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「ゴー・グリーン(環境に配慮する)」は利益を生む ―加速する企業の環境保護活動―

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

世界最大手の小売業Wal-Mart Stores(ウォルマート・ストアーズ)が、11月、同社の環境保護活動に関するレポートを発表した。オーガニックコットンの衣料品や省エネタイプの冷蔵庫など商品に関する取り組みから、従業員の医療保険、同社が製品を購入する海外の工場に関する方針までを含む総合的な内容だ。

3つの努力目標、「100%再生可能なエネルギーで製品を供給する」、「廃棄物をゼロにする」、「自然資源と環境を保護する製品を販売する」が掲げられている。同社がこのようなレポートを発表するのは初めてのことだ。CEOのリー・スコット氏は、「(企業として)環境への影響を減らすことは、コストを削減し、よりよい製品を作るビジネス活動である」と語る。

徹底した市場原理主義で知られるWal-Mart Storesが、「ゴー・グリーン(環境に配慮する)」は同社の経済的発展に有利に作用すると認めたのだ。

このように、企業が環境保護を利益に結び付ける事例を、このところいくつか見た。

General Electric(ジェネラル・エレクトリック)社は数年前、環境保護活動を収益事業にしようと大きな賭けをした。年間の燃料使用量を5%、1台あたり約10万ドル(約1100万円)節約できる機関車を開発したのだが、これが大当たりだった。1台250から300万ドル(約2億7530万円から3億3036万円)のこの機関車は、出荷待ちの注文が1,000から1,500件もある状態で、工場は量産体勢に入っている。

コンピュータ業界にも同じ動きがある。省エネタイプの製品が出始めており、Dell(デル)も、新型パソコンの年間電気使用量を従来品の100ドルから23ドルにまで抑えた。エネルギー効率の高さを消費者へのセールスポイントと位置づけ、同社にとって十分リターンのある製品と見込んでいる。

こうした企業の動きは、産業界の環境保護活動が新しい段階に入ったことを感じさせる。「ゴー・グリーン」は利益を生む、という認識ができつつあるのだ。背景には、年々高まる消費者の環境への関心と、原油価格高騰による燃料費増大の問題がある。売り上げとコストを直撃する2つの要因が、企業をグリーンに向わせているのだ。

Wal-Mart Storesの動きは特に、業界や社会への影響が大きい。まず、同社の規模がものを言う。売上高3450億ドル(約37兆9914億円)、従業員数190万人、店舗数7,022というスケールの同社が、「ゴー・グリーン」を提唱すれば、社内はもちろん、製品を納入する企業、来店客なども大きな影響を受ける。

いい例が、Seventh Generation(セブンスジェネレーション)の反応だ。Seventh Generationは環境に配慮した企業方針と製品で多くのファンを持つ日用品メーカーで、年間1億ドル(約110億円)を売り上げる。これまで、同社のCEOジェフリー・ハレンダー氏は、なにかと悪評のつきまとうWal-Mart Storesとの取引を、「会社の魂を売るに等しい行為」として拒否していたが、今回のWal-Mart Storesのレポートを受け、自社製品の納入について考えているとコメントした。他の自然派メーカーや環境への関心が特に高い消費者層の心理にも、影響を与えそうな動きである。

しかし、批判もある。Wal-Mart Storesはもともと、低賃金、従業員の医療保険問題、生産者搾取、極端な市場原理主義など環境にやさしくない活動により、芳しくない評判も多い。WakeUp Wal-Mart(目を覚ませ、ウォルマート)という団体は、今回のレポートを同社の「グリーンウォッシュ(環境保護活動をしていると見せかけて批判をかわす行動)」であると言っている。

確かに、掲げられた3つの目標に達成期限が記されていないなど、不十分な部分も多い。今後、同社がこれらをほんとうに実行するのか、見定める必要があるだろう。しかし、なにしろ大規模組織であるから、少しの進歩でも大きな効果があるはずだ。期待したい。

日本からアメリカに移り住んでみると、どれだけアメリカが環境にやさしくないかを実感するのだ。どこに行くにも車を使い、広いから移動距離も長く、それだけ燃料を使い、排気ガスを出す。公共の交通機関を使いたくても、整備されていない。平均67坪の住宅のエアコンは家全体をガンガン冷やしたり温めたりする形式だし、レストランでは一皿に大量に盛られた食事が出され、それを皆、平気で残して捨てる。

二酸化炭素排出量が日本12億トンに対し、アメリカ58億トンというのも、さもありなん。自分の毎日の生活がどれだけ環境を破壊しているか、ほんとうに恐ろしくなる。

それゆえ、今回のWal-Martの動きには注目している。これまで、「どうせ買うなら、安全で環境にやさしい(と思われる)他のスーパーマーケットで」と考えていたが、「今度、Wal-Mart にも寄ってみようか」と思い始めている。こういう消費者心理の変化をこそ、同社は狙っているのだろう。あえて、その狙いに乗ってみたい。

 

【関連情報】

○MediaSabor  2007/10/04
 「無給油で2600キロ走行の超低燃費プラグインハイブリッドカー」
http://mediasabor.jp/2007/10/2600.html

○MediaSabor  2007/07/23
 「オーガニックコットンの人気と市場」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_163.html


○MediaSabor  2007/03/13
 「ハイブリッド車ブームの奥にあるトレンド」
http://mediasabor.jp/2007/03/post_35.html


○激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ 2007/06/07
 【メーシーズ】、グリーンストア化は重要なマーケティング戦略
 フェデレーテッド・デパートメントストアズから社名を変更したメーシーズは4日、
  カリフォルニア州の26店でソーラー発電などエコストアを目標にして店舗を改装する
  計画を発表した。ソーラー発電システムを供給するのはシリコンバレーにある
  サン・パワー社(SunPower)。メーシーズは、11店舗にソーラー発電パネルを屋上に
  設置し、約40%の電力消費を減らすことを目標にしている。また、15店舗においては、
  高効率の照明や暖房システム、空調装置を導入し、電力はソーラー発電をおこなって
  いる供給元から得る計画だ。
http://blog.livedoor.jp/usretail/archives/50847156.html


○ネットPR.JP 「環境保全活動と企業利益─アースデイから」2007/05/17
 電気、流通、娯楽など、様々な業界の大手企業が環境保全対策の強化を急いでいる。
  地球温暖化問題への関心が高まる中、一般消費者や環境保全団体による監視は厳しさを
  増し、その評価が企業価値により敏感に反映されるようになってきたためだ。一方で、
  環境を意識した製品やサービスに対するニーズは確実に増えており、環境問題への
  取り組みは、企業の新たな収益機会にもなっている。
http://netpr.jp/uspr/001108.php


○Ky's Biz Cafe  「グリーン電力マンション」2007/08/31
http://greenbusiness.blog59.fc2.com/blog-entry-234.html


○TRAVEL HETEROPIA─広告とアートの間で 「広告の転換期?」2007/09/22
 資本主義社会(とアメリカの暴走)が、世界中にさまざまな社会問題や環境問題を
  生み出している中、ソーシャルな意識をもったクリエイターや起業家たちが、
  「ウェブ2.0」というインフラによってどんどん広がっているんだと思う。
  資本主義社会から、その先にあるボランタリーな社会へ。
http://d.hatena.ne.jp/camelkondo/20070922/1190460910


○Salon’d yukimn 「グリーンコンシューマー」 2007/11/22
http://d.hatena.ne.jp/yukimn/20071122


○むーちゃんのLOHAS的生活 「グリーンコンシューマーになろう」 2006/06/10
http://muchan.blogzine.jp/lohas/2006/06/post_1f24.html

 

▼参考記事(英文)

Where Ecological and Economical Meet
http://online.wsj.com/public/article/SB119560353055899854.html

How Going Green Draws Talent, Cuts Costs
http://online.wsj.com/public/article/SB119492843191791132.html

 

▼関連サイト(英文)

Wal-Mart Storesのサイト
http://walmartstores.com/

Seventh Generationのサイト
http://www.seventhgen.com/

WakeUp WalMartのサイト
http://wakeupwalmart.com/

 

 


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