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旧東ドイツを知らないベルリンの壁崩壊後世代 

(記事概要)

 ベルリンの壁が崩壊した1989年11月9日から早18年。つまり壁崩壊後に生まれたドイツ人達は、今年で丁度成人となる(ドイツでは18歳で成人とされる)。ドイツ東西統一と言うよりは、西側が東側を吸収してしまったあの出来事。

 そうした意図を大きく反映するかのように、旧東側にあった共産主義者の名前にちなんで付けられたストリート名は改名され、東ドイツは忘れられる方向へと進んでいった。同時にそれを懐かしく思う流れさえでてきた今日この頃。

 つまりノスタルジーの対象とまでなってしまった東ドイツについて、詳しく知る成人したての若者は、殆どいないことが大学の調査で改めて明らかになった。

『Der Westen』http://www.derwesten.de/nachrichten/im-westen/2007/11/22/news-6277956/detail.html


(解説)

 ドイツ統一から既に18年もたった現在、旧東ドイツについて何も知らない青年達が増えていることが明らかになり、調査をした大学教授達を驚かせている。これは、ドイツに住む15歳から17歳までの5000人の青年たちを対象に、2006年から2007年に掛けて行ったアンケート調査結果だ。面白いのは、旧東側と西側の生徒達の回答が大幅に違うことだ。

 旧西側に位置する、ノルドライン・ベストファーレン州では、900人の青少年がアンケートに参加。3人に2人が、ドイツ統一以前は東より西ドイツのほうが良い生活を送っていたと答え、8割が西側の政治体制のほうを好むと答えた。このように西側の利点を述べたあと、東側における長所として彼らが上げたのは、家族の絆や、安い家賃、スポーツプログラムなどの青少年活動についてであった。また、旧東ドイツは失業が論理上存在しない体制だったという点が良いと、半数の生徒が答えている。

 また、こうしてアンケートに答えてはいるものの、1961年にベルリンの壁が建てられたことを知る生徒は全体の3割であり、東ドイツの歴史について殆ど知らないと答えた学生がなんと9割を占めた。その理由として学校教育における旧東ドイツの歴史に関する授業時間が短いことが挙げられた。つまり、アンケートで回答されている旧東ドイツに関する印象は、知識ではなく漠としたイメージにすぎないことがわかる。

 面白いのは、旧東側の子供達の反応だ。彼らにとって東ドイツは独裁国家ではなく、社会主義ユートピアであり、理想化された東ドイツの姿が描かれることが多かった。環境問題一つをあげても、44%の旧東側の生徒たちが、環境汚染を犯したのは西側であるとしている。

 こうした回答がでた理由として、調査を行ったシュレーダー教授は、生徒達が民主主義と独裁体制の違いを理解していないのではないかと結んでいる。

 


【関連情報】

○ベルリンの壁 写真館
http://www.mauer.jp/top_j.html


○CHOKOBALLCAFE  2005/02/18
 「ドイツは苦悩する」 著:川口マーン恵美  [ノンフィクション&エッセイ]
 歓喜と共に迎えられた東西ドイツ統一が、今ドイツにもたらしている暗い影、
 福祉国家の見本と言われていたドイツを包む、福祉を充実させてしまった為に
 起きた歪みなど、興味深い事がたくさん書いてあった。
http://blog.so-net.ne.jp/takuteku/2005-02-18


○hilde-nana aktuell 2006/07/18
 「現代ドイツ―統一後の知的軌跡―(三島憲一/岩波新書)」
http://blog.so-net.ne.jp/coda_on_the_web/2006-07-18


○pata: 『現代ドイツ 統一後の知的軌跡』三島憲一(著) 2006/02/28
http://pata.air-nifty.com/pata/2006/02/post_59ba.html


○映画のメモ帳+α 「善き人のためのソナタ (2006 ドイツ)」2007/02/11
 その徹底した監視体制はKGBをもしのぐといわれていた旧東ドイツの
 秘密警察・諜報機関シュタージ(国家保安省)このシュタージの恐るべき
 実態を真っ向から描き出したはじめてのドイツ映画。
http://moviepad.jugem.jp/?eid=75


○とにかく、映画好きなもので。「善き人のためのソナタ」 2007/02/11
 また、この作品は監督のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが
 徹底した取材を行いシュタージ(国家保安省)という東ドイツの暗部に踏み
 込んでいく。『それでもボクはやってない』でも周防正行監督が日本の司法制度に
 メスを入れるがごとく徹底した取材を行ったが、確かな取材力というものが傑作を
 生み出すという画期的な好例にもなっている。
http://blog.livedoor.jp/orange0802/archives/50631103.html


○映画Good Bye, Lenin!(YouTube映像 02:10)
 ベルリンの壁崩壊という大事件を舞台にした切ない家族の物語。本国ドイツで
 記録的なヒットとなり、ベルリン映画祭で最優秀ヨーロッパ映画賞を受賞。
http://jp.youtube.com/watch?v=i7EB47ENNV0


○版元ドットコム
 「ドイツ現代文学の軌跡 マルティン・ヴァルザーとその時代」遠山義孝(著)
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN4-7503-2523-6.html

 

 


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