オバマとヒラリー、黒人層の見方は?(2008年 米大統領選挙)
- 米国在住ジャーナリスト
2008年の大統領選挙はかつてないほどの混戦になっている。当初、共和党の希望の星と持ち上げられたジュリアーニは大きく後退、水をあけられていたはずのマケインが上昇してきたと思いきや、ネバダではロムニーが勝利。
民主党の方はというと、トップのヒラリー・クリントンにかなりの差をつけられていた筈のバラク・オバマが頭角を現し、ほぼ互角の戦いに持ち込んでいる。アイオワではヒラリーに10ポイント近い差をつけて勝利、続くニューハンプシャーでは、敗れはしたもののその差は僅か。民主党に限って言えば、ヒラリーVSオバマの戦いに絞られたといってよいだろう。
黒人と女性。政治的マイノリティーであるという点で、どちらも弱者の味方である民主党を代表するに相応しい候補だが、ここで起こったのが両者によるマイノリティー層の取り込み合戦だ。ヒラリーもオバマも、リベラルな中産階級から貧困層、そして女性と黒人からの支持を後ろ盾にしている。特に、黒人票がどう流れるかは、勝敗の鍵とされている。
日本では黒人候補という側面ばかりがクローズアップされているオバマ、黒人層は当然オバマ支持だと思われがちだが、そこには少々複雑な事情がある。まず、オバマの出自に関する保守的黒人層からの反発だ。
オバマの父親はケニヤからの留学生であり、人種的には黒人であるものの、いわゆるアフロ・アメリカン(米国の黒人)ではない。しかもハーバード大学で博士号を取った程のエリート中のエリートだ。その後白人女性と結婚、オバマが誕生する。
オバマ自身もまた、押しも押されぬエリートコースを歩んできた。コロンビア大学からハーバードロースクールに進み、ハーバード大学が発行する法律誌、「Harvard Law Review」の編集長まで務めている。言ってみれば白人社会の王道を来たわけだが、こうした点がいまひとつ貧困層の黒人の共感を獲得できない原因になっている。黒人の人権問題のご意見番であるシャープトン師は、「オバマは奴隷の末裔である我々とは別種の人間だ」と言い切り、積極的な支持を表明していない。
また、黒人大統領の実現性に対する疑問もオバマ不支持の原因になっていた。黒人が大統領になれるわけがない、それよりも現実性のあるヒラリーの方が良い、こういうプラクティカルな考え方は黒人全般に浸透していた。
こうした流れが一変したのは、アイオワでのオバマの勝利、そしてニューハンプシャーでの接戦からだ。「オバマはいけるんじゃないか」という空気は黒人層の票の流れを大きく変えた。去年の10月にはヒラリーに24%リードされていたオバマだが、その差はじりじりと詰まっていた。
あわてたヒラリー陣営は、ここでSmear campaign(中傷合戦)に出てしまう。少年時代にオバマがドラッグを試した事を蒸し返したり、イラク戦争に反対した事実は大げさだと決め付けてみたりと、なりふり構わぬ直接攻撃に出た結果、更に多くの黒人層の支持を失うという皮肉な結果となった。先週のCNNの世論調査では、黒人からの支持率がヒラリー31%に対し、オバマが59%を獲得している。あっという間の大逆転である。
結局ヒラリーは、オバマに対して謝罪声明を発表するというなんとも格好のつかない結末に。
オバマの猛追に防戦一方のヒラリーだが、全体的には僅差でリード、このまま行けば指名獲得まで逃げ切れる可能性も高い。一つのメルクマールとなるのは26日のサウスカロライナ予備選だ。同州の黒人層の間では五分五分の人気とされるヒラリーとオバマ。どちらに軍配があがるか、その結果がそのままスーパーチューズデーに反映されるような気がしてならないのだが。
【関連情報】
○MediaSabor 2007/10/07
「NO STYLE広告論 米大統領選挙にも影響しそうなオバマ・ガール現象を読む」
http://mediasabor.jp/2007/10/no_style_2.html
○ITmedia News 2008/01/10
「ネットの支持率は当てにならない? SNSで人気のオバマ氏、敗北」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0801/10/news082.html
○メディア・パブ 2008/01/10
「Facebookの大統領選報道,SNSユーザーはヒラリーの涙に減点を」
http://zen.seesaa.net/article/77289784.html
○ On Off and Beyond 2008/01/05
「アメリカの政治熱を生み出す大統領選」
シリコンバレーのトップ弁護士事務所、Wilson SonsiniのCEOが、アイオワで
普通の人の家を一軒ずつ訪ねてオバマ支援依頼をしてまわった、という話が
今朝の朝刊に載っていた。Wilson Sonsiniは、数百人の弁護士を抱え、
主要ハイテク企業をクライアントに抱える大事務所。そのCEOが、わざわざ
よその州まで行って、知らない人の家をノックして一人ずつ説得して回った訳です。
http://www.chikawatanabe.com/blog/2008/01/post-5.html
○池田信夫blog 「オバマの謎」 2008/01/07
意外に大きいのは、今度ヒラリーが選ばれると、ブッシュ家とクリントン家が
交代で最大28年間も大統領をやる、という「ブッシュ=クリントン王朝」
批判ではないか。これは変化のイメージとはほど遠い。もしかすると、オバマは
消去法で選ばれたのかもしれない。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/072c3ce9fc563f2f4f7406a4423135ab
○中岡望の目からウロコのアメリカ 2008/01/24
「ヒラリー・クリントン候補はどのような政策を訴えているのか」
http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=236
○MONKEY'S STYLE (猿的悦楽)
「ヒラリーVSオバマ」米大統領選挙 2008/01/05
今一番欲しいのが、アメリカで話題沸騰、売り切れ続出のこのグッズ。
名付けて、「ヒラリーのクルミ割り人形」
http://blog.so-net.ne.jp/mojopower/2008-01-05-1
○ニュースの泉 「ヒラリー氏、オバマ氏を再逆転勝利!?」 2008/01/09
http://news.cg-jp.net/2008/01/post_52.html
○カフェグローブ ニューヨークの風
「ヒラリーが独走中のアメリカ大統領選の経過報告」 2007/12/14
http://www.cafeblo.com/newyorkcolumn/archive/58
○DesignWalker「ウェブデザインで見るアメリカ大統領選挙2008」2008/01/10
http://www.designwalker.com/2008/01/election.html
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