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新リミックスのライヴ盤 レッド・ツェッペリン『永遠の詩─最強盤』は“ハードな爽快感”  

 今回は、この11月21日にワーナーミュージック・ジャパンからリリースされたレッド・ツェッペリン『永遠の詩─最強盤』の話を書いてみたい。


『永遠の詩(狂熱のライヴ)─【最強盤】』(ワーナーミュージック・ジャパン)
2枚組最新リミックス盤

 ほんの少し前まで、レッド・ツェッペリン(LED ZEPPELIN)のライヴ・アルバムと言えば唯一の存在だったのが、1973年北米ツアーの最終公演地、ニューヨークでの三日間(7月27日、28日、30日)の演奏から制作された、この『永遠の詩』だった。映画『狂熱のライヴ』のサウンドトラックという位置づけのアルバムではあったが、ここで聞かれる彼らのパフォーマンスには、映画とともに、強い思い入れを持っているファンも多いのではないか、と思う。

 ところが、ツェッペリンのオリジナル・アルバムが90年代にリマスター再発された際にも、ライヴ盤の場合はよくあるケースとはいえ、このアルバムだけは元の音質のまま放置された(註1)。

 その間に、英BBCでのライヴ録音をまとめた『BBCライヴ』('97年)と'72年6月の米国西海岸でのステージを収めた3枚組『伝説のライヴ─How The West Was Won』('03年)という2タイトルのライヴ・アルバムが新たにリリース。そしてそれと同時に世に出たツェッペリン初のライヴ映像集『LED ZEPPELIN DVD』が多くの音楽ファンに衝撃を与えるなど、『永遠の詩』の存在はここ数年、やや霞みがちだったのは確かだ。

 そんな中、やっと届けられたのが『永遠の詩─最強盤』だ。『LED ZEPPELIN DVD』や『伝説のライヴ』も手がけたエンジニア、ケヴィン・シャーリーが新たにミックスしたサウンドは、従来のものよりかなりファットで、お腹にズシンと響いてくるようなド迫力のバス・ドラムの迫力に圧倒される。

 個人的には従来盤のスコン、スコンと抜けるハイ・ピッチのスネアの音色が、その個性を幾分失ったのが残念な気がしないではないが、会場のアンビエンス感もたっぷりでハイ・クオリティになったこの音像は、我々を30年以上前のニューヨーク、マディスン・スクウェア・ガーデンに誘ってくれるに十分。これは現在の若い音楽ファンにも歓迎されるに違いない(もちろん、同様のリミックス音源が使用され、同時にワーナー・ホーム・ビデオから再発になるDVD『狂熱のライヴ』を見れば、それは映像付きで達成されるわけだ!)。


『レッド・ツェッペリン 狂熱のライヴ スペシャル・エディション』
(ワーナー・ホーム・ビデオ)
DVD2枚組(Tシャツやロビー・カードなどが付いた5000セット限定
「リミテッド・コレクターズ・エディション」もリリースされたが、
こちらは売り切れ店続出)


 圧倒的迫力で楽しめることになった『永遠の詩─最強盤』だが、気になる点もなくはない。当初は従来盤をリマスターしたものに、新たに6曲を追加し、曲順を実際の演奏順に並べ直してリリースされるだけと思われたが、リミックスされた音を実際に聞いてみると、従来盤の収録曲にも、かなりの「違い」が見られるのだ。

 当時から相当細かい編集作業を経て出来上がったと言われていた『永遠の詩』から、また新たに再編集が加えられて拡大盤が作られたことになるわけで、詳細な分析は僕の手には負えない。それに関しては、『レコード・コレクターズ』12月号(2007年)に掲載した竹本潔史氏による記事を読んでいただく方がいいのだが、ここではもう少し大雑把に、従来盤と『最強盤』との各曲の収録時間の違いに注目したい。まずは下記の収録時間の一覧表を見てほしい(註2)。

<曲名>                                                   従来盤    最強盤
Rock And Roll ロックン・ロール                         04:03      03:56
Celebration Day 祭典の日                              03:49     03:37
Black Dog ブラック・ドッグ                                未          03:46
Over The Hills 丘のむこうに                             未          06:11
Misty Mountain Hop ミスティ・マウンテン・ホップ       未          04:43
Since I've Been Loving You 貴女を愛しつづけて     未          08:23
No Quarter ノー・クォーター                            12:30      10:38
The Song Remains The Same 永遠の詩              05:53      05:39
Rain Song レイン・ソング                                08:25      08:20
The Ocean オーシャン                                    未           05:13

Dazed And Confused 幻惑されて                      26:52      29:18
Stairway To Heaven 天国への階段                    10:57      10:52
Moby Dick モビー・ディック                              12:46      11:02
Heartbreaker ハートブレイカー                          未           06:19
Whole Lotta Love 胸いっぱいの愛を                  14:25       13:51

 これでハッキリ分かるように、従来盤と比較すると「幻惑されて」こそ2分以上長いヴァージョンとなった反面、「ノー・クォーター」「モビー・ディック」「胸いっぱいの愛を」と2分前後短くなってしまった曲がある。中でも「胸いっぱいの愛を」の序盤はかなり強引な編集に驚く(1分33秒の箇所のつなぎ)。今回のアルバムに“完全盤”を期待していたファンにとって、これは残念な点だろう。

 曲順に関しても、CD2枚組に収めるためだろうが、実際には三日ともアンコールで演奏されていたはずの「オーシャン」がディスク2ではなくディスク1の最後に配置されている。そして、そのディスク1の収録時間には10分以上の余裕があったりする。これなら、曲順変更ついでに、ニューヨークでの三日間の最終日だった7月29日のみ2度目のアンコールで演奏された「サンキュー」を、ディスク1に追加することも可能だったのではないか?

 しかし、そうした曲順変更と曲の一部カットが、そのままこのアルバムの欠点になっているかというと、案外そうでもないから面白い。というのも、この『最強盤』を通して聞いてみると、そうした細かいことを忘れさせてくれる“ハードな爽快感”のようなものが伝わってくるからだ。

 特にディスク1。ロバート・プラントによる曲間のMCも少なめに抑えられ、8─10分台の2曲を適度に挟みながら3─5分くらいの長さのヴァラエティ溢れる曲がポンポンとテンポ良く飛び出してきて、これが実に痛快なのだ。

 『永遠の詩』がLP2枚組だった時代にも、僕などは「ロックン・ロール」→「祭典の日」→「永遠の詩」→「レイン・ソング」という4曲が収められた1枚目のA面を特に何度も繰り返し聞いたものだったが、その感覚をちょうどCD1枚分に拡大した感じで聞けると書けば、わかっていただけるだろうか? 

 このディスク1は、やはりこの11月にリリースされた新しいベスト盤『マザーシップ』と共に、ツェッペリンの魅力をうまく凝縮して、(今さらながら)入門者にも非常に聞きやすい一枚に仕上がっていると言っていいのではないかと思う。そして、その魅力に身体が十分に順応してきたら、次に彼らのライヴの神髄であるメドレー演奏やインプロヴィゼイション・パートがたっぷり収録されたディスク2に進む…。入門者には、こんな聞き方もできるようなライヴ・アルバムに仕上がっているのだ。


『マザーシップ─レッド・ツェッペリン・ベスト デラックス・エディション』
(ワーナーミュージック・ジャパン)
2枚組最新リマスター・ベストに、『LED ZEPPELIN DVD』のダイジェスト版ボーナスDVDが
付いた初回限定スペシャル・パーケージ(CD2枚組の通常盤もあり)


 この時代、たとえそれが30年以上前のコンサートのことであっても、様々な情報が出回っていて、その気になれば、ブートレグ(海賊版)を買い求めて○月△日のコンサートの(ほぼ)全長版なんてものを耳にすることも不可能ではない(音質はともかく)。その分、商品としての完成度を考えたライヴ・アルバムを編集する側にとっては困難もつきまとう時代になっている。

 そのアルバムのリリース直後から、世界のマニアが、トラックごとに、収録日や会場、オーヴァーダビング(マルチトラックレコーダーなどを使用し、一度以上録音した音声の上から、さらに別の音声を重ね録りすること)などを含む編集箇所の発見に血道をあげることになるからだ。そして彼らが発見したオーヴァーダビングや編集箇所の情報は、インターネットを通じて瞬く間に世界中に広がり、それらはそのまま「欠点」としてあげつらわれることになることも多い。

 しかしそれは本当に何でも「欠点」として認識すべきものなのかどうか? 

 長くなったので、こうした『永遠の詩』だけに留まらないライヴ・アルバム論をここで展開することはできないが、編集やオーヴァーダビング、そして大胆なミックスが功を奏し、時代の気分をうまく捉えたライヴ・アルバムの成功例としては、ローリング・ストーンズの『スティル・ライフ』('82年)があることを記しておきたい。

 この時期のストーンズのステージでの演奏時間は2時間半近く。それをLP一枚のあのコンパクトなサイズに収めなければ、あのアルバムの成功はなかったはずだ。チープ・トリックの『at武道館』('78年)の大ヒットにも、同じ要因はあるに違いない。

 もっとも僕自身も、『永遠の詩』の元となったニューヨーク三日間の全演奏を、いつかライノ・ハンドメイド(http://www.rhinohandmade.com/)あたりで「限定盤」として発売してくれないだろうか? という、叶えられることのなさそうなほのかな期待は、持っているのだけれども。あっという間に売り切れてしまったアレサ・フランクリンのフィルモア・ライヴ4枚組(http://www.rhinohandmade.com/browse/ProductLink.lasso?Number=7890)のように、値段は高くなってもニーズはあるはずだ。 

 

(註1) 『永遠の詩』の従来の編集の盤はこのままリマスターされずに終わるか、あるいは
     『最強盤』に置き換えられて廃盤扱いになっていくのかどうかは不明だが、従来の
     編集のまま、できるだけいい音質で聞きたいという向きには、クラシック・レコーズ
     の重量盤アナログLPをお薦めしたい。残念ながら、販元のサイト
     (http://www.classicrecs.com/)のカタログには現在は残っていない状態の
     ようだが、まだ在庫を抱えている通販サイトなどもあると思う。

(註2) ここにはCDプレイヤーで表示される各曲のタイミングをそのまま記しているので、
     曲のスタート地点と終了地点の解釈が従来盤と『最強盤』で違っていたり
     (「ロックン・ロール」と「祭典の日」の収録時間の変化の主因はそれ)、前後の
     MCを含んだり含まなかったりという違いがあることはご承知いただきたい。また、
     曲順は『最強盤』に準拠。時間表示のところに「未」とあるのは、従来盤には未収録の
     曲だ。


【関連情報】

○ベスト盤『マザーシップ』の国内公式サイト
http://wmg.jp/zeppelin/


○レッド・ツェッペリン海外公式サイト
http://www.ledzeppelin.com/


○『狂熱のライヴ』DVDの発売元、ワーナー・ホーム・ビデオのサイト
http://www.whv.jp/


○竹本潔史が主宰するレッド・ツェッペリンのブートレグ研究誌“Boot poisoning”のサイト
http://www.ne.jp/asahi/ledzeppelin/bootpoisoning/


○U's Lemon Song -Led Zeppelin(リンク集)
http://ww2.tiki.ne.jp/~ritsuko/


○まじかるZEPワールド LED ZEPPELIN 全曲解説
http://www2s.biglobe.ne.jp/~tanny/zep/zep.html


○BARKS NEWS  2007/11/13
 「ツェッペリンを好きじゃない奴は信用していない」
http://www.barks.jp/news/?id=1000035566


○BARKS NEWS  2005/07/12
 「夢のスーパー・グループはレッド・ツェッペリン」
 英国のラジオ局が“夢のスーパー・グループ”のメンバーを決めるリスナー投票を
 行なったところ、シンガー、ギタリスト、ベーシスト、ドラマーのすべてのカテゴリーで、
 レッド・ツェッペリンのメンバーがトップに選出された。スーパー・ロック・グループを
 作り上げようとしたが、“夢のバンド”はすでに存在していた。
http://www.barks.jp/news/?id=1000009699


○ ORICON STYLE  2007/09/13
 「伝説のロックバンド、レッド・ツェッペリン再結成」
http://www.oricon.co.jp/news/confidence/47959/


○ITmedia News  2007/10/23
 レッド・ツェッペリンの「全曲集」、iTunes Storeで予約開始
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/23/news093.html


○ITmedia News  2007/10/16
 「Verizon、レッド・ツェッペリンの楽曲や壁紙を配信へ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/16/news012.html


○LAZY  「LED ZEPPELIN デジタル配信、解禁」
http://mysound.jp/hrhm/2007/11/005047.php


○SMALL TALK  2007/11/24
 「レッド・ツェッペリン 永遠の詩(狂熱のライヴ)─最強盤」
 このライブ・アルバムは、ロックを聴き始めて間もない中学生の頃に出会って、
 恐らく人生で一番聴き込んだライブ・アルバムである。聴き始めの頃は夢中で、
 夜中にヘッドホンで1日2回づつ聴いていて、ミスの部分も含めて頭に完全に
 叩き込まれている。ツェッペリンのインプロヴィセイションの素晴らしさ、
 恐ろしさを思い知らされたものだった。
http://thenoisehomepage.cocolog-nifty.com/small_talk/2007/11/post_5352.html


○3度のメシよりCD 2007/11/21
 「LED ZEPPELIN / THE SONGS REMAIN THE SAME」
 音質は明らかに変わりましたね。旧盤はけっこうしょぼかったんですが、
 音圧があがったのはもちろん、迫力や臨場感が増してます。楽しみにしていた
 未発表曲も良いですね。「貴方を愛しつづけて」「オーシャン」なんか最高ですよ。
http://cddaisuki.exblog.jp/7734998


○RIFF RAFF  LED ZEPPELIN 『永遠の詩(狂熱のライヴ─最強盤』 2007/11/23
 レッド・ツェッペリンのファンの皆様は既にお持ちでしょうか?シンコーミュージック
 より刊行されておりますレッド・ツェッペリンの全てがわかる(?)
 『LED ZEPPELIN A CELEBRATION』という豪華本を。
http://blog.goo.ne.jp/sg-angus/e/28b1a9153cabbb75d619a7ec52cb7249


○音楽酒場 since 2005「ツェッペリン・モードにギアが入った1週間」2007/11/25
http://ongakusakaba.at.webry.info/200711/article_8.html


○無駄遣いな日々 2007/11/22
 「レッド・ツェッペリン / 永遠の詩(狂熱のライヴ)─ 最強盤」
http://cdsagashi.exblog.jp/7735711


○しぇからしかー 「LED ZEPPELIN/THE SONG REMAINS THE SAME」2007/11/24
http://blogs.yahoo.co.jp/zz58man/52148278.html


○ロック好きの行き着く先は…  2007/11/21
 「Led Zeppelin - The Song Remains The Same」
 ボンゾの荒々しいドラミング、ジミー・ペイジのクールでハデに弾きまくる
 ギタープレイ、ジョンジーのツボを得たベース、プラントの新たな歌い方を
 習得した雄叫び、どれもこれもがレッド・ツェッペリンという融合体を表していて、
 やっぱり今に至るまでどのバンドもこれを超えられないってのがよくわかった。
http://rockcollector.blog31.fc2.com/blog-entry-749.html


○ロックは演奏で決まる 「Led Zeppelin レッド・ツェッペリン」
 ハード・ロックのハードの意味は、音自体の硬さをさしているのではなく、
 魂の重たさを意味している。その証拠に、ツェッペリンの音は決して頭に
 ガンガンうるさく響くようなものではないし、その音は、むしろ受け手の魂を
 揺さぶるものである。だからツェッペリンは、ライブで派手に踊ったり、
 ステージの端から端まで走ったり、バカな真似はしなかった。
http://rock-cd.info/band/ledzeppelin.html


○No Quarter by Led Zeppelin(YouTube映像 06:51)
http://jp.youtube.com/watch?v=331l9_-J9ho


○PGSORM performs Zeppelin's 「Black Dog」(YouTube映像 04:49)
http://jp.youtube.com/watch?v=80bCAIHrFoU


▼ゲームとレッド・ツェッペリン音楽の融合

○Led Zeppelin-Immigrant Song(YouTube映像 02:23)
http://jp.youtube.com/watch?v=xw_9jDh91MU


○Stairway to Heaven Guitar Hero Frets on Fire(YouTube映像 08:12)
http://jp.youtube.com/watch?v=bK3VwjAManw&feature=related

 

 


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