Entry

ソフトロック、AOR、渋谷系サウンドの源流 ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズが、40年ぶりに夢の傑作アルバム『フル・サークル』を発表

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康


『ロジャー・ニコルズ&
    ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ』

 10数年前に話題になった“渋谷系”と呼ばれるムーヴメントで再評価された音楽は数々あるが、その中でも68年に発表された『ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ』は最もその恩恵を被り、今では名盤として、洋楽ファンの間ではスタンダードとなったアルバムの筆頭に挙げられるだろう。

 御他聞に漏れず、僕自身もCD化されたこのアルバムを聞いて、このグループが好きになった一人だ。このアルバムは“ソフト・ロック”と呼ばれる音楽の代表として見られることもあるが、ある意味では60年代後半という時代に逆行するような、耳当たりの良いコーラス、ソフトなサウンドで、言ってしまえば中庸な音楽として、同時代的にはヒットもしていない。グループも唯一のアルバムを発表後、まもなく活動を停止する。日本では70年代にはマニアックなポップスの愛好者たちによって発見され、ひそかに語られるアルバムとなったようだ。

 スモール・サークル・オブ・フレンズは、米西海岸を中心に活動した、ロジャー・ニコルズとマレイ&メリンダ・マクリオード兄妹の3人のユニゾン/コーラス・ヴォーカルを中心にしたポップスを聞かせるグループで、ハーブ・アルパートやセルジオ・メンデスをヒットさせたA&Mレーベルらしいまろやかでポップな音楽性だった。

 ロジャー・ニコルズはグループ解散後、作曲家として活動。70年代にはカーペンターズの「雨の日と月曜日は(Rainy Days And Mondays)」「愛のプレリュード(We've Only Just Begun)」などの名曲を提供した作曲家として大きな成功を収めていた。

 このアルバムは80年代くらいまでは一般にはほとんど知られていなかったものだが、素晴らしい楽曲、緻密なプロダクション、女声を含む柔らかな声質を生かしたコーラスなど洗練された魅力で、ある種のオシャレな感覚も持つ音楽は90年代の渋谷系が好きな音楽ファンの嗜好にぴったり合った。

 そのロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズが、まさかのセカンド・アルバム『フル・サークル』を発表する。ロジャー・ニコルズは94年に『ビー・ジェントル・ウィズ・マイ・ハート』というアルバムを発表しているが、多くのファンの期待するものとは微妙にすれ違ったためか、さほどの話題になることなく終わってしまった。



『フル・サークル』

 しかし、今回のスモール・サークル・オブ・フレンズは、まさにファンの求めるサウンドど真ん中、という見事な仕上がりで、大きな話題になることは間違いないだろう。

 まず聞いて驚くのが、40年前のアルバムとほとんど変わらない、素晴らしいコーラス・ハーモニー、ヴォーカルの質感だ。メンバー3人のコーラスはもともとかなり変わった感触というか、かわいらしい女声と中性的な男性コーラス二人がつかず離れずユニゾンでAメロを歌ったかと思うと、サビの部分では広がりのあるハーモニーを聞かせる。誰か一人が突出した歌声を聞かせることはあまりなく、全体的には不思議な中性的コーラスという印象で、それがドリーミーなサウンドにぴったりくる。

 個人的には、その後のロジャー・ニコルズの作曲家としての成功もあって、作曲家を擁したグループという印象が強かったのだが、この新作を聞いて、紛うことなきコーラス・グループ、そのグループとしてまとまったときの歌声の素晴らしさを再認識することになった。

 カーペンターズでも有名な「レット・ミー・ビー・ザ・ワン」、スリー・ドッグ・ナイトがヒットさせた「アウト・イン・ザ・カントリー」など、見事にスモール・サークル・オブ・フレンズ調に甦った70年代ヒットのセルフ・カヴァー(ロジャー・ニコルズが作曲)も申し分ないが、ほのかにケルト風味も香る「ルック・アラウンド」など、新曲や未発表曲にも素晴らしいメロディの曲があるのも嬉しい。

 40年ぶりのセカンドとなるこのアルバムはきっと多くのファンの賞賛を勝ち取るに違いない。末永く聞けるアルバムがまた一枚生まれたことを喜びたい。

 

【関連情報】

○BYRD'S SELECT MUSIC 2005/03/13
 「“The Complete Roger Nichols & The Small Circle Of Friends” Roger Nichols &
  The Small Circle Of Friends」
 「The Drifter」が収録されているということで、ソフト・ロックの名盤の中の
  1枚であるロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズの
  『The Complete Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』をご紹介します。
http://blog.livedoor.jp/nktk46/archives/16270915.html


○RECOMMENDED LIST  *disques-blue-very* 2007/11/29
  「ROGER NICHOLS AND A SMALL CIRCLE OF FRIENDS -THE DRIFTER」
 彼らの中でも一際レアなラストシングル、でソフトロックのレアもの7インチの
  中でも屈指です。曲について野暮なキャプションも許されないエバーグリーンな
  魅力の名曲。
http://disques-blue-very.seesaa.net/article/70003450.html


○Cottonwoodhill 別別館 2007/11/30
 「(新作)ロジャー・ニコルス&スモール・サークル・オブ・フレンズの新作が登場」
 余程の人でもない限り、誰もしらなかった1枚のアルバムがソフト・ロックの
  ブーム以降、時代の経過と共に評価や知名度がうなぎのぼり。今じゃ1960年代の
  ポップスを代表する1枚としての高い評価を定着させたロジャー・ニコルズ&
  ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ。
http://cottonwoodhill.blog21.fc2.com/blog-entry-3605.html


○サイケデリック漂流記 「ロジャニコ、40年ぶりの新譜」 2007/11/04
 すでに聴いた人の話によると「涙ちょちょぎれ」らしいです。でもこれ、
  日本のファンがいなければ陽の目を見なかったんじゃないでしょうか。
  本国アメリカでは、「ロジャー・ニコルズ?、誰??」って感じらしいですね。
http://ameblo.jp/psychedelic/day-20071104.html


○ずんだ。blog  2006/12/18
 「ロジャー・ニコルズ&ポール・ウィリアムス・ソングブック」
 うーん、やっぱりロジャー・ニコルズ&ポール・ウィリアムスは最高ですなー。
 なんて美しいメロディ!このアルバムは彼らが様々なアーティストへ提供した曲を
 集めたものなので、歌い手もアレンジも色々ですが、だからこそわかる一貫した
 楽曲の素晴らしさ。
http://zunda.typepad.jp/blog/2006/12/post_b1c4.html


○音楽の園 music of my mind 2006/01/18
 Roger Nichols & The Small Circle Of Friends
 『Roger Nichols & The Small Circle Of Friends』
http://eastzono.seesaa.net/article/11848215.html


○サイキックマニアの古今東西エンタメ日記  2007/05/27
 名盤「コンプリート・ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ 」
http://blogs.yahoo.co.jp/psychicmaniajp/11837397.html


○3度のメシよりCD 「PAUL WILLIAMS / SOMEDAY MAN 紙ジャケ」2006/08/11
 ワーナーの「名盤探検隊」や、ユニバーサルの「名盤の殿堂」シリーズなどに
  多くラインナップされている、70年代のアメリカンミュージックがマイブームに
  なってるんですが、今回購入ポール・ウィリアムスのファースト・ソロも、
  「名盤探検隊」から2003年に紙ジャケでリリースされた作品。正直なところ名前すら
  知らなかったんですが、ソフトロックの名盤として評判が高いようですので購入して
  みました。
http://cddaisuki.exblog.jp/5464683/


○Rock Climber(洋楽レビュー)2007/10/14
  ニック・デカロ 「イタリアン・グラフィティ」(Nick Decaro「Italian Graffiti」)
 ちなみに彼ニックデカロが関わった主なアーティストを挙げると、ハーパース・
  ビザール、ロジャー・ニコルズ、ジョージベンソン、マイケル・フランクス、
  ドゥービー・ブラザーズ、ライ・クーダー、ランディ・ニューマン、
  ジェイムズ・テイラー、山下達郎、阿川泰子ら数知れず。
http://rtaro.de-blog.jp/rtaro/aor/index.html


○(仮)おかずコーヒー店 2007/12/02
 マスターの音楽(60) 「Birgit Lystager / Birgit Lystager」
 北欧の寒空に凛と響くビアギット・ルストゥエァの歌声は、両手いっぱいの
  幸福感をもって聴く人の心を温かく包み込みます。とっても優しく、とっても
  滑らかに。40年近い時を越えて、大陸を越えて、その歌声は僕らの元にやって来ました。
http://okazu-coffee.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/60birgit_lystag_8693.html


○MONOmonologue 「雨に日には」 2007/03/25
 マーゴ・ガーヤンをご存じない方には、クロディーヌ・ロンジェあたりを
  思い浮かべて頂きたい。いわゆる「ソフト・ロック」系ですな。
  囁き系ボーカルな訳なんです。が、音楽的にはけっこう本格派で、大学の
  ピアノ科でジャズを中心に学んでいたそう。
http://mono-mono.jugem.jp/?eid=196


○ソフト・ロック特集:ジャンル虎の穴【OnGen:国内最大級の音楽ダウンロードサイト】
 渋谷系にとっての教科書のような1枚、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・
  オブ・フレンズが国内盤として初登場したのは87年9月だった。
http://www.ongen.net/international/serial/tigerhole/softrock/index.php


○konichiwanippon -渋谷系年表
 この年表は、もはや死んだと思われていた渋谷系が再評価される昨今、ならばその
  血脈は? と思ったオクダケンゴ(radiodAze)が、渋谷系やその周辺に関する事柄を
  日本のポップシーンの源流より今日のNEO渋谷系の流れまでを年表形式で勝手に
  まとめたものです。
http://www.geocities.jp/radiodaze76/KKK00.htm


○Welcome To Madchester  2006/11/12
 「理論武装に笑顔は不可欠ね(2006年の渋谷系)」
 2007年度版・現代用語の基礎知識にて「ネオ渋谷系」なる単語が収録されるそうです。
  私も始めて知りました。でも、はてな村一のおしゃれ系音楽ブログを目指して
  どんどんと天狗になっていきたい当ブログの事、当然こういう話題には絡んでいきます。
http://d.hatena.ne.jp/republic1963/20061112


○Youtaful days  2007/04/13
 「渋谷系はいつ終わったのか? ─サニーデイ・サービスと渋谷系の関係」
http://d.hatena.ne.jp/rararapocari/20070413/SSsibuya


○too sweet to eat 「サブカルと渋谷系とLOHAS」2006/08/18
 LOHASの雑誌を作っていて思ったのが、なぜかかかわる人全てが80年代に地下で
  活躍していた人たちだったりして、一部から「80年代サブカル人脈救済雑誌」と
  言われるのがなんでだろうかと考えていた。
http://d.hatena.ne.jp/katie_tommy/20060818


○小心者の杖日記 「AKSB ─これがアキシブ系だ!─」発売決定  2007/08/04
 アキシブ系とは、アキバ系と渋谷系が山手線半周の距離を越えて生まれた音楽です。
http://www.outdex.net/diary/archives/2007/08/aksb.shtml


○松本 晴張 点と線と円
 大瀧詠一のいない「2001年 ナイアガラの旅」
http://www.net3-tv.net/~hsdhd/point,line.html.html


○in-between days 2006/09/20
 「ポスト・フリッパーズな90年代邦楽ベストディスク50」
 これ全部持ってるってひとがいたらたまげるなあ。実は選んだぼくも何枚か持って
  ない(どれがそれかは言わない)。つか確かに持ってたはずの
  “The Birth of the True”がCD棚に無い! 売ったのか?>オレ
http://d.hatena.ne.jp/mohri/20060920/1158693122


○pizzicato file 「引用とサンプリングとヒント..1」 2007/05/08
 ピチカートの楽曲において影響を与えたであろうアーティスト・楽曲ついて検証して
  みたいと思います。
http://pizzicato-file.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/1_5b65.html


○シブヤ経済新聞 2007/08/07
 小西康陽さんが選曲─「渋谷系」コンピレーションCD発売へ
http://www.shibukei.com/headline/4544/index.html


○渋谷文化プロジェクト  小西康陽さんインタビュー 
 「若い頃からインスピレーションをもらった渋谷に音楽を通して恩返しをしていきたい」
http://www.shibuyabunka.com/keyperson2.php?id=40


○Musicshelf「幼い子供と一緒に同じ部屋で聴きたい10曲」
  幼い子供と同じ部屋の中で静かに過ごす時、いわゆる子供向けの童謡や
  アニメソングも確かに良いけれど、時にはちゃんと共有できる大人の音楽も
  聴かせたい。そんな時、やわらかな雰囲気をそこなうことなく流せる音楽。
http://musicshelf.jp/playlist/652503

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/477