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ブロガーを取り込み始めた世界最大の家電見本市CES 2008

  • 米国在住ジャーナリスト

米ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、今年から導入された注目すべき動きがあった。ブロガーに門戸を開放し、報道陣と同様の待遇を始めたことだ。広報手段としてブログが社会的に認知され始めた表れといってもいい。

世界中の家電・情報産業などから2700社の出展があるCESには、毎年1月初旬の開催期間中に15万人近くが訪れる。ショーに合わせて新製品の発表を行うメーカーが多く、その年の業界のトレンドを占う重要なイベント。大手電機メーカーを始めとする日本メーカーも出展するため、日本からの関心は高い。

米国、欧州、アジアを中心に報道陣も大挙して訪れ、ショーの期間中には関連ニュースが各メディアで一斉に流されるのが恒例。取材記者の数は数千人に上る。

ショーを主催するコーンシューマー・エレクトロニクス・アソシエーション(CEA)では、取材記者(プレス)の範疇を、
 1)法人などのエディトリアル・プレス
 2)個人で活動するフリーランス・プレス
 3)企業に所属して業界の分析活動を行うアナリスト
の3種類に分類。

過去半年以内に業界関連の署名記事を書いたことがあり、なおかつ媒体責任者からの紹介状を持参することなどを条件に、要件を満たす申請者に対して取材パスを与えてきた。そのカテゴリーに、今年から新たにブロガーが加わった。

ブロガーの取材資格は報道陣と同じ。展示会、記者発表、基調講演、カンファレンスといったすべてのイベントに無条件で無料アクセスできる。違うのは、首からぶら下げるパスの色がプレスは赤なのに対して、ブロガーはグレーなこと。それに、報道陣用の部屋(プレスルーム)とは別に、ブロガー用の部屋(ブロガーラウンジ)が設けられていることぐらいだ。

CEAによると、ブロガーとして事前に登録した人数はおよそ300人。プレス・アナリストの事前登録数である4500人の10分の1以下だが、それでもプレスルームと同様、2つの会場にそれぞれブロガーラウンジが設けられるなど待遇は悪くない。ブロガーたちは記者と同様に取材をして、ブロガールームで原稿執筆とブログへの記事のアップロードを行う。

ブロガー記者として登録を認められる基準は何だろうか。ブログを作り、「ブログを持っています」といえば、誰でもブロガーには違いない。CEAの広報担当者は、「インターネットの世界は日々進歩しているので、一律にはいえないが」と前置きした上で基準を話してくれた。それによると、今までに掲載された記事の内容が家電・情報系であること、また該当するブログに広告が掲載されていること、などを元に個別に判断するという。どれだけプロフェッショナルに活動しているかを見ているわけだ。

ショー2日目の午後4時過ぎにブロガーラウンジを訪れてみると、かなり広めの部屋は閑散とした感じ。11人のブロガーが、それぞれラップトップパソコンに向かって黙々と作業をしていた。

設備はそこそこ。プレスルームには、ずらりと並んだデスクトップパソコン、ネットワーク回線、プリンター、電話、ファックス、食堂、資料室、テレビなどがある。しかし、ブロガーラウンジには、そういったものはあまりなくて質素。それでも仕事をするには十分。大勢でごった返すプレスルームより集中できそうだ。

ブロガー登録記者のエドゥイン・キーさんも、ここで仕事をしていた一人。Ubergizmoブログの記者で、マレーシアから取材に訪れていた。Ubergizmoはサンフランシスコに本拠を置くブログ発行者。英語、フランス語、スペイン語、中国語、ドイツ語、ポーランド語の6ヶ国語で家電・情報関連の新製品を紹介している。

キーさんは現地記者として採用され、ブログに製品記事を書いている。CESに取材で来るのは昨年に続いて2度目で、前年はプレス扱いとして登録した。新しい制度ができたことから、今年はブロガーとして登録したという。

キーさんの例でも分かるよう、登録をしているブロガーのほとんどは、企業が直接運営したり、何らかの形でサポートをするブログの専属ブロガーとして働いている。キーさんやそれ以外のブロガーにも聞いてみたが、いわゆる個人でブログを運営するプライベート・ブロガーが取材に来ているという話は出てこなかった。

個人では交通費や宿泊費を自分で負担しなければならない。いってみれば、そこまで余力のある人たちが育つまでには、まだブログは成熟していないということだろうか。

しかし、ブロガーに取材の門戸を開いたのはショーの主催者として賢い方法だ。いまや人気ブログは10万人単位の読者を持ち、マスメディアに劣らないほど影響力も拡大している。ブロガーによる宣伝効果は、特にCESのような情報系のイベントでは甚大だ。

それにしても、出品者の記者発表会の席で、プレゼンテーションが行われているそばから携帯電話や携帯端末に原稿を打ち込む記者の姿を何人か目にして考え込んでしまった。ブログであれば、原稿を携帯端末から簡単にアップロードできる。つまり、AP通信やCNNよりも早いニュース速報が、個人のブロガーでも簡単にできてしまう時代になったのだ。日本でもやがて、同じことが起きるかもしれない。

製作過程で何段階かのチェックが入る既存マスメディアの手法ではこうはいかず、ブログにスピードで太刀打ちするのはもはや意味がなくなってきている。

とはいえ、日本の場合、記者クラブ制度に代表される閉鎖的な従来のやり方を続けて、ブロガーを報道の現場から締め出すような真似だけはして欲しくない。そんなことを続けたら、回りまわって自分の首を絞めるだけだ。何か、新しいやり方を考えないといけない時期に来ている。

 

【関連情報】

○キャズムを超えろ! 2008/01/10
 「全世界の家電メーカーが力を合わせてもApple1社に勝てなかった日」
http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20070110/p1


○CNET  2008/01/10
 「ネットと手を組む家電、人気の的はYouTube--CES 2008」
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20364564,00.htm


○CNET  2008/01/10
 「フォトレポート:CES 2008で見た、世界の最新ケータイの数々」
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20364531,00.htm


○IT-PLUS  2008/01/15
 小池良次「CES2008に見る今年のビジネストレンド」
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMIT2h000015012008


○ITmedia News  2008/01/11
 「2008 International CES:復活を遂げるプラズマテレビ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0801/11/news034.html


○古川享ブログ 2008/01/14
 「CES2008を訪問して、その3....
 CESはガジェットの宝庫なり!! あれも欲しい、これも欲しいっ!!!」
http://furukawablog.spaces.live.com/blog/cns!156823E649BD3714!8927.entry


○CES 2008 WowWee  Tribot(YouTube映像 00:57)
http://jp.youtube.com/watch?v=K1A-u-cMTqg


○Femisapien dance at CES 2008(YouTube映像 00:16)
http://jp.youtube.com/watch?v=4POl1AHAn6g


○CES 2008 - WowWee Bladestar(YouTube映像 01:25)
http://jp.youtube.com/watch?v=fRPPd1ND2fs

 

▼ブロガー関連情報

○メディア・パブ 2007/12/20
 「ウェブセレブのトップ25,Forbesが選ぶ」
 米経済誌Forbesはセレブを品定めするのが好きなようだ。
 このほど,ウェブセレブ・ランキングThe Web Celeb 25なるものを
 Forbesサイトに掲載していた。ブロガーが多く並んでおり,お堅い
 経済誌にしてはかなりマニアックな選出である。
http://zen.seesaa.net/article/73622304.html


○Heartlogic「アルファブロガー」への視線 2007/12/07  
 「ブログってのが一体なんぼのもんなの?」という人たちに対して推薦できる
 質の高いブロガーのリスト、というのがアルファブロガーであるべきで、
 つまり「アルファブロガー」というのは、いわゆるブログスフィアの外からの
 視線を意識して存在すべきものなんだと思う。
http://www.heartlogic.jp/archives/2007/12/post_438.html


○エキサイト ウェブアド タイムス 2007/04/05
 「SONY×100SHIKI PR Board 口コミマーケティング成功の秘訣」
http://www.excite.co.jp/webad/special/rid_266/


○忘却防止 2007/05/08
 NHK クローズアップ現代『“カリスマ”続々登場!ブログ新時代』 を観ました
http://d.hatena.ne.jp/hatayasan/20070508/p1


○ITmedia News  2006/12/21
 「情報発信」「熱烈読者」……ブロガーの6タイプ
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/21/news082.html

 

 


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