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ネット動画CM戦略は難しくない━ 弱者(中小企業)こそウェブマーケティングが重要

  • MediaSabor 編集部

昨年12月、2回にわたって広告批評 編集部の河尻氏から2007年世界の“裏”CMベストテンというタイトルのエントリーをいただいた。

「NO STYLE 広告論 YouTubeで見る! 2007世界のCM“裏”ベストテン(前篇)」
http://mediasabor.jp/2007/12/no_styleyoutube_2007cm.html

「NO STYLE 広告論 YouTubeで見る! 2007世界のCM“裏”ベストテン(後篇)」
http://mediasabor.jp/2007/12/no_style_youtube2007cm.html


この中で、最も印象に残ったCMは、後篇で第三位に挙げられている
 Blendtec 「Will it Blend?」
http://jp.youtube.com/watch?v=B8H29jU8Wrs

家電ミキサーのCMだが、まわりくどい小細工なしで、ストレートかつシンプルに商品の特性を伝えている。それでいてインパクトがあり、別バージョンも再生したくなる映像に仕上がっている。これを機に、売上が数倍にも拡大したそうだ。

もちろん、商品自体の性能が強力だからこそ生まれたクリエイティブアイデアに違いないが、世の中には、優れた商品を保有していながら、コンシューマーの認知度が低いために、売れ行きが芳しくないという企業はたくさんある。物を売るためには、まず、商品の存在、特徴を知ってもらうことが大前提だ。

広告予算が潤沢な大企業であれば、マスメディア広告をバンバン打って大規模なプロモーションを展開することが可能である。しかし、広告予算が少ない多くの中小企業は、工夫とアイデア、戦略、チャレンジ精神が要求される。

ネットユーザーが急拡大し、様々なネットサービスが普及しているにもかかわらず、どうも日本の中小企業はウェブをうまく使いこなしていないように感じている。あまりにも難しく考えすぎなのではないか。上記で取り上げたBlendtec社のように、もっとシンプルにチャレンジングに取り組んでほしい。ウェブというツールは弱者にとってこそ、その利用価値は高いものであるし、弱者こそネット活用を真剣に検討すべきである。

高額なマスメディア広告を使えないとしたら、大企業がマスメディアに投下する10分の1、100分の1の金額でオンライン広告によるマーケティングを中心に行うことになる。現在は、特定のターゲット層を狙うのであれば、むしろ、ネットのほうが有効な場合もある。

但し、ネット動画CMを展開する場合に留意しなければならない点は、テレビCMと異なり、作ったら、それでオシマイというわけにいかないことである。その動画CMを多くの人にみてもらうための「きっかけ作り」(シーディングとか種まきと表されます)の作業が必要になる。

なので、単にCM映像を制作できる会社に依頼すれば事足りるというものではない。依頼を受けた会社が、クライアントの事情を充分把握したうえで、最適なオンラインマーケティングをコンサルティングできるか、親身になって相談してもらえるか、そのうえで、どんなスキルを持った企業との連携をすべきかを含めて広告プランを提案できるか、が重要になってくる。

ネットマーケティングというものは、本当に面倒で、複雑で、マス広告に比べて効率が悪いものである。企業内の販促担当者にとっては、考えることが多すぎて、頭が痛くなる類のものかもしれない。

だが、統計的にも、マスメディア接触の時間が減少し、ネット、モバイル機器(携帯電話など)との接触時間が増え続けている現代においては、オンラインでのPRをいかに行っていくかという課題から避けて通れなくなっていることも事実だ。

マス広告かネット広告かの二者択一ではなく、その企業の資本力やブランディング戦略などによって、マス広告とネット広告の投下比重を決定し、費用対効果に応じて、その割合を適宜修正していく姿勢が求められる。

ネット広告は、マスメディア広告のような即効性には欠けるかもしれない。しかし、限られたターゲット層に、様々な手法を駆使して、継続的にコミュニケーションし続けることが、長い目で見て一過性でない多くの固定ファンづくりに繋がる。労力は要るが、継続的努力は将来の成果に相関してくるはずだ。

オンラインマーケティングの技術は日々、進化している。だから、実際に試行錯誤を繰り返しながら、より適したものを求める作業を行っていないと、大きな波には乗り切れないことになってしまう。「もっと、ネットの影響力が大きくなってから」、などと、のんびり構えていたら2─3年後には、ネットに注力している同業他社との差が巻き返しの効かないほど大きなものになっている可能性が高い。

企業内のプロモーション担当者にとっては、広告代理店や映像制作会社におまかせの要素が高いマス広告のほうが楽であろう。けれども、数年後の人材マーケットで高い評価を受けるのは、ネット戦略に長けた人材なのではないだろうか。米国では、すでにそうなっているのだろうが、新自由主義(ネオリベラリズム)により、様々な制度変更が行われ米国型社会が構築されつつある日本が例外ということにはならないだろう。

旧来の社会構造は解体されつつあるのである。古い構造のままの日本でなくなるのだとしたら、新たな体制に順応できるよう自己を意識改革していかなければならない。そのための重要な役割を担うのが企業のトップである。トップの意識で社員も変わる。社員はトップの言動、行動に敏感に反応する。逆に言えば、トップの考え方が旧態依然のままだったならば、社員の意識も変わらない。

ネット戦略に長けた人材が、なぜ、将来、高い評価を受けるのか。それは、影響力が年々、大きくなっているにもかかわらず、成功のための教科書がなく、変化の激しい分野であるからだ。継続的な試行錯誤を地道に繰り返し、年月をかけて貪欲に体得した者でなければ実践的なノウハウを持ち得ない分野であるといえる。

 


【関連情報】

○anti-monosの新メディア論 2008/01/01
 「なぜ今年も紅白歌合戦の視聴率は低迷するのか ─巨人戦と紅白歌合戦の相似形─」
http://d.hatena.ne.jp/anti-monos/20080101/p1


○CNET  2007/10/26
 動画広告はユーザー主導に--Google高広氏が語る「Advertising as Content」
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20359639,00.htm


○CNET  2007/09/28
 ライバルは「ニコニコ動画」?--YouTubeとAdwordsで進める、
 グーグルの動画広告戦略
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20357377,00.htm


○nikkei BPnet  2007/07/12
 「ネット広告費、2011年には7558億円に モバイル広告が高い伸び率を示す」
http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/databox/nmdb/070712_netad2011/


○エキサイト ウェブアド タイムス 2006/10/03
 織田浩一インタビュー 「テレビCM崩壊」は海の向こうの話なのか?
http://www.excite.co.jp/webad/special/rid_4/


○大西 宏のマーケティング・エッセンス 2006/10/14
 「GoogleのYouTube買収は愚なのか?」
http://ohnishi.livedoor.biz/archives/50253311.html

 

 


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