情報流通革命(出版2.0、新聞2.0)の切札となるか─Amazon(アマゾン)のモバイル電子書籍リーダーKindle(キンドル)
- 米国在住ジャーナリスト
(記事要約)
11月19日に米国通販サイトのアマゾン・ドット・コムが発売した電子書籍リーダーのKindle(キンドル)が話題を呼んでいる。初回在庫数は発表されていないものの、一台399ドルのキンドルは発売後、数日で在庫切れとなった。
ニューズウィークには7ページにもわたる特集記事が掲載されたほか、ニューヨークタイムズや、ウォール・ストリート・ジャーナル、CBSニュースなど各種メディアでもキンドルを従来の電子ブックリーダーからの進化と伝えている。
キンドルの大きな特徴は、大量の電子書籍や雑誌購読の提供と、全米の高速無線ネットワークを介して無料でウェブにアクセスできるため、ユーザーがいつでも手軽に電子書籍を購入、ダウンロードできる点だ。しかし、アップルのiPodのようなファッション性に欠けており、iPodのようなブームを起こすことはできないという見方が大勢だ。
○アマゾン・ドット・コムのキンドル宣伝ビデオ(YouTube映像 06:18)
http://jp.youtube.com/watch?v=BKUKQ7QqOHw
記事リンク: Kindleは「電子書籍のiPod」になれるか?(11月20日付け、ウォール・ストリート・ジャーナル。アイティメディアによる日本語訳)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/20/news086.html
▼人気がでそうな電子書籍リーダー (11月22日付け、ニューヨークタイムズ):英文
http://www.nytimes.com/2007/11/22/technology/personaltech/22pogue.html
▼読書の未来 (11月26日号、ニューズウィーク):英文
http://www.newsweek.com/id/70983
▼アマゾンの電子リーダーは火付け役にはならない(11月28日付け)CBSニューズ:英文
http://www.cbsnews.com/stories/2007/11/28/scitech/pcanswer/main3549778.shtml
(解説)
電子書籍リーダーというアイディアは新しいものではない。これまでにも、Rocket eBookリーダーや、Everybook、SoftBook、そして昨年発売されソニー・リーダーなど、様々な電子書籍リーダーが市場に登場した。しかし11月20日付けのウォールストリート・ジャーナルの記事によれば、北米ではiPodがこれまでに1億1000万台以上売れたのに対し、電子書籍リーダーの販売数は10万台程度だという。
ニューズウィークの特集記事「読書の未来」では、アマゾン・ドット・コムのKindle(キンドル)を、「従前の試みを超越し、Book 2.0へと転換していく上でのターニングポイント。読者がいかに読み、書き手がどう書き、出版社がどのように出版するかに革命をもたらす」と評している。
キンドルは399ドルと、競合のソニー・リーダーより100ドル高い。しかしアマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、キンドルを単なる電子機器ではなく、サービスとして売ることで消費者からの支持を期待しているという。
ソニー・リーダーでは、電子書籍をコンピューターにダウンロードしてから、ケーブルでリーダーに転送しなければならないが、キンドルは携帯電話と同じ高速の無線ネットワークを使ってウェブにアクセスするため、どこからでも直接電子書籍を購入・ダウンロードすることができる。しかも通常なら月に何十ドルもする高速無線ネットワークの通信料金はアマゾンの負担で、ユーザーは無料でどこからでもウェブにアクセスできる。これならWiFiホットスポットを捜すこともなく、病院の待合室や空港で気軽に本を購入して読み始めることも可能だ。
ソニー・リーダーの電子書籍カタログは2万冊だが、キンドルなら古典からベストセラー、新作を含む9万冊から選ぶことができ、価格面でも優位性を示している。米国のハードカバーは通常25ドル前後で、ソニー向けの電子書籍は新作で12ドル前後。これがアマゾンのキンドル向けの価格だと、ベストセラーや新作でも9.99ドル、古い本だと3ドルから6ドルだ。
さらに新聞や雑誌、ブログをキンドルで講読することができる。例えばニューヨーク・タイムズ紙を購読するなら、月14ドルの購読料で無線ネットワークを経由して毎朝キンドルに直接配信されるというわけだ。
キンドルを使ったウェブの閲覧は無料なので、ウェブベースのメールアカウントなら、どこからでも電子メールをチェックすることができる。さらに専用の電子メールアドレスを使って、自分のキンドルに読みたい文書を送ることもできる。これは有料サービスだが、メール送信一件につきわずか10セントである。
キンドルの設計にあたっては、読みやすさを重視して、ソニー・リーダーと同様にバックライト不要で、直射日光の下でも読めるEインクを使い、高齢者に配慮して表示文字の大きさを変えられるようにし、左手でも右手でもページを変えられるようにページめくりボタンを両側につけている。
もちろん開発者の意図がユーザーにその通り伝わらないことも多い。発売後、各メディアやブログが伝える使用体験談をみると、ページをめくるボタンが大きすぎて間違って押してしまう、ウェブ閲覧の方法が複雑で時間がかかりすぎる、暗いところでは画面が見えない、ダサい、399ドルは高すぎる、といった意見が出ている。
電子書籍が普及すれば、出版社も書店も印刷費用、在庫費用、増刷・絶版を考えずにすむようになると、アマゾンのベソス氏は言う。キンドルの発売当初の在庫はすぐに売り切れたが、キンドルの成功はそこそこで、ベストセラーにはならないという見方が強い。むしろ、iPhoneやiPodが、iReaderになる日が近いのではと囁かれている。
【関連情報】
○POLAR BEAR BLOG 「新聞業界の救世主としての Kindle」2007/11/22
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/11/kindle_7a1c.html
○マスコミ不信日記 2007/12/11
「Amazon Kindleは電子書籍コンソーシアムの屍を越えるか2」
個人的に気になってるのが、前回冒頭の記事で取り上げた新聞社との提携。
案外書籍より新聞のほうが向いてるのかもしれません。そういや元毎日新聞の
河内孝氏もこれからは「Eペーパー」の時代だと言ってましたっけ。
http://blog.livedoor.jp/saihan/archives/51193700.html
○滑川海彦の ソーシャルメディアメモ
「Kindleの衝撃―eBookのiPodになるか?」 2007/12/03
実はOn Bookの市川編集長が2006年12月にODECOのメルマガに発表した
Kindleについての記事がほとんど唯一のまともな分析だ。ちなみに2006年
というのはタイプミスではない。1年前、Amazonが計画してる新しい
eBookリーダーのスペックが流れたとき、その情報だけを元にして書かれた
記事だ。ところが、Kindleが実際に発売された現在読んでもそのままで
参考になるので、1字1句、そのまま再掲する。
http://www.demeken.net/namekawa/2007/12/kindleebookipod.html
○湯川鶴章のIT潮流 「AmazonのKindleが欲しい!!」2007/12/06
http://it.blog-jiji.com/0001/2007/12/amazonkindle_f36d.html
○livedoorニュース 2007/12/04
「電子書籍に本格参入したニンテンドーDSのヤル気」
DSにはワイヤレス通信機能(ニンテンドーWi-Fiコネクション)がある。
「DS文学全集」の場合、ネットに接続すれば本の追加も可能だ(最大20冊前後)。
つまりDSは、既にして「Kindle」の機能を兼ね備えているのである。
http://news.livedoor.com/article/detail/3414802/
○CNET 2007/11/29
DSを使ったコンテンツ配信サービスが登場--大日本印刷、
新事業「DSvision」を発表
日本では、携帯機器に文章や映像をダウンロードするというビジネスは今ひとつ
浸透してこなかったが、その一因は肝心の端末が普及していなかったことにある。
2000万以上ものニンテンドーDSユーザーが対象となる「DSvision」のサービスが
開始されれば、日本でも「コンテンツを端末にダウンロードして楽しむ」という
行為が、一般的なものになるのかも知れない。
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20362123,00.htm
○CNET 2007/08/10
「あなたは電子書籍を読みますか?--活況を呈す電子書籍市場」
http://japan.cnet.com/column/naruhodo/story/0,2000055917,20354592,00.htm
○メディア・パブ 2007/11/21
「Amazon.com自身でも評価が低い電子ブック“kindle”とは」
http://zen.seesaa.net/article/67917785.html
○WIRED VISION 2007/11/22
Amazon社の電子書籍リーダー『Kindle』、画像ギャラリーで紹介
http://wiredvision.jp/news/200711/2007112220.html
○GIZMODO JAPAN Amazon Kindleは「本のiPodになれる?」2007-11-21
http://www.gizmodo.jp/2007/11/amazon_kindleipodqa.html
○GIZMODO JAPAN 2007-11-29
「実生活でKindleを1週間使ってみた!(長文レビュー)」
http://www.gizmodo.jp/2007/11/kindle1_1.html
○TechCrunch Japanese 「Kindle: まずは触ってみた」2007/11/20
http://jp.techcrunch.com/archives/kindle-first-impressions/
○MarkeZine 2007/11/20
米Amazonの新しい読書用端末「Kindle」は、接続無料など新しい試みが満載
http://markezine.jp/a/article/aid/2159.aspx
○図書館退屈男 2007/10/15
「国立国会図書館がソーシャルブックマークを始めると誰が予想しえたのか」
http://toshokan.weblogs.jp/blog/2007/10/post_4226.html
○ITmedia News 2007/07/05
10─20代女性に人気の「電子貸本」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/05/news111.html
○亡国データバンク日記 2007/12/09
「ケータイ小説の市場規模について考えてみた」
http://d.hatena.ne.jp/boukoku_db/20071209/p1
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