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米国テレビが再放送とリアリティ番組だけになる日─コンテンツ二次利用、マルチユースにおける利益配分問題

(記事要約)

全米脚本家組合(WGA)が11月5日より、オンラインなど新メディアで再放映された場合の公正な報酬をもとめ、ストライキに入っている。同組合にとっては、1988年以来19年ぶりである。

すでに深夜のトーク番組が再放送に入っているほか、ニューヨーク・ニューズディ紙によれば、ニューヨーク市を舞台とする長寿人気シリーズのロー・アンド・オーダーも、このままストが続けば、クリスマス前には撮影が止まるという。

しかし業界ウォッチャーのジョン・ラッシュ氏は、11日付けのカンザスシティ・スター紙の記事で「早期に解決する可能性はあるが、短期的・長期的利害が大きな問題であり、そう簡単に片付くとは思えない」と話している。

米国は秋にテレビ番組の新シーズンがはじまるが、このまま脚本家組合のストライキが長引けば、2007─08年シーズンはまともに影響をうけることになりそうだ。

記事リンク:
http://www.newsday.com/entertainment/tv/ny-nystri1107,0,4950911.story
(ニューズディ紙、11月6日掲載 ニューヨーク市で発行されるタブロイド日刊紙)

http://www.kansascity.com/entertainment/columnists/aaron_barnhart/story/348222.html (カンザスシティ・スター紙、11月9日掲載 ミズーリ州カンザスシティで発行される日刊紙)


(解説)

11月5日に米脚本家組合(組合員数1万2000人)がストライキ入りして以来、「トゥナイト・ショー」や「デビッド・レターマンのレイト・ショー」といった深夜のトーク番組が再放送に切り替わった。リアリティ番組は脚本家のストの影響をほとんど受けず、日中の番組も前倒しで収録してあるが、再放送に切り替わる日も遠くはない。

米脚本家組合と映画テレビ製作者連盟の契約は10月31日までだったが、インターネットや携帯電話といった新メディアによる作品の放映で生じる収入に対する報酬問題で交渉が決裂した。ストライキは1988年以来だが、組合員のスト実施の批准率は90%以上だったという。

現在、脚本家組合を率いているのは、人気アニメの「シンプソンズ」や「フューチュラマ」のライターであるパトリック・ベローン氏。2005年に選出された際には、DVDに対する報酬計算式を改善し、新たな技術にはより有利な報酬を勝ち取ると宣言した。DVDに関して言えば、小売価格19.99ドル(約2200円)のDVDの場合、現在、脚本家らが受け取る報酬はたったの4セント(約4.5円)だ。

製作者側は、インターネット・ダウンロードはまだ利益を生んでおらず、今の段階で、収入のシェアを支払うことを余儀なくされれば、新たなオンライン・コンテンツの製作に支障をきたすと主張している。

人気テレビシリーズの「LOST」の脚本家デーモン・リンデロフさんは11日付けのニューヨーク・タイムズ紙で、「ロストは何億回もABC放送のウェブサイトのストリームで流された。ダウンロードする視聴者には、最初、広告を見せる仕組みになっているのだから、ABCはなんらかの収入を得ているはずだが、脚本家には何の報酬もない。最近はiTunesで1ドル99セントで販売されるショーもあるが、これにも報酬はない。がめつい製作側に、公正なシェアを求めることを貪欲だと思われると腹立たしい」と言う。

さらにリンデロフさんは、スト中に収入がなくなることに触れて、「週あたりの給与はインターネットから派生する報酬などよりはるかに大きい。3ヶ月もピケラインに立てば、新メディアから派生する報酬では埋め合わせができない損失になる。それでも次世代のライターのために続ける。その頃には作品が『放映』されることなどなく、すべてはネット上のストリームで流れたり、細切れで新たなメディアに使われるのだろうから」と書いている。


【関連情報】

○MediaSabor  2007/07/06 
 Joostは「閉ざされた庭」と言い放つVeohTV
http://mediasabor.jp/2007/07/joostveohtv.html


○ニューヨーク・タイムズ11月11日付け、デーモン・リンデロフさん寄稿の
   「テレビへの哀悼」
http://www.nytimes.com/2007/11/11/opinion/11lindelof.html?hp


○[動画]全米の脚本家がスト突入、変わりゆく業界で闘う脚本家たち (AFP BBニュース)
http://www.afpbb.com/article/economy/2308376/2323713?blog=jugem


○米国脚本家組合のスト突入記事 (CNN) 2007/11/06
http://www.cnn.co.jp/showbiz/CNN200711060002.html


○シネマトゥデイ 2007/11/13
 「ハリウッド大震撼!脚本家組合がストライキ決行をした深い事情」
http://cinematoday.jp/page/N0011998


○シネマトゥデイ 2007/11/12
 「デスパレートな妻たち」のロンゴリア、ストライキ中の脚本家にピザを配達
http://cinematoday.jp/page/N0011952


○フジサンケイ ビジネスアイ 2007/11/09
 米脚本家のスト、さらに影響 「デスパレート」も撮影打ち切り 
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200711090029a.nwc


○livedoorニュース 2007/11/07
 「米脚本家組合ストライキ続報。人気TVトーク番組に影響大か?」
http://news.livedoor.com/article/detail/3377548/


○悲しきアイアンマン 2007/11/20
 「全米脚本家協会ストライキの影響で格闘技界に意外な恩恵─K-1がNBCで
 放送される可能性も!?」
http://sadironman.seesaa.net/article/67713841.html


○イザ! LA25時 「脚本家たちのストライキ」 2007/11/07
 つまり、嚙みくだいていうと、「おもしろいものは俺たち以外には作れないんだから、
 大丈夫だ」という自信の一方で、たとえそうだとしても、食いっぱぐれてしまうかも
 しれない、という不安が持ち上がっている、というわけです。
 これを、他人事みたいに新聞業界に当てはめてみると、「ニュースの提供者はわれわれだ」
 という自信の一方で、たとえそうだとしても、食いっぱぐれてしまうかもしれない、
 という不安がある、ということでしょうか。
http://matsuom.iza.ne.jp/blog/entry/377603/


○gikou89偽装請負、派遣労働、労働問題
 「米脚本家組合、スト突入 NY・ハリウッドなどで集会」 2007/11/11
http://gikou89.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_d428.html


○演劇ニュース/シアターレビュー 2007/10/22
 「米脚本家組合がストライキ」
http://www.moon-light.ne.jp/weblog/archives/2007/10/post_691.html

 

▼知的財産権関連情報

○ネコにもわかる知的財産権 「著作隣接権」
http://www.iprchitekizaisan.com/chosakuken/rinsetsuken.html


○COMETの「ココログ」 2007/07/18
 「これで本当に大丈夫か?:ジャパン・コンテンツ・ショーケース」
http://comet-kobe.way-nifty.com/comet/2007/07/post_ed00.html


○ITmedia News  2007/06/15
 「経団連主導のコンテンツポータルがオープン」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/15/news069.html


○ITmedia News  2007/06/01
 「著作権法の親告罪見直し 海賊版の出品・ダウンロード違法化も検討 
 07年知財計画」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/01/news094.html


○漆黒ノ軍皇 「知的財産推進計画2007 ─時代錯誤な政府─」 2007/06/04
 基本的に、サブカルチャーや娯楽の類は、非常に自由な環境で無いと発展しない。
 法で固めてしまっては発展しない事くらい理解していなければならない。尚且つ
 ネット社会は"個"が中心である。ネット文化の締め付けは、即ち個人の言論統制に
 直結する。だから時代遅れの"官"が入り込んではならない世界なのである。詰まる所、
 この計画が発動されれば、良いことは何一つ無い。
http://rabenschwarz4vip.blog.shinobi.jp/Entry/52/


○試される。(ココログ mix)
 「知的財産推進計画 2007 からピックアップ」 2007/06/08
http://himagine9.cocolog-nifty.com/kitaguni/2007/06/2007_742e.html


○CNET  2007/03/22
 「映像コンテンツの二次利用への環境整備を--経団連がガイドライン策定で提言」
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20345513,00.htm


○ ORICON STYLE  2006/05/17
 「揺れ動く著作隣接権、集中管理が整う一方で権利の切り下げも?」
http://www.oricon.co.jp/news/music/21428/

 

 

 


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