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ブランディングは「プロデューシング・マジック」の時代

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

 世界遺産「万里の長城」で、2007年10月19日、FENDI(フェンディ)が史上初となるファッションショー「2008春夏コレクション」を開催した。招待客1000名、約80メートルのランウェイには、カール・ラガーフェルドによる08春夏コレクションの衣装をまとったモデルたちが次々と登場し、世界各国から集まったゲストたちを魅了。08年に北京五輪を控えた中国政府の全面協力により、国有地である万里の長城をランウェイにした今回のショーが実現した(VOGUE  1月号より)

 昨今、世界的なクチュールブランドがこぞって競い合っているのは、「世界観の創出」だろう。FENDI(フェンディ)が万里の長城でコレクションを発表したのは、そこに紀元前7世紀の春秋時代から明代までの約2000年以上もの歴史が横たわっているからだ。

 人間の寿命を軽々と超える年月を背負う建造物で、その歴史を纏ってコレクションを発表、プロデュースしたのだ。高度情報化社会は、情報を編集、キャスティング、発信するプロデューシングが、市場に新たな魔法効果を創出する。これを「プロデューシング・マジック」と呼んでみた。ブランディング、世界観構築の中核エネルギーとしてこの「プロデューシング・マジック」力が急浮上してきている。

 ルイ・ヴィトンがファッションの枠を越えて、建築、アートを取込み、その世界観をますます広げている。気鋭の建築家を起用しての店舗設計から、アーティストによるウィンドウディスプレイ、村上隆とのコラボレーションが新たな話題を呼んでいる。

 97年、マーク・ジェイコブスがルイ・ヴィトンのアーティスティックディレクターに就任し、それを受けて建築家 青木淳のファサードデザインで名古屋栄店が完成。その後99年に“ファッション建築”の時代が到来し、以降、乾久美子、永山祐子、フィリップ・バルテレミィ&シルヴィア・グリニョらを起用し日本各地の店舗を皮切りにニューヨーク、香港、パリ、ソウル、台北などにカッティング・エッジな建築を展開する。

 そして次のブランディング・ステージとして、ルイ・ヴィトンが選んだのは「アート」。ロス現代美術館(MOCA)では村上の回顧展が開催され、ルイ・ヴィトンが期間限定店舗出店している。非営利団体のMOCAで、アーティストのコラボレート製品とはいえバッグや皮小物を販売する実店舗ができることは、ヴィトンサイドからすると「ファッションとアートの融合」を示している(Casa BRUTUS 1月号より)

 これも「プロデューシング・マジック」力がブランドの世界観を広げているいい事例である。自らのブランディング表現のために、世界視点で建築家のキャスティングを行い、ストアデザインを行っている。また「ファッションとアートの融合」というコンセプトを伝えるための舞台に、ロス現代美術館を選定していることがそれにあたる。

 「プロデューシング・マジック」発想のコンセプトおせちも登場している。ジュエリーボックスコンセプトおせちで、赤坂のモダンフレンチ料理店「アロニアドタカザワ」の高澤義明シェフ限定おせち料理が登場。「ジュエリーボックス・フォー・ニュー・イヤー2008」(5万2500円)は三越限定で発売される。宝石箱のように12種類の世界中の料理が、ワインの木箱をイメージした箱に詰められている。お店で人気のカマンベールチーズに見立てたチーズケーキも楽しめる(流行通信 1月号より)

 おせち料理もプロデュースの時代である。昔は食材が限られ、保存方法もなかったため、限られた調理方法で作られていたおせち料理だが、この高澤シェフのおせちは「色々な国の料理文化が混在し、様々な料理を食べたい日本人の舌を楽しませる現代風おせち」がコンセプトだ。だから世界各国の料理12種類が詰まったおせちになっている。

 情報の時代は、人、物、金をアイデアに転換して「いかに活用するか」がポイントだ。バラバラに存在する個性や能力を、一枚の絵の中に組み込み、統合的、立体的な仕掛け、仕組みとして世に送り出す。全体をトータルとして見事にデザインする「プロデューシング・マジック」の時代の到来である。

 

【関連情報】

○MediaSabor  2007/04/09
  『村上隆』 『奈良美智』ら、日本発アートが海外でブレイクした背景
http://mediasabor.jp/2007/04/post_64.html


○空間ブランド学 「ルイヴィトン六本木店の空間ブランド」
http://kuukanbrand.livedoor.biz/archives/50722786.html


○神戸ファッション美術館 2007/11/30
 「LOUIS VUITTO meets JAPAN」
 この春能登・輪島を襲った地震の影響で、輪島塗の職人たちが廃業を余儀なくされる
 事態に陥ったことを伝え聞いたルイ・ヴィトンが、復興支援を呼びかけ、実現した
 この夢のプロジェクト。ルイ・ヴィトンの伝統的技術と革新的な感性が融合した
 クラフトマンシップと、日本を代表する伝統工芸である輪島塗の技術と物づくりの
 精神とは、高いレベルで呼応しあう部分が感じられます。そんな共通項からこの企画
 は始まり、今回無事にその結晶である輪島塗の“BOITE LAQUEE WAJIMA”が完成した
 のです。
http://www.apalog.com/fashionmuseum/archive/116


○INTERNATIONAL FASHION & CULTURE
 「輪島塗のルイ・ヴィトン?!」 2007/11/24
http://internationalfashion.blog49.fc2.com/blog-entry-626.html


○銀座経済新聞 2007/11/08
 松屋銀座がルイ・ヴィトンの「トランク」に─村上隆さんが配色
http://ginza.keizai.biz/headline/530/


○シブヤ経済新聞 2007/07/23
 ルック、原宿に「マーク ジェイコブス」セカンドラインの旗艦店
http://www.shibukei.com/headline/4496/


○トーキョー・カタルシス  2007/08/27
 「カニエ・ウェストの新しい試みとアートへの接近」
http://mixthevibe.exblog.jp/6061182/


○藤津亮太の「只今徐行運転中」 2007/07/07
 「村上隆回顧展 (C)MURAKAMI」記者会見(日記風)
http://blog.livedoor.jp/personap21/archives/64688770.html


○HAGEの日記 「芸術起業論(村上隆)」 2007/12/14
http://d.hatena.ne.jp/HAGE/20071214/1197698242


○徒然と(美術と本と映画好き)「芸術起業論(村上隆)」2006/07/09
http://blog.goo.ne.jp/lysander/e/7c7989953ae3f1ec7425b06b5111fd5e


○Nyao’s Funtime!! 2007/12/11 
 「オタクな人も知って損なし!日本の現代美術家10+10人(パート1)」
http://d.hatena.ne.jp/nyaofunhouse/20071211/1197361894

 

○Sexy Models on the Great Wall(万里の長城)Runway(YouTube映像 02:07)
http://jp.youtube.com/watch?v=-0JqvlV6ZOo


○Fashion TV -LOUIS VUITTON OPENING -PARIS FW
  (YouTube映像 06:43)
http://www.youtube.com/watch?v=Nrl_VUFKkv8


○Jessica Simpson Louis Vuitton Collection(YouTube映像 02:45)
http://www.youtube.com/watch?v=01D0y8Y7vx8&feature=related


○Louis Vuitton “Superflat Monogram” Japanese Cartoon
  (YouTube映像 05:10)
http://www.youtube.com/watch?v=4C84FLwm3DA


○Takashi Murakami(YouTube映像 05:40)
http://jp.youtube.com/watch?v=l3i2hyHK0_g

 

 


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