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サッカー選手の悲しい末路 「ロンバルディ、ALSに死す」

<記事要約>

「ロンバルディ、ALSに死す」

11月30日未明、元サッカー選手のアドリアーノ・ロンバルディが62歳で亡くなった。死因はまたもやALS(筋萎縮性側索硬化症)。同じ病気で、2002年11月、ジェノアのジャンルカ・シニョリーニが死亡している。

(11月30日付日刊紙ガッゼッタ・デッロ・スポルト紙より)


<解説>

アドリアーノ・ロンバルディは、ナポリ近郊にあるサッカーチーム、アヴェッリーノで70年代から80年代にかけて活躍した選手。キャプテンを務め、一線を退いた後はコーチとしてチームに貢献した。ピサの生まれだが、チームのあるアヴェッリーノで、闘病の末、生涯を閉じた。

一方、ジャンルカ・シニョリーニは80年代と90年代、ピサ、パルマ、ローマ、ジェノアでプレーした名選手だ。ジェノアでは、彼の背番号6番は永久欠番になっている。ALSのため、42歳で死去した。

ALSは、筋肉が萎縮する難病で、発症したアメリカ人野球選手の名前をとってルー・ゲーリッグ病とも呼ばれる。物理学者のスティーブン・ホーキングや毛沢東が著名な患者として挙げられるが、イタリアではサッカー選手がやたら多い。

2003年に放映されたイタリアのドキュメンタリー番組、「REPORT」によると、「イタリアのサッカー選手の発症率は、世界平均の20倍」だそうである。

病気の原因もサッカー選手に多い理由も、今もって判明していない。ヘディングによる脳損傷も原因のひとつ、という学者もいれば、サッカーコートの除草剤がよくない、という研究者もいる。しかし、サッカー選手に多い、というと、薬物摂取に関係があるのでは、とつい疑りたくなるのは仕方がないだろう。サッカー界における薬物の蔓延は、公然の秘密といった感があるからだ。

トリノの名門チーム、ユベントスをめぐるドーピング疑惑事件は記憶に新しい。98年、ローマの監督ゼーマンの告発に端を発し、ユベントス代表ジラウドとチームの主治医アグリコラが訴えられた。トリノの裁判所での2004年の第一審で、主治医のみ1年10ヶ月の実刑判決をくだされたが、2005年の第二審では、両名とも無罪を勝ち取っている。2007年3月、事件は最高裁で時効を言い渡され、終結した。

ユベントスの責任者が罪に問われたとしても、サッカーが巨大なビジネスになってしまった今日、薬物根絶は簡単なものではないだろう。
ヒーローだった選手たちの訃報を、わたしたちは今後も聞きつづけなければならないのだろうか。

イタリアサッカー界の暗部を告発する本を多数出版し、「ドーピング被害者の会」に名を連ねている元サッカー選手、カルロ・ペトリーニのコメントを紹介する。

「ロンバルディの死のあとも犠牲者は増えつづけるだろう。有名なサッカー選手がゲーリッグ病で命を落とすと話題になるが、名の知られない選手が多数亡くなっていても誰も気にとめない。ここ2、3年のあいだに150人もの無名選手が死亡している。」

無名選手に言及した当のペトリーニも、脳腫瘍を患っているという。なんともやりきれない話である。

 


【関連情報】

○La gazzetta dello sport (イタリア語)
http://www.gazzetta.it/Calcio/Altro_Calcio/Primo_Piano/2007/11_Novembre/30/lombardi.shtml


○イタリア国営放送局RAIのドキュメンタリー番組「REPORT」2003.9.30.放送。
   動画もあり。裁判所でのデル・ピエロの証言も収録してある。
http://www.report.rai.it/R2_popup_articolofoglia/0,7246,243%255E90170,00.html

 

○日本ALS協会
http://www.alsjapan.org/contents/whatis/index_2.html


○ALSについて(医療専門職者による解説)
http://www.qole-acct.co.jp/mnd/als.html


○ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。
 「不運の金曜日、ドーピング裁判と不正告発」
http://www.1101.com/francorossi/2004-12-06.html


○Number web  「セリエAコンフィデンシャル」ユベントスの忌まわしい過去
http://number.goo.ne.jp/soccer/world/serie_a/20041207.html


○Neurology  2005/02/18
 「セリエAのサッカー選手は筋萎縮性側索硬化症(ALS)になりやすい?」
http://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/64e41eddae51bc23a8d7d932912e8aab


○ぼくのWeblog  2005/12/12
 「イタリアのサッカー選手に筋萎縮性側索硬化症を発症する人が多いのはなぜか」
http://dancex2.cocolog-nifty.com/weblog/2005/12/post_7b94.html


○「ALSを患って、体験してきたこと」(ホーキング博士)
http://www2u.biglobe.ne.jp/~tahara/Hawking.htm


○いちヘルパーの小規模な日常 2007/03/27
 「ALSのひとの小規模なヘルパー経験から少し考えてみました」
http://d.hatena.ne.jp/sugitasyunsuke/20070327/p1

 

 


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