Amazonの電子書籍リーダーKindleは、交通機関が発達している日本でこそ真価が発揮される
- MediaSabor 編集部
昨年12月に、米国在住ジャーナリストの片瀬様からアマゾンの電子書籍リーダー Kindle(キンドル)発売開始についての原稿をいただいた。http://mediasabor.jp/2007/12/2020amazonkindle.html
日本では、まだ販売されてないので、それほど騒がれてないが、もし、日本に導入されたならば、本国アメリカよりも衝撃度は高くなることが想定される。
いくつかのブログやオンラインメディアを確認した限りでは、「日本で普及することはないだろう」という意見が結構多かった。iPodやiPhoneのようなファッション性に欠けること、過去の電子書籍リーダーが成功してないことなどからくる判断なのだろう。
しかし、Kindleは過去の電子ブックリーダーとは異なるコンセプト、機能を有しており、単なるデバイスという枠には収まらない。出版、新聞の業界構造を革新していくポテンシャルを秘めているので、日本市場に投入された場合の影響力について考察してみたい。
従来の電子書籍リーダーは、コンテンツをコンピューターにダウンロードしてから、ケーブルで繋いでリーダーに転送する作業を行わなければならなかった。それに対してKindleは、携帯電話と同じ高速の無線ネットワークを使ってウェブにアクセスできるため、どこにいても直接電子書籍を購入・ダウンロードすることができる。しかも通常なら月に何千円もする高速無線ネットワークの通信料金はアマゾンが負担する。
今まで「ユビキタス社会」と盛んにいわれながら、ケータイ中心のプアな環境だったものが、Kindleによって、より高次元の情報活用ライフスタイルが可能になる。ノートパソコンでは重くてかさ張るので、ケータイのみだった人も、本1冊程度の重さ(Kindleの総重量は10.3オンス:約292g)と大きさのKindleならば、持ち運ぶにしても、それほど苦にはならない。
あるカテゴリーの商品、サービスが普及したりヒットしたりする要因として、社会環境が大きく影響する場合がある。
たとえば、オーディオブックという小説やビジネス書、著名人の講演の朗読などを録音した商品がある。「聴く書籍」といわれたりもする。アメリカでは年間8億ドルの市場があるなど、欧米での人気は高いが、日本での市場は小さい。米国での市場規模が大きい理由の一つとして、クルマ社会であることが挙げられる。車での通勤時間中に聴かれているのだ。
一方、日本(特に首都圏や地方都市部)は、交通機関が発達しているため、通勤は電車やバスの利用率が高い。日本で携帯コンテンツビジネスが盛んになった理由は、もちろんキャリアとコンテンツプロバイダーの連携、多彩なコンテンツ供給が挙げられるが、もう一つの側面として、通勤などの移動時間中にケータイが使用されたことも大きな要因だ。
このような日本の社会事情を考えると、Kindleがケータイより一歩進んだ情報端末として、受け入れられていく素地は大いにあると判断する。特に電車での通勤時間が長い人、仕事中に電車での移動が多い営業マンなど、首都圏のビジネスパーソンを中心に広がっていくのではないか。新聞記事の電子化も合わせて行われると、移動時間を利用して紙面と同等の情報収集が可能になる。
日本のサラリーマンは労働時間が長く、自己啓発や能力アップのための自分の時間をつくることが難しい。今後ますます能力主義、成果主義がすすむビジネス社会においては、通勤時間などの移動時間をどう使うかによって、仕事の成果、企画力などに大きな差がつくケースも出てくる。ビジネス雑誌などで、「私のKindle活用法 移動時間を有効に使え」とかいった特集が組まれたりすると、乗り遅れてはいけないと、途端に欲しくなる人も出てくる。いわば、「移動書斎」としてKindleが利用される場面が想像できる。
本を読んでいて専門用語や固有名詞が出てきたりすると、言葉の意味、情報をより詳しく調べたいと思うことがある。Kindleは辞書機能が標準でついているので、読みながら言葉を調べ、理解を深めることができる。技術書や専門書を読むことが多い人にとっては便利だ。
通勤時、電子書籍や電子新聞を読むのが困難だったり、おっくうだったりする場合は、オーディオブックを聴くことに活用することもできる。Kindleは、コンテンツの購入と再生が一つの端末で完結できるので、情報のダウンロード販売が今まで以上に促進される。オーディオブックについても例外ではない。
ところで、現在の出版業界のビジネス構造は、非常に複雑で、かつ年々厳しさを増している。
出版物が売れない⇒出版点数を増やして数で収益を増やそうとする⇒書籍が店頭に並ぶ期間の短縮化、返本率の増加
まさに悪循環であり、根本的打開策が見出せない状況だ。
昭和図書の推計では、書店で売れ残って出版社に返品される書籍は年間5億冊を超え、そのうち約2割の1億冊が断裁処分になり損失は820億円に及ぶとされる。
出版業界には「ベストセラー倒産」という言葉がある。これは、主に書籍において、初版で大ヒットして大増刷を行なったものの、あるとき急に売れなくなり、大量に返本されることによって出版社が倒産してしまう現象のことである。書籍は音楽CDと同様、委託商品であるため、売れ残りは、出版社に返本されることになっている。出版業がバクチ的商売といわれる所以である。
出版社は、返本のリスクを小さくしようとするため、売れているからといって闇雲に重版するわけではない。このため、書店が出版社に発注をかけても、なかなか入荷しないということがある。
Kindleのように簡便に電子書籍が購入できる端末が普及すれば、出版社としては、紙の本とデジタルコンテンツの販売という両面作戦を採ることが可能になり、重版のリスクを軽減できる。読者にとっては、品薄で入手できないということがなくなる。
アップル社などがKindleと同様のデバイスを開発すれば、Kindleは駆逐されてしまうのかもしれない。けれども、どの企業のプロダクトが主流になるとしても、本格的なユビキタス社会のアイテムとして着実に社会に普及し、市場に大きな影響力を及ぼすことになることは間違いないであろう。それは、ユーザーニーズであると同時に、出版業界および新聞業界が大きな曲がり角を迎えているからにほかならない。
【関連情報】
○のべるのぶろぐ 2.0「売れているのに重版されない、の何故?」2008/01/02
http://novelno.net/archives/2008/01/02-201032.php
○万来堂日記2nd 2007/10/08
「書籍の割引販売自体はいいと思うのだけれど・・・」
http://d.hatena.ne.jp/banraidou/20071008/1191821935
○CNET 2007/08/10
「あなたは電子書籍を読みますか?--活況を呈す電子書籍市場」
http://japan.cnet.com/column/naruhodo/story/0,2000055917,20354592,00.htm
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