーロの罰金刑に処す、という法案を
可決したと聞いて、ちょっと驚きました。
http://www.actiblog.com/ito/18979
○SEMリサーチ 中国、「ブログを実名」義務化へ 2006/12/01
http://www.sem-r.com/22/20061201012129.html
○ITmedia News 2007/06/21
「ネットにも規制を――放送法と通信法、一本化へ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/21/news069.html
○ITmedia News 2006/11/08
「国境なき記者団、“インターネットの敵”を発表」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0611/08/news054.html
○Mr_Rancelot 「名誉毀損と言論の自由」 2007/01/16
http://d.hatena.ne.jp/Mr_Rancelot/20070116/p2
○FPN 「情報通信法」(仮) 2007/06/25
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2431
○novtan別館 「情報通信法と公然通信」 2007/06/21
http://d.hatena.ne.jp/NOV1975/20070621/p2
○MAL Antenna 2007/07/01
「インターネット大検閲を狙う情報通信法構想に注意!!」
http://mal.cocolog-nifty.com/antena/2007/07/post_90b5.html
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