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視聴率1位獲得、米国の医療現場が垣間見えるドラマ「プライベート・プラクティス(開業医)」

日本にも海外のドラマが続々と進出し、中でも<医療>をテーマにした「ER」や「GREY’S  ANATOMY(グレイズ・アナトミー)」は、人気番組の一つだ。国内でも、「医龍2」といった医療関連のドラマは、そのリアリティーさとともに、社会問題などを投影しやすいこともあり、年齢に関係なく幅広い層に対して、社会のリアルな出来事を紹介しやすい。

米国では、ABCの医療関連ドラマ「GREY’S  ANATOMY」のスピンオフ番組として今春にパイロット版(試験特別番組)が放送された「PRIVATE  PRACTICE(プライベート・プラクティス/開業医)」が話題を呼んでいる。秋から本格的にシリーズ化された同番組は、人気刑事ものシリーズ「Criminal  Mind(クリミナル・マインド)」や新番組「Gossip Girl(ゴシップ・ガール)」などを差し置き、水曜日の午後9時からの時間帯で1,441万のヴュアーを獲得し、視聴率1位を取っている。

物語は、シアトルの名門大学病院の婦人科医として勤めていた女医アディソンが、職場のチーフポスト争いに負け、また元夫で神経外科医として勤めるディレックを、研修医のメレデスに奪われ、仕事も、恋愛も、踏んだりけったりの人生をリセットするために、医学生時代の大親友ナオミとサムが開業する、ロサンゼルスの個人病院「オーシャンサイド・ウェルネス・センター」に転職するところから話がはじまる。

大病院から小さな個人病院へ。ビルの1フロアーに、内科医、小児科医、産婦人科医、精神科医、そして東洋医学の専門家が集まった小さなオフィスには、大病院と違って、手術室があるわけでも、ナースがいるわけでもない。医療ナースのインターンをしている大学生のデル(男性)が、受付をしながらナース業もこなすという勝手の違いに、最初戸惑うアディソンも、ナオミやサムをはじめ、異なる専門とはいえ、上下関係もなく、同世代の医者仲間と協力しあい患者の面倒をみるという環境に、次第に居心地のよさを感じ始める。

大学病院と開業医。番組内のスピードも、起きるトラブル内容もまったくといって異なるところが、GREY’S  ANATOMYも見ている視聴者としては興味深い。

例えば、3人の男の子の母親が、4人目の子供を出産するが、実は女の子だと思っていたのに生まれてきた子供が、またしても男の子でパニックになるというエピソード。これまでの大学病院をテーマにした番組では、出産自体に問題が発生するといったエピソードが多いのだが、この番組では、出産そのものには問題はなく、むしろ扱いにくい精神的ショックなどが起きた場合の、医療現場の対応を見せてくれる点は、これまでの作品にはない視点だと思う。なお、このエピソードでは、精神科医のヴァイオレットが、母親にカウンセリングを行い、その場をうまく収集していく。

一方で、同センターが、地元の大学病院としっかりとしたネットワークでつながっている点も描かれている。近くの大学病院のチーフ・シャーロットは、このセンターを頻繁に訪れるし、このセンターの医師達も、手術や入院が必要な患者を、シャーロットの元へ送り、連携をとっている。(もちろん時には大病院の治療方針と、開業医の方針の違いから摩擦も起きる)

ところで、米国の医療制度を簡単に説明してみたい。そもそも米国には日本のような国の指定する「健康保険」制度が存在しないと言っていい。国民が義務として保険に入る必要がないため、個人や企業が「加入をするか」という点から意思選択をする。

ちなみに現在のところ84%の国民が何らかの健康保険に加入しているそうだ。さらの保険自体も、さまざまな種類が用意されており、自身の健康や金銭的な状況に合わせて加入内容を決めていく。ただし高齢者や指定の疾患を持つ患者は、「Medicare(メディケア)」という政府が運営する保険を持つことが可能だ。

ところで、各企業が選択した保険の種類によって、保険加入者はドクターを「指定」されることがある。自分の身近にある医療施設が、自身のもつ保険の指定医であることが、治療を受ける条件だったりするのである。もちろん指定医制度を必要としない保険もあるのだが、それの場合はぐんと月々の保険料が値上がりする。

こうした背景から、米国では自分の意思で医者や病院を選択する権利を意識している人が多い。さらに治療費が高い分「健康維持」や「病気予防」に対しても常に高い関心がある。

日ごろからドラマに登場するようなプライベート・プラクティス(開業医)にかかることで、常に体調管理をする人が多いのも事実なのだ。番組の最初のエピソードで、実際にナオミが、大学病院で治療ばかりを行ってきたアディソンに、開業医の役目を説明するシーンでも、「予防のために相談に来る人が多い」という台詞があるほどだ。日本のように、大人が風邪をこじらせたり、働きすぎで入院、などということはあまりないようなのである。

「治療」より「予防」に力を入れている現場こそが、米国のプライベート・プラクティスと考えると、日本では高齢者が地元の病院に足繁く通っているが、米国では健康的な働き盛りの男女が、内科や婦人科をはじめ、精神科を含め、医療のプロから気軽に「自身の健康維持のための」アドバイスを得やすい環境が揃っているといえる。

「急がば回れ」なのである。残念ながらドラマのように腕利きで、それでいてルックスもいい医師ばかりがいる病院がある、というのはまだ耳にしたことはないのだが(笑)

 

【関連情報】

○MediaSabor  2007/06/03
 「診療費をWEB上で公開した米国の医療機関─。病院競争時代の処方箋となるか」
http://mediasabor.jp/2007/06/web.html


○MediaSabor  2007/09/20
 「マイケル・ムーア監督の映画「SiCKO」(シッコ)をメディアが批判─ 
  キューバは本当に医療天国?」
http://mediasabor.jp/2007/09/sicko.html


○女子リベ  安原宏美--編集者のブログ「市場原理とアメリカ医療」2007/11/01
http://ameblo.jp/hiromiyasuhara/entry-10053475519.html


○午下がりの読書 「アメリカ医療の光と影」 2005/09/21
 この本の中で一番感銘を受けたのは、あとがきで紹介された、ボストン大学
  公衆衛生大学院のジョージ・アナス教授の言葉だった。
  「医療のグローバル・スタンダードとは、市場原理とか、マネジドケアとか
  いうものではありません。医療のグローバル・スタンダードとは、
  『トランスペアレンシー(transparency,透明性)』と『アカウンタビリティ
  (accountability,説明責任)の二語に尽きるのです」と喝破されたのであった。
http://apres-midi.tea-nifty.com/book/2005/09/post_6605.html


○感じ通信 2006/08/05
 「ドラマER(緊急救命室)はどうして混雑してるか」
http://www.sumainobaiten.com/blog/zakki/archives/2006/08/er.html


○livedoorニュース 2007/10/17
 海外ドラマ「グレイズ・アナトミー」美男美女が繰り広げる話題の人間ドラマ
http://news.livedoor.com/article/detail/3348127/


○シネマトゥデイ 2007/07/17
 全米で社会現象の医療ドラマ「グレイズ・アナトミー」 サンドラ・オーが語る
http://cinematoday.jp/page/N0011021


○アメリカドラマ411 「Private Practice 1-01」 2007/10/17
http://betheoneweneed.blog121.fc2.com/blog-entry-28.html


○cinemacafe.net  2007/03/22
 シネマカフェ的海外ドラマ生活 vol.16 新タイプの医療ドラマ「HOUSE」に注目!
http://www.cinemacafe.net/news/cgi/column/2007/03/1552/index.html


○海外ドラマ専科 2007/07/13
 「アメリカ医療ドラマの歴史」
http://kaigai-drama.tvblog.jp/kaidora/2007/07/post_43f0.html


○権力とマイノリティ 2007/10/13
 命は金で買えるのか? ドラマ「医龍2」
http://garasu2005.exblog.jp/6618072/


○「野戦病院」の研究室 「医療ドラマ」 2007/11/26
 医療ドラマ、医師の皆さんには評判が悪いようですね。
http://blog.m3.com/LFH/20071126/1


○livedoorニュース 2007/12/06
 “命の尊さ”を世に問う医療ドラマ――「カドゥケウス NEW BLOOD」
 アトラスから2008年1月17日に発売されるWiiソフト
  「カドゥケウス NEW BLOOD」。本作のディレクターは金田大輔氏、
  イラストレーターは土居政之氏と、前作の「カドゥケウスZ 2つの超執刀」の
  制作メンバーで開発されているドラマティック手術アクションゲームだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/3418993/

 

 


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