『世界一住みやすい町・バンクーバー』の称号に異議あり!
- カナダ在住ジャーナリスト
ダウンタウンに立ち並ぶ高層コンドミニアム群と隣り合わせ
の大自然が調和するバンクーバーの街並み
(記事概要)
『世界で最も住みやすい町』に今年もバンクーバーが選ばれた。こんな名誉な称号、いつもならば手放しで喜ぶ市民だが、5年連続となった今年の反応は例年とは少し違った。
その理由は生活に直結した多くの問題が市民を悩ませているからだ。高騰し続ける不動産、いっこうに解決策の見えない交通渋滞、増え続ける犯罪、そして特に今年は4カ月も続いた市契約職員のストライキと、とても『住みやすい』とは程遠い現状だ。
バンクーバー・ファウンデーション (www.vancouverfoundation.bc.ca) のクレメント氏は、今回の発表に「一体誰にとって住みやすい町なのか?」と疑問を投げかけた。健康的な生活を送れる環境、穏やかな気候、大自然に囲まれた街並み、どの要素もすばらしい生活環境だが、だからといって『世界一住みやすい』かどうかには疑問符が付く。
(2007年8月24日)The Vancouver Sun:
BC州で最も発行部数の多い一般紙。徹底した地域密着型の内容に定評がある。
(解説)
『世界で最も住みやすい町 “The world’s most livable city”』は、毎年The Economist Intelligence Unit (http://www.eiu.com)が発表している。今年は、2位にメルボルン(オーストラリア)、3位にウィーン(オーストリア)が選ばれ、同じカナダでは5位にトロントがランクインした。
犯罪率・テロの危険性の低さ、公共交通機関やインフラの整備などがこうした都市が上位に選ばれた理由だと解説している。132都市を対象とするこの調査内容には、他にも生活水準の高さ、エンターテインメントや文化的イベント、教育、医療などが含まれている。
さて、5年連続にもかかわらず、なぜ今年はバンクーバーで市民の反応が悪かったのだろうか?
その最大の理由は住宅事情だ。バンクーバーは最近日本のバブル期を思わせるほどの不動産ブームで、土地や家の価格が高騰し続けている。今年9月現在の平均価格は568,498カナダドル(Canadian Real Estate Association調べ)。これには、メトロ・バンクーバー(バンクーバー市およびその周辺21市・1地区、約200万人の生活居住地区を指す)の、分譲の一戸建て、タウンハウス、コンドミニアムが含まれている。去年比で12%増、4から5年前の約2倍となっている。
フリーペーパー24hrs (http://www.24hrs.ca) にこの1週間、“Cost of Living”と題したシリーズのおもしろい記事が載っていた。それは生活にかかる費用をテーマごとにカナダ各都市を比較したもので、第1回が住宅事情だった。
その中で、今の状況では一般サラリーマンが分譲で住居を購入する場合、例えば年収6万ドル(約660万円/1カナダドル=約110円換算)の人でも、給料の約70パーセントを住宅ローンの返済に充てなければ購入できないという実例を挙げていた。
これがバンクーバーの一般市民の厳しい現実だ。自分の家を持つことが非常に難しくなっている。ちなみにカナダの他の都市はというと、2番目に高いのがカルガリーで415,391ドル(前年比21.4%増)、3位はトロント372,480ドル(5.6%増)。こうしてみてもバンクーバーが突出しているのがわかる。
さらに、分譲が軒並み高騰しているため、それに比例するように賃貸も高くなっていて、手頃な価格で住みやすい住居を見つけるのが非常に困難になっている。だから「住むところもないのに、何が世界一住みやすい町だ」ということになるのである。
その他にも、生活に直結するものが相次いで値上がりしている。項目のひとつにもあった公共交通機関。メトロ・バンクーバーでは、バスとスカイトレイン(モノレールのような乗物)が町を網羅している。これらは州政府直轄の機関が管轄で、現在は1ゾーン2.25ドル。1月1日には2.50ドルに値上がりする。
これはカナダのケベックシティ(ケベック州)とエドモントン(アルバータ州)と同じ金額で、最も高いトロント(オンタリオ州)、モントリオール(ケベック州)の2.75ドルに続く。それでもそれほど高くないのでは? と思うかもしれないが、5から6年前までは1.75ドルで運行していたのだ。
さらに交通機関といえばBC州では自動車が主要だが、ガソリン代はカナダで最も高い。現在1リットル1.09ドルから1.10ドルである。
電気代も値上げされることが今年秋に発表された。上がるのは一般家庭用のみ11%で、商業用、工業用が値下げされることへの埋め合わせだ。値上がりすると、1カ月1000kWhを使用する計算で月73ドル。「それでも北米の都市では3番目に安い価格だ」とBC州の電気会社BC Hydroは胸を張っている。トロントは同じ計算方法で月111.39ドル、シアトルは月81.95ドル、ニューヨークは230.36ドルと算出されている(Source:Revenue Requirements Application。金額はカナダドル換算)。
ここまで読んで「やっぱり世界の他の都市に比べれば住みやすいのでは?」と思った人がいるかもしれない。しかし、問題は住んでいる私たちがもはや住みやすいとは感じていないことだ。
4、5年前までは、環境から生活までを含めて本当に「住みやすい」と感じていた。だからこそ『世界一』の称号を心から誇りに思っていた。しかし今はこの称号に『疑問符』がつく。
疑問符を増やす原因は他にもある。カテゴリーにも含まれている医療に関しても、BC州は病院数、ベッド数が足りなくて、患者が廊下まであふれ、診療まで何時間も待たされるという状況が続いている。ひどい場合は、隣の州やシアトルにまで実費で行かなくてはならない場合もあり、これでは安心して病院を利用できないという声がある。カナダの場合、病院は全て州政府の管轄で、建設するとなると州予算から捻出しなくてはならない。BC州政府はこの点にあまり力を入れていないという現状もある。
そして住宅、医療と同じくらい大きな問題となっているのが犯罪の増加である。今年に入って、バンクーバーでは凶悪犯罪が急増している。今、本当にこの町の『安全神話』が崩れようとしている。それは、ニューヨークや東京がたどってきた『世界一』の称号からの脱落も意味する。これに関しては次回に詳しく説明したいと思う。
【関連情報】
○カナダローカルニュース 2007-09-26
「バンクーバーにも生活環境改善の余地が、と新調査」
http://news.go-qic.com/archives/51097453.html
○男の隠れ家ONLINE 2007-08-20
「バンクーバーはバブルか? 不動産編」
http://otokonokakurega.net/blog/travel/86/entry720.html
○カナダ発!30才の世界一周ひとり旅 「バンクーバーに住んで4年」 2007/04/13
http://blog.tabi30.com/archives/9
○「アライ☆ケンのうんちく講座」グルメデノード ブログ
「カナダ」 2007/04/08
この2─3年で間違いなく不動産は倍以上になりました。
当方が駐在員として住んでいた家は、1997年当時と比べて3倍になりました。
「こんなになるのだったら、バンクーバーに家を買っておけばよかった」と
同じ時期に同地に駐在し日本に帰国した同胞はみな異口同音に言います。
http://blog.kitabishoku.com/?eid=159871
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