ノンパッケージ流通(ダウンロード配信)時代を反映した音楽ヒットチャート改革
- オーストラリア在住ジャーナリスト
<記事要約>
ARIA(豪州レコード産業協会)が、ポップチャートの新しい集計システムを明らかにした。シングル部門の曲に関しては店頭で流通していなくてもよくなり、アルバム部門の集計に初めて合法的なダウンロード配信の売上データが含まれることとなった。
新システムの恩恵を受けた最初のアーティストは、アメリカのヒップホップ歌手ティンバランドで、1位に輝いた「The Way I Are」を含む2曲が今週のトップ10にランクインしている。「Apologize」は、ダウンロード配信のみでARIAのチャートのトップ10に入ることができた最初の曲となった。ダウンロードだけに基づいてランクインした曲は、トップ100の中に10曲ある。
ARIAの最高責任者であるスティーブン・ピーチ氏は、「すべてがデジタルに向かって収束していることを考慮すれば、チャート改革は論理にかなった一歩だ」と述べた。
2007/11/5 Sydney Morning Heraldより
<解説>
ARIAの音楽ヒットチャートは、オーストラリアの音楽業界の売上データを電子的に集計したもの。毎週日曜日の夜にウェブサイト(http://www.ariacharts.com.au)で発表されるランキングは、この国の音楽市場に大きな影響力を持つ。注目度の高いシングル部門やアルバム部門のほかに、「ダンス」「カントリー」「ジャズ」「クラシック」「オーストラリア」といったジャンル別のチャートも提供している。
昨年4月からは、Apple iTunes(http://www.apple.com/au/itunes/)やBigPond Music(http://bigpondmusic.com)をはじめとするオンライン・ミュージック・ストアの音楽配信データを集計した、デジタル・シングル・チャートも新たに公開するようになった。もはや旧来の音楽CD売上データだけでは実態を表せない、と判断したのだろう。約1年前には、実店舗とオンライン配信双方の売上データを統合した集計結果を総合的なシングル部門のヒットチャートとして発表する方針に踏みきっている。
ただし、これまではCDが存在しないダウンロード配信のみの曲はランキング対象外とされていた。海外ドラマのテーマソングなどは、国内でシングルCDとして発売されていないことも少なくなく、誰もが耳にしたことのあるホットな曲なのに、ARIAのヒットチャートには見当たらない、という不可解な現象も起こっていた。
今回の改革では、デジタル市場だけでリリースされている曲もヒットチャート入りすることが可能になったわけだ。
新システム導入直後に、3種類のシングル・チャートのトップ10を比較してみると、総合シングル部門の10曲すべてが「デジタル・トラック」チャートと重なり、ナンバー1も同じ曲だった一方で、店頭売上データだけを反映した「フィジカル・シングル」チャートと重なっているのは8曲だった。
中には、インターネットから火がついて、ランキング登場を果たすミュージシャンも出てきている。世界最大規模のSNS「MySpace(マイスペース)」をプロモーションに活用するメタル・コア・バンドのパークウェイ・ドライブは、デビュー・アルバムが6位にランクインという快挙を遂げ、オーストラリア部門では有名アーティストを押さえてナンバー1に輝いた。アメリカやヨーロッパにツアーに出るようになった今もメンバーの両親宅で練習している、というエピソードが何だか微笑ましい。
オーストラリアの音楽産業は低迷期を乗り越え、回復の兆しにある。今年前半6ヵ月の売上は、パッケージとノンパッケージ合わせて前年比11%増というから決して悪くはない。デジタル市場の割合は、金額ベースで全体の約1割に過ぎないものの、ボリュームは前年比90%増を記録しており、今後の成長を支える基盤となっていくことは明らかだ。
オンライン時代の到来によって、消費者は音楽離れを起こしたわけじゃない。欲しい曲だけを選んで安価でバラ買いし、持ち歩ける携帯音楽プレイヤーにダウンロード、というお手軽なスタイルが時代のニーズに合ったのだ。気に入った音楽をただ聴くだけならば、「データ」さえ手に入れば完結する。
やがては物理的実体のないノンパッケージ流通が音楽業界のスタンダードになり、売上「枚」数という言葉が死語になる日もそう遠くないのかもしれない。レコード時代のA面、B面という言葉が、ノスタルジーと共に語られるようになったのと同じように……。
それでもやっぱり、レコードやCDならではの良さというのはあると思う。選曲や曲順に思い入れやこだわりを感じ、ジャケットや歌詞カードを含めたパッケージこそアーティストの作品だと思っていた世代としては、「モノ」を手に取ることができるアナログな流通システムが、今しばらく共存していくことを願いたい。
【関連情報】
○MediaSabor 2007/07/19
Napster(ナップスター)は「自宅に膨大な楽曲が入っている試聴機が来るようなもの」
http://mediasabor.jp/2007/07/napster.html
○MediaSabor 2007/06/17
「ポール・マッカートニーのソロ音源がいっせいに配信スタート」
http://mediasabor.jp/2007/06/post_133.html
○ITmedia オルタナティブ・ブログ 音楽の未来を考える
「2006年の音楽ダウンロード市場と今後」 2007/03/05
http://blogs.itmedia.co.jp/inagawa/2007/03/test.html
○BCNランキング 2007/09/05
「日本レコード協会、伸びるモバイルと伸び悩むネット、有料音楽配信実績報告」
http://bcnranking.jp/news/0709/070905_8318.html
○livedoor ニュース 2007/10/04
「宇多田ヒカルがダウンロード販売総数1,000万を突破」
http://news.livedoor.com/article/detail/3332789/
○秋元@サイボウズラボ・プログラマー・ブログ 2007/09/26
「Amazon MP3が音楽ダウンロード販売を開始・実際に購入してみた」
http://labs.cybozu.co.jp/blog/akky/archives/2007/09/amazon-mp3-started.html
○ITmedia News 2007/10/16
「着うたフルをウォークマンでも──au、コンテンツ販売にあの手この手」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/16/news116.html
○ITmedia News 2006/12/15
音楽ダウンロード販売は「劇的に」成長している――Nielsen SoundScan調査
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/15/news109.html
○ ORICON STYLE 2007/03/20
「急拡大する配信マーケットの実像」
http://contents.oricon.co.jp/news/special/43082/
○ ORICON STYLE 2006/05/02
CD、着うた、PC配信…売れてる曲はこんなに違う!
─06年上半期ヒットチャート徹底比較─
http://www.oricon.co.jp/news/special/31431/
○ ORICON STYLE 2006/07/19
「多様化する音楽配信、キーワードはPCとケータイとの連動」
http://www.oricon.co.jp/news/special/28326/
○BARKS NEWS 2007/08/06
「英シングル・チャート、ティンバランドが連続トップ」
http://www.barks.jp/news/?id=1000033384
○Timbaland(ティンバランド)─MySpace
http://www.myspace.com/timbaland
○パンクロックヘブンインジャパン ブログ 2007/09/08
Parkway Driveの「Killing with a Smile 」をレビュー
http://blog.punkrockx.com/?eid=510341
○DAYS OF SIDELINES 2006/08/28
「Yellow Page:音楽ダウンロード販売サイト集」
http://yanaken.cocolog-nifty.com/sideline/2006/08/yellow_page_ba44.html
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