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音楽世界遺産の旅:映画『ジプシー・キャラバン』 巡業公演を通してロマの音楽と舞踊を一挙に紹介


 

 最近、「ジプシー」という言葉を目にしない。ジプシーという語に蔑視、差別的な意味合いがあるということで、大手メディアではほとんど使用されなくなったからだ。これに代わる語として「ロマ(ロマ民族)」などが使われるが、この言葉はまだまだ周知されているとは言い難い。

 英語のジプシーgypsy、スペイン語のヒターノgitano、フランス語のジタンgitanなどは、エジプトから渡ってきた人を意味する。またハンガリー語のツィガーニcigány、ドイツ語のツィゴイナーzigeunerなどは、異教徒を意味する言葉だ。やはり最近では世界的にロマ、ロマニなどと表記する傾向が強くなっている。

 ロマはインド北西部を起源に11世紀頃から、世界各地に散らばったとされる流浪の民だ。もともと彼らは移動生活をしていたが、最近では定住している人も多い。国や地域によっては、ロマという表現をしない人々もいる。スペインのロマは「ヒターノ」を自称する人が多く、特にフラメンコ関係者は誇りを持ってヒターノと名乗る。

 さて本題に入ろう。『ジプシー・キャラバン』は、各国から集まったロマ(ジプシー)の音楽家や舞踊家たちが、米国各地を6週間かけて巡業公演する行程を追ったドキュメンタリー映画だ。出演者たちはインド、マケドニア、ルーマニア、スペインの4か国から集まっており、現地での音楽活動や私生活も紹介しつつ、インタビュー映像などを織り交ぜて展開していく。



 ロマ語を使っている人たちもいれば、現地語と混交した言葉を、また現地語しか話さない人たちもいる。同じロマでも生活習慣や人々の気質は、国や地域によって異なる。4か国から集まったアーティストたちは、共通言語がないため、初めは意思疎通がうまくいかない。

 公演ではそれぞれのグループが自分たちの音楽や踊りを上演し、フィナーレでは全員が参加する。このフィナーレの曲や演出を巡って、個々の意見が対立し、なかなか方向性が定まらない。映画を観ている側も、先行きに不安を感じてしまう。

 初めはグループ内で固まっていた彼らも、巡業が進んでいくにつれ、次第にお互い親交を深めていく。移動のバスで隣り合わせに座って話をしたり、ホテルで部屋を訪ねていったり。楽器を持ち寄って、部屋でセッションもやってしまう。

 言葉が通じなくても、音楽を通して理解し合えるのだろう。そして何より、彼らは共通した祖先を持つロマであることを認識し合っているようで、観ている側にも伝わってくる。


the photographer is Arne Reinhardt
the band in the photo is Fanfare Ciocarlia

 全般的にロマの人たちは、生活習慣の違いなどから他民族との軋轢が絶えず、長年に渡って差別や迫害を受けてきた。前世紀の歴史で最大の犠牲は、ナチスによるホロコーストの対象となって数十万人が虐殺されたことだ。またコソボ紛争では、多くのロマの人たちが難民化した。社会主義体制が崩壊した東欧で、不満のはけ口としてロマへの暴力が相次いだ。

 なぜ彼らは、差別や迫害の対象になってしまうのか。現状として欧州の都市部でロマによる窃盗が多く、現地の社会に順応しないなど、彼らの側にも問題があるのは確かだ。しかし彼らは、文化面で各地に様々な影響を与えてきた。映画でも紹介されるように、優れた音楽や踊りを生み出している。

 この映画では、俳優のジョニー・デップもインタビュー出演。「ロマの人々とその音楽に触れることで、彼らの本当の姿がわかる」と語っている。今やハリウッドの人気俳優だが、彼は先住民の血を引き、貧しい少年時代を過ごしており、どこか言葉に重みが感じられる。



 ロマ(ジプシー)とはどんな人たちなのか、彼らの音楽や舞踊がどれほど多様で、素晴らしいものか。ぜひこの映画を観てもらいたい。

2007年12月より全国順次ロードショー
渋谷アップリンク:公開日2008年 1/12(土)よりロードショー


【関連情報】

○映画『ジプシー・キャラバン』公式サイト
http://www.uplink.co.jp/gypsycaravan


○映画『ジプシー・キャラバン』公式予告編(YouTube映像 01:13)
http://www.youtube.com/watch?v=FPyjSK9FdDI


○東京フラメンカー 2007/11/17
 フラメンコ気になるニュース 映画「ジプシー・キャラバン」が12月に公開
http://www.tokyoflamenquer.com/archives/2007/11/_12.html


○シネマトゥデイ 「ジプシー・キャラバン」
http://cinematoday.jp/movie/T0005624


○News2u.net  2007/11/12
 株式会社ウフル 映画「ジプシー・キャラバン」コミュニティを開設いたしました
http://www.news2u.net/NRR200723915.html


○映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』公式サイト
  キューバの老練音楽家を追ったこのドキュメンタリー映画と比べてみるのもおもしろい
http://www.vap.co.jp/buena


○映画監督 トニー・ガトリフ 公式サイト
  『ラッチョ・ドローム』(1993年)などロマに関する映画を数多く制作
http://www.myspace.com/gatlif


○やっぱ馬と音楽と愛でしょう  2007/05/17
 音の民 ジプシーの映画 「ラッチョ・ドローム」(LATCHO DROM)
 ナレーションを一切はさむことなく進んでいく空気感は映画BARAKAを思い出させる。
 「生きること」と「音楽」がこんなに直結している時代があったんやなぁ。
http://www.murni.net/umaotopress/music/musicmovie/umaoto13/


○関橋英作の人生はクリエイティブだ
 一途な女を癒す場所 「トランシルバニア」 2007/08/29
 ジプシーの音楽と激しい気候。人間が自然に取り込まれながら生きていく。
  定住しないからこそ、場所は場所としての意味を失う。だから、癒される。
  不思議だ。そんな感情の彷徨いを、ガトリフはデフューズされた映像で
  淡々と描いていく。
http://s-eisaku.jp/2007/08/post_119.html


○ETHNOMANIA 「ロマ(ジプシー)音楽」  2005/09/13
http://ethno-mania.at.webry.info/200509/article_3.html


○CooL-Water 「Roma-gypsy@ボヘミアン」 2007/11/07
  ロマの音楽を聴いてみた。なんとスプートニクス、やビートルズ、更に
  チャプリンはロマを誇りにしていた。それ以上にクイーンの(Bohemian Rhapsody)
  は今でも熱くなる。(日本でもボヘミアンがあったが)
http://coolwater.air-nifty.com/coolwater/2007/11/romagypsy_1a48.html


○イタリア言の葉 「ロマを知っていますか?」 2007/03/27
 日本でもロマ出身のグループ「ジプシー・キングス」の音楽はCMや
  ドラマのテーマソングに使われたので、ご存知の方も多いはずです。
  私もジプシー音楽は大好きです。ブタペストのレストランで初めて生の
  ジプシー音楽を聴いて、体が震えるほど感動しました。
http://ita-kotonoha.jugem.jp/?eid=95


○縁側でちょっと一杯 「ジプシーあるいはロマの話」2007/01/06
http://blog.goo.ne.jp/engawadetyotto/e/0e39717300bbfebba7d1c52d17eb8912


○彩流社書評 「ジプシー差別の歴史と構造」2005/02/06
 ロマニ出身のロマニ解放運動家の手による本書は、彼らの実像を正確に伝えており、
  人間社会に深く沈殿する「適者生存主義」の愚劣さを容赦なくあぶり出している」
http://www.sairyusha.com/archive/2005/02/post_293.html

 

 


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