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物議をかもす28万円の激安自動車「TATA NANO」(インド)

つい先日、1月の10日からデリーでモーターショウが開催されている。このモーターショウは毎年恒例なのだが、今年の注目度は例年とは比べ物にならない。インド最大の財閥TATAの自動車メーカーTATA MOTORSが、激小で激安の車「TATA NANO」を出したからである。

日本や世界各国でも既に話題が持ちきりのようだが、インド本国でも連日、「TATA NANO」関連のニュースが新聞を賑わしている。今回は自分もモーターショウへ行ってみたのだが、単なる展示会の入場料としては、インド人庶民にとってはそうとうな額であろう100ルピー(280円)にもかかわらず、常軌を逸した混雑ぶりだった。しかもその挙句、私を含め、多くの観衆が「TATA NANO」を結局目にすることができなかった。それは、建物に入りきれる人数より遥かにたくさんの人が押しかけたために、「TATA NANO」が展示されている建物の扉が無理矢理、閉じられてしまったからである。この顛末もやはり新聞に載っていた。

「TATA NANO」は、そのサイズ(長さ3.1m、幅1.5m、高さ1.6m)のミニマムぶりでも話題だが、なんといっても国際的に物議を醸しているのはその値段である。なんと、1ラークルピー(28万円強)。これは各自動車メーカーの脅威になりかねないとして、各国の自動車メーカーは、やきもきせざるを得ないようだ。

インドの乗用車市場で50%を超すシェアを有するマルチ・スズキ(インドにおけるスズキの子会社)社長も、「30万円弱の価格で満足のいく車を作るのは無理」と述べたということである。現在、マルチ・スズキが販売する中で最も安いのは「マルチ800」だそうだが、最安であるその価格は「TATA NANO」の倍とのこと。

TATA MOTORSは今後、「TATA NANO」同様の車をタイで生産し、現地において8万2500バーツ程度で売り出す可能性も出てきているそうだ。また、同モデルをアフリカ、中南米にも売り込む方針をかためているということである。

だが、一方で各国からは製品そのものに対する懸念ももちろんあがっている。仕様を見ると、最高時速105キロとある。いまのところTATA会長は「ナノはあらゆる安全基準と海外の環境基準を満たしている」とは言っているが、果たして充分な安全性があるのだろうか? 何しろ、低価格実現のために、あらゆるものが省かれていると察するのは容易だ。ワイパーが一本、エアコンなし、などはまだいいとして、ABS装備もないというのは、やはり不安ではある。

また、環境に対する問題も同時に浮上しつつある。ひどい渋滞と空気汚染に対する懸念だ。というのも、ここ数年のあまりにも急速な発展の結果、自家用車が猛スピードで増え続けたインド都市部では、すでに深刻な渋滞問題と、それによる環境汚染の問題を抱えている。首都デリーでは、排気ガスによる大気汚染が限度を超えたことににより、2001年に商用車のCNG使用を定めた規制が導入された。その後、やや改善が見られていた大気汚染なのだが、ここ数年はまた急速に悪化の道をたどっているということだ。実際、朝夕にほとんど動かなくなってしまう車の流れと、1時間ほど外にいただけで鼻の中が真っ黒になるひどい空気の汚染度は、もう限界に来ているように感じられる。

そこへ、「TATA NANO」の出現及び、それに続くであろう超低価格自動車競走により、今までバイクしか買えなかった層の人々が自家用車購入への夢を果たしていけば、これら環境問題はさらに深刻化することは明白である。

日産ルノーがすでに2010年に、3000ドルの車をBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)で売る計画を立てており、競争もすでに始まっている。

だが、いずれにしても「TATA NANO」の出現は、都市部で軽自動車の需要が高い先進国においてはもちろんのこと、今まで自家用車普及にまで至らなかった途上国においても、非常に大きな潜在力を秘めていることに違いはない。

 

【関連情報】

○イザ! 2008/01/20
 インド経済さらに成長 4年後10%、中国と「世界の両輪」
  英バークレイズ銀行は2007年度(07年4月─08年3月)のインドの
 経済成長率見通しを9・4%とするリポートをまとめたが、シン首相は12年度
 までに、成長率を10%まで引き上げると自信を示している。インドの
 エコノミストからは、高位安定成長を続けることで近い将来、日中独を追い
 抜いて、米国に次ぐ世界第2位の経済大国になるとの分析も聞こえ始めた。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/economy/worldecon/116901/


○知財業界で仕事スル  2007/12/20
 「インド(小)旅行記 その2--朝もやではなかった--」
  デリーの空港についたのは早朝だった。朝もやがあたりを包んでいた。
 …と思ったのは間違いだった。排気ガスで汚染された大気が、
 あたり一面を覆っているのだった。
http://blogs.yahoo.co.jp/yoshikunpat/52926430.html


○Greener World インド・タタグループの30万円カー「NANO」  2008/01/10 
  これはインドや中国におけるモータリゼーションの爆発の始まりに過ぎない。
 すでに自動車の便利さにどっぷりつかっている私たちが言うのはおこがましいが、
 両国合わせて23億人の人々が、先進国並みに自動車で走り回るようになったと
 したら、環境にも資源にも大きなインパクトがあるだろう。いやそれより自動車
 という乗り物自体が成り立たなくなるのではないだろうか。
http://greenerw.exblog.jp/7242286/


○世界の動き「大気汚染がすすむ」 2007/10/16 
  光化学スモッグの原因になる大気汚染物質のひとつ、窒素酸化物(NOx)の
 排出量が、アジア地域でこの四半世紀ほどで約3倍に増えた、という推計結果
 を国立環境研究所が発表した。
http://sekai.sati.jp/?eid=465615


○GIGAZINE  2008/01/11
 ついに噂の約27万円の超低価格車「Tata Nano」が発表されました
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070111_tata_nano/


○『心はいつもピーカンなり』 2008/01/11
 世界を驚かせたインドTATA「nano」と三菱「i」の相似性を検証してみた
http://cocolo-pikan.jugem.jp/?eid=217


○関心空間 Tata Nano 「30万円カー」 (クルマ) 2008/01/26
http://www.kanshin.com/keyword/1250754

 

○New Tata Nano Pictures - World's Cheapest Car(YouTube映像 01:48)
http://jp.youtube.com/watch?v=7UCwUqterV4&feature=related

○Tata Motors video(YouTube映像 03:56)
http://jp.youtube.com/watch?v=qVhuxvH1a-M
 

 

 


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