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「初音ミク」をめぐるプロとアマの「差」

少し前のことになるが、歌う音声合成ソフト「初音ミクhttp://www.crypton.co.jp/mp/pages/prod/vocaloid/cv01.jsp」が、和田アキ子さんが出演するTBS系のテレビ番組「アッコにおまかせ!
http://www.tbs.co.jp/akko/index_web.html」(2007年10月14日放送)の中で紹介されたものの、その扱い方がひどいとしてネットユーザーから強い反発を受けた(参考
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20071015_tbs_vocaloid2/)。

この件はネットの中ではそれなりに有名な話なのでご存知の方も多いと思う。これには、その後「初音ミク」画像が検索エンジンにヒットしなくなり、それをメディア企業の圧力があったのではないかと疑う動きが出るといったおまけもついたりして、ひとしきり大騒ぎとなった(参考
http://matome.info/HatsuneMikuImageSearch/)。

この件そのものについてではないが、関連して少し考えたことがある。


そもそも「初音ミク」をよく知らない人のために補足しておく。「初音ミク」はクリプトン・フューチャー・メディア(株)http://www.crypton.co.jp/mp/が開発、販売しているコンピュータソフトだ。あらかじめ記録された女性声優の音声データを使って合成音声を生成する機能があり、楽譜と歌詞を指定すると、アイドルのような声で楽曲をつくることができる。その「実力」は、同社が公開しているサンプル音声
http://www.crypton.co.jp/download/demosong/extra/CV01_01_ballade.mp3でお確かめいただきたい。

もちろん人間の実際の歌声とははっきり区別できるほどちがうが、なかなかのものだと思う。発売以来大反響を呼び、これを使ったオリジナルの楽曲を作ってネットに上げる者、それを使って音楽ビデオを作る者などが入り乱れて、ドワンゴ系の「ニコニコ動画
http://www.nicovideo.jp/」をはじめとする動画投稿サイトでも、ちょっとしたブームになっている。


「アッコにおまかせ!」がとりあげたのも、そうした動きを受けてのものだ。

「初音ミク」について、プロ歌手である和田アキ子さんがどう考えているのかは知らない。番組の取り上げ方自体は、「初音ミク」そのものよりも、それがオタクの間で人気であることを揶揄するものであったらしい。

情報では、和田アキ子さんも番組中に「わからない」旨の発言をしたらしいのだが、どうもそれは、番組に登場した初音ミクユーザーのオタクぶりに対してであって、「初音ミク」そのものについてはコメントしていないようだ。コメントするまでもない、ということなのかもしれない。プロの歌とは比較にならない、と考えたかもしれない。少なくとも好意的なものではなかったろうことは想像できるが、わからないのでこれ以上つっこまない。

ともあれ、一般論的にはどうも、いわゆるプロの人々やプロ側の視点に立つ人々から、「初音ミク」に限らず、最近はやりのいわゆるUGC(User-Generated-Content:プロの作り手ではなく、一般の人々によって作成されたさまざまなコンテンツの総称)に対する批判的なコメントを聞くことが少なくないように思う。こうしたUGCは、動画投稿サイトやその他のウェブサイトでさかんに公開され、けっこう人気を博しているものも多いが、それらの多くが「しょせん素人芸」というわけだ。プロには比べるべくもない、無料だから見るが金を出してまで見ない、といったふうに。

一方で、アマ側の視点からは、プロの人たちがUGCを低くみるのはおかしい、という声も多くある。上記の「初音ミク」問題では、多くのネットユーザーたちがTBSや和田アキ子さんなどに対して強い批判の声を上げていた。特に初音ミクユーザーやそれを使ったUGCを支持する人たちにとっては、自らが応援する「初音ミク」を冒涜されたような印象だったのだろう。

このあたりについては、どうも「プロ」と「アマ」の間に大きな意識の差があるように思う。ここでいう「プロ」とは、当該領域を収入源としている人たちだけでなく、当該領域についてそれなりの専門的教育や訓練を受け、あるいは実務経験などを備え、知識や技術を持った人たち、ぐらいに広く考えていただきたい。

「プロ」からみれば、「初音ミク」を使った多くの作品も含め、UGCのほとんどは「素人芸」の域を出ないものだろう。もちろん中には非常にハイレベルのものもあるが、素人にも差がわかるものは少なからずある。特に商業的価値を生み出すレベルのプロであれば、ほとんどのUGCについて「作り」の甘さや未熟な技量を一目で見抜くことができるであろうから、そうしたものと自分たちの「芸」を比較されることすら不快に思うかもしれない。天賦の才能と厳しい鍛錬の賜物である自分たちの「芸」を素人芸といっしょにするな、と憤るかもしれない。

しかし、多くのアマからみれば、プロのそうしたこだわりにはあまり価値を感じられないのではないだろうか。特に娯楽の場合は「プロ」と「アマ」の技量差が重大な問題を引き起こすおそれは小さいから、プロのサービスを選ばなければならない理由はあまりない(たとえば医療の分野では、一見差がないように見えても、プロとアマの技量の差は重大な結果を引き起こすだろう)。

そもそも、技量の差を見分けられなければ、それに対する評価の差もつけられない。それに大事なのは、「自分が楽しめるかどうか」だ。もちろんプロの技は楽しめるものであろうが、アマのものでもそこそこのレベルがあれば充分に楽しめるし、それに対して金を払うこともありうる。実際、同人作品として誕生した楽曲「エアーマンが倒せない」は、ニコニコ動画などで注目された後にインディーズCD化されており、ドワンゴの着信メロディサイト「アニメロミックス」でも配信され、ランキング上位に位置している。

「初音ミク」は、音楽領域でのアマの可能性を広げた。コンピュータを使って音楽を作る、いわゆる「DTM」(「Desktop Music」の略。和製英語のようだ)の大きなネックの1つはボーカルだった。歌声は機械では作れない。それが常識だったわけだが、「初音ミク」はその常識を部分的にせよ破ったのだ。

現在の「初音ミク」の水準は、プロ歌手には及びもつかないだろうが、音痴の素人を使うよりは明らかにましといえる。今後技術が向上すれば、半端なアマ歌手、さらには半端なプロ歌手をも上回る「実力」を持つようになる可能性だってあるかもしれない。そのときには、楽曲自体の優劣が「最後の砦」になるかもしれないし、少なからぬプロが高度なアマとの競争に負けて「失業」することもあるかもしれない。

こうした流れは、実は情報技術の発達によって他の多くのメディアにおいても起きている。出版業界も、新聞業界も、映像業界も、ネットとの競争にさらされているが、その「競争」の少なからぬ部分は、ネットの向こう側にいる「そこそこの腕をもったアマ」たちとの間で生じているものだ。

もともと音楽業界は、アマやセミプロたちの活動がさかんであり、プロとの境目も他業界ほどはっきりしていないところがある。「初音ミク」は、これが「歌」という領域でも生じうることを示した「もう1つの例」といっていいのではないか。

「プロが生きにくい時代」と嘆くか、「アマが活躍できる時代」と歓迎するかは、もちろん個々人の立場によるだろう。ただ、少なくとも娯楽の領域では、プロよりアマの数のほうが多いから、全体としていい方向ととらえる向きが多かろうと思う。他人事といってはいられない。多くの人がどこかの領域で「プロ」なのだから。

 

【関連情報】

○海部美知 Tech Mom from Silicon Valley  2007/04/19
 豊かな時代の究極の楽しみは「クリエイトすること」、それがWeb2.0
 今までのように「メーカーが何か作って、消費者に与える」「○○○ー○事務所が
  スターを作って視聴者に与える」という一方向だけの流れでは、もう面白いと
  思えない世の中になったのではないかな、と思う。
http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20070419/1176961765


○現代詩 iPoem  「電子楽器の歴史から考える初音ミク」 2007/10/17
http://d.hatena.ne.jp/KGV/20071017/1192633505


○メディア・パブ    2007/04/18
 「メディア/エンタメ業界の最大の脅威はUGC(ユーザー生成コンテンツ)である」
http://zen.seesaa.net/article/39130950.html


○SEMリサーチ 2006/10/11
 「2010年までUGCは増え続けて8億ドル以上の収益をもたらす-In-Stat調査」 
http://www.sem-r.com/22/20061011204827.html


○CNETブログ IT's Big Bang! -- ITビジネスの宇宙的観察誌   2007/11/11
 「VOCALOIDは電通の夢を見たのか----初音ミクと電通の噂に感じたこと」
http://japan.cnet.com/blog/it_bigbang/2007/11/11/entry_25001468/


○CNET  2007/10/23
 創業社長が明かす、仮想歌手「初音ミク」にかける想い
http://japan.cnet.com/interview/story/0,2000055954,20359336,00.htm


○[新崎幸夫,Business Media 誠]  2007/10/29
 ボーカロイド・初音ミクがもたらす「3つの革命」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0710/29/news112.html


○[新崎幸夫,Business Media 誠]  2007/11/05
 同人CD販売は? カラオケのコーラスは?――初音ミク「許諾の限界」を探る
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0711/05/news061.html


○ITmedia News  2007/09/28
 DTMブーム再来!? 「初音ミク」が掘り起こす“名なしの才能”
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/28/news066.html


○ITmedia News  2007/09/12
 異例の売れ行き「初音ミク」 「ニコ動」で広がる音楽作りのすそ野
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/12/news035.html


○ITmedia オルタナティブ・ブログ 安藤怜のロンドン灯
 「初音ミク」ムーブメントから考えるCGMの弱点 2007/11/12
http://blogs.itmedia.co.jp/london/2007/11/cgm_d7f4.html


○松尾 公也 ITmedia オルタナティブ・ブログ CloseBox and OpenPod 
 「作詞家(自動)が初音ミク、鏡音リンに出会ったら」 2007/11/19
http://blogs.itmedia.co.jp/closebox/2007/11/post_230c.html?ref=rssall


○吉川 日出行 ITmedia オルタナティブ・ブログ 
  ナレッジ!?情報共有・・・永遠の課題への挑戦
 「初音ミク現象に見る集合知活用型作品開発のポイント」 2007/09/30
http://blogs.itmedia.co.jp/knowledge/2007/09/post_6f3a.html


○池田信夫blog  「ネットはクリエイターの敵か」 2007/11/27
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d74c36ced9a7ab194b3685a4627281db


○踊る新聞屋  2007/11/16
 [初音ミク]を「キモヲタの玩具」的フレームに嵌め込むのは、JAS○ACとD通の陰謀
  だ…(ったりして)ということを、人間のプロシューマへの回帰という視点で
  愚考してみる
http://t2.txt-nifty.com/news/2007/11/mediajasac_32d3.html


○キャズムを超えろ! 2007/04/29
 「ニコニコ動画に見る和製動画CGMの勃興 ─ただTVのコピーをUPする
  だけではなくなった!?」
http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20070429/p1


○オタク商品研究所plus 「初音ミクの収束」 2007/11
http://otasyou.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_a831.html


○「秋元おすしのプロデュース日記」だったかもしれないトコロ 2007/11/18
 「クリプトンメディアは音声ソフトを作ったつもりが意識しないうちにキャラクター
 を産んでしまっていたのがすごい、と思う」
http://d.hatena.ne.jp/Vitalsine/20071118/toro


○湘南自転車 2007/11/10
 「初音ミクにネギがつきものだと思っている人が多いのは悲しすぎる」
http://akibabunka.blog65.fc2.com/blog-entry-20.html


○初音ミクみく 「インディーズ業界に初音ミク旋風!」 2007/11/01
http://vocaloid.blog120.fc2.com/blog-entry-122.html


○初音ミクみく 2007/11/28
 「初音ミクのねんどろいど、アマゾンだけで予約1万オーバー!」
http://vocaloid.blog120.fc2.com/blog-entry-273.html


○アキバHOBBY  2007/11/25
 ねんどろいど 初音ミク フォトレポート『電撃15年祭』
http://akibahobby.net/2007/11/dengeki_miku.html


○ねころぐ  初音ミク・ドール【完成版】 2007/11/17
http://necolog.moe-nifty.com/neco/2007/11/post_17be.html


○アキバblog  2007/11/27
 コミックRUSHに初音ミク 「漫画でも“みっくみく“」
http://www.akibablog.net/archives/2007/11/hatsune-mix.html


○教えて君.net 2007/11/19
 「初音ミク解体新書・ミクを大人の女優にする禁断の大技」
http://oshiete.new-akiba.com/archives/2007/11/post_14.html

 

▼初音ミク関連映像・画像

○VOCALOID『初音ミク』の中身の人(声優「藤田 咲」さん YouTube映像 01:01)
http://www.youtube.com/watch?v=PqrLqSZm5RU&feature=related


○【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】(YouTube画像 01:38)
http://www.youtube.com/watch?v=gx_9OLknPt8


○初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれました「Packaged」 Full Ver. (STEREO)
 (YouTube画像 04:52)
http://www.youtube.com/watch?v=QFqvF9XpbaM&feature=related


○初音ミクオリジナル曲 「ハジメテノオト(Fullバージョン)」(STEREO)
 (YouTube画像 05:13)
http://www.youtube.com/watch?v=QAoJ9timeHU&feature=related


○初音ミク with Sweet Ann オリジナル曲『Lividus (full)』(STEREO)
 (YouTube画像 06:15)
http://www.youtube.com/watch?v=B2xyZ11xbsc&feature=related


○初音ミクで旅立ちの日に(YouTube画像 04:37)
http://www.youtube.com/watch?v=rHB5uQMyrh4


○初音ミク/魔笛:夜の女王のアリア2[STEREO](YouTube画像 02:49)
http://www.youtube.com/watch?v=51q6am2SPhE


○初音ミク--リローデッド(YouTube映像 04:54)
http://www.youtube.com/watch?v=AOD65bAvtAQ&feature=related


○初音ミクを描く  ニコニコ動画で見つけた神動画! (YouTube映像 08:51)
http://www.youtube.com/watch?v=iDIctMgY7Vc

 

▼Android(アンドロイド)、ロボット関連映像

○Johnnie Walker Android(YouTube映像 01:00)
http://www.youtube.com/watch?v=AYC8fTv2jp4&feature=related


○Johnnie Walker making of 'Human' TV ad(YouTube映像 04:33)
http://www.youtube.com/watch?v=_VPfq3jOhXM


○Heineken: Keg (YouTube映像 00:30)
http://www.youtube.com/watch?v=l-NfrBgYIEQ


○Philips RobotSkin latest moisturizing shaving system in UK
  (YouTube映像 01:14)
http://www.youtube.com/watch?v=c6ZSZGUlHZ8


○AKIBA ROBOT FESTIVAL 2006: Actroid Female Robot(YouTube映像 01:53)
http://www.youtube.com/watch?v=WbFFs4DHWys&feature=related


○Real Android Woman! (YouTube映像 01:25)
http://www.youtube.com/watch?v=gD1tjTsBsJc&feature=related


○Android Video(YouTube映像 02:14)
http://www.youtube.com/watch?v=MY8-sJS0W1I


○Joey Chaos from Hanson Robotics(YouTube映像 03:31)
http://www.youtube.com/watch?v=ZLOxxugBHT4


○Austin Powers Fembots(YouTube映像 01:42)
http://www.youtube.com/watch?v=zTv9AhCuSU4&feature=related


○Bionic Woman vs. Fembots(YouTube映像 03:16)
http://www.youtube.com/watch?v=cefHBbOIR0w

 

▼DTM関連

○【石橋楽器店】KORG / Kaossilator デモ・ムービー(YouTube映像 04:48)
http://www.youtube.com/watch?v=27xAuXpbKfo&feature=related


○KORG KAOSSILATOR OVERDUB(ジェット☆ダイスケ YouTube映像 02:32)
http://www.youtube.com/watch?v=GjkXReNFTLo&feature=related


○KAOSSILATOR(カオシレーター)便利アイテム
(ジェット☆ダイスケ YouTube映像 02:29)
http://www.youtube.com/watch?v=oAkacCn9W6A&feature=related


○KORG Kaoss Pad KP3(YouTube映像 04:27)
http://www.youtube.com/watch?v=owkeBOcC-AQ&feature=related


○初音ミク操縦教本 超初心者用(YouTube映像 10:43)
http://www.youtube.com/watch?v=eTVKx3q8VbE


○初音ミク 情報館 「初音ミクでオリジナル、と講座?」
 初音ミクに歌わせたいけど、DTMとか触ったことないという人は、一度観てみると
  いいかもしれません。初音ミクの使い方について、なんとなく流れが伝わるのでは
  ないでしょうか。初心者向けかな?
http://www.hatsunemiku.info/600/kouza01.html

 

 


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